悲劇予定のヒロインと連続エンカウントする少年。彼の残機は99

濵 嘉秋

第1話 邂逅のち襲撃

 迫りくる無数の銃弾に成す術なく撃ち抜かれる。覚えているのはそこまでだった。

 次の目が覚めた時には辺り一面が血で染まり、立ち尽くす少女の姿だけがいやに強調されて映った。


「え、る……」


 致命傷を受けた。即死したはずの体で立ち上がり、彼女と対峙する。

 目の前にいるのは彼女であって彼女じゃない。結果的に少女を捕らえようとした連中が望んだ状態になっている。

 組織の言うことを信じるなら、少女は元の優しい性格を消失して、人間を超えた神の領域に到達するんだろう。


「そんな結末は認めない……俺が、ハッピーエンドに変えてやるよッ‼」





 12月30日。大晦日がすぐそこまで迫るこの日に、猫真創ねこまたくみは第四地区の大型商業施設に来ていた。

 目当てはここの目玉でもある大型スクリーンによる映画鑑賞。学生二人分の料金は2千円…本土にいる両親から送られた早めのお年玉とクリスマスのバイト代がある猫真にとっては無料タダも同然だ。


「面白かったねドクター・クロス!完結っていうのが寂しいけど…」


 前を進む銀髪が揺れる。一緒に住み始めて五日目…その中でハマったらしい医療ドラマの最新作兼完結作に少女はご機嫌だ。

 猫真も公開初日に観ていたのに二回目も楽しめた。伊達に20年近くのキャリアを持っていないというわけか。


「ねぇタクミ!せっかく来たんだし、ここでお昼食べていこうよっ!」


 振り返った銀髪少女・エルの提案を、猫真は前向きに受け止める。全財産は10万近い…高校生にとっては超がつく大金だが、同時にその儚さも理解している。

 一人あたり約2千円はするこの施設のレストラン群は散財の第一歩にしかならないのではなかろうか。


「じゃあせっかくだし…焼肉行くか!」


 だが所詮は馬鹿で短絡的な男子高校生・猫真創。未来の苦しみは未来の自分に押し付けることにした。


「て、いうかエル。その恰好、気に入ったのか」


「え?うん」


 通り過ぎる人の中で、少ないながら視線を感じる。

 その理由はエルの容姿が日本人離れしているかつ整っているからという他に、その服装も起因していると思う。

 簡単に言うとサンタ。サンタクロースの女の子バージョンのような服を着ているのだ。


「だってタクミが買ってくれたんでしょ?」


「そうだけど、あれは仕方ない状況だったからで」


 そもそもこの服をエルに与えたのは猫真だ。

 出会った時の彼女が聖夜の寒空の元でほぼ布一枚とかいう格好だったから目に止まったコスプレ店の目玉商品を購入したに過ぎない。

 とりあえず危機が去った今なら他の服を買う選択もあるのだが、どうもエルが気に入っている。


「とにかく、暖かくなるまではコレでいいの!三着もあるんだからさ?」


 彼女と出会ったときのアレコレが片付いた後、エルにせがまれて件のコスプレ店で同じ服を二着追加購入した。あの時の店員の何か勘違いしている嫌な笑みを思い出しながら、「本人がいいなら…」とこの話題を終わらせる。


「それより焼肉だよ!焼肉!早く行こうよっ!」


「分かったから走るな、人多いんだからっあ、」


「うわぁっ⁈」


「おおっと…大丈夫?」


 言った傍から人とぶつかった。

 尻もちをついたエルに手を差し伸べたのは紫がかった黒髪の女性。見た目は大人びているが、学生服な辺り猫真とそう変わらない年齢なのだろう。

 その手を取って立ち上がったエルは申し訳なさそうに頭を下げる。


「ごめんなさい。前を見てなくて」


「気にしないで。私も同じだから……でもここは人が多いから、彼氏さんと手をつないでおいた方がいいと思うわ」


「んぇ?……あ、ち、違います⁉タクミはそういうのじゃなくて」


 顔を紅くしてアワアワしだすエルを面白そうに見る黒髪の女性。明らかに反応を楽しんでいる。

 やがて猫真の視線に気づいたのか、ニコリと笑いかけた。その威力たるや…さぞ学校でおモテになっているのだろうと容易に想像がつく。


「…タクミ?」


「えっ、あ、なに?」


「知らない!知らないけどお肉はたくさん食べるから!」


「おい?お前がそう言うと本当にたくさん食べるじゃん。俺のお年玉とバイト代が危なくなるじゃん⁈」


 不機嫌になったエルに土下座しそうな勢いの猫真。黒髪の女性だけではなく周囲の目まで自分たちに集まりだしたのだが、当人たちは気づかない。


「あぁ…あんまり困らせちゃダメよ?……ごめんなさい、もっと困ったことになりそう」


「え?」


 黒髪の女性が制服のポケットからビー玉を取り出すと、それを弾く。彼女の手を離れたビー玉は緑色の薄い板を作り出し、何かを防いだ。

 直後、追加で生成された4つのバリアから発された破裂音と、による実的被害で辺りは悲鳴と逃げ惑う人の波に包まれる。


「離れた方がいい。狙いは私だから、それで逃げられる」

 

 狙われているのは自分。だと言う彼女の瞳は冷たく、それでいてこの状況を非日常だとは思っていないような余裕を感じる表情だった。

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悲劇予定のヒロインと連続エンカウントする少年。彼の残機は99 濵 嘉秋 @sawage014869

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