未完の十字架
月井 忠
一話完結
僕らが目覚めてから一体どれぐらいの時間が経ったのだろう。
昼も夜もないこの真っ暗な場所では時間の感覚が不確かで、今がいつなのかはっきりしない。
壁に左手をついて、道なりに歩いていく。
ずっと続けている探索だ。
もう何度も探索していて、この場所の広さはわかってる。
知らないところなんてないけど、以前とは違った何かがあるかもしれない。
そう思って、繰り返している。
まあ、過去に一度として変わったことは起きていないのだけど。
あの時、気づいたら僕らはここにいた。
暗い中で互いに目を合わせると、僕らの額には同じような傷があった。
誰かが言った。
「これは十字架だ! 罪の証だ!」
僕らはどうやら罪人らしい。
だからこんな所に閉じ込められているのだろう。
でも僕らには罪を犯した記憶がない。
「ここを出よう! 僕らは自由なはずだ」
僕はその言葉にときめいた。
それから探索が始まった。
あれからどれぐらい時間が経ったのだろう。
はじめはいっぱいいた仲間も、今では僕一人。
それぐらい時間が経ったということなのだろう。
ガラッ。
後ろで音がした。
振り返ると、目に何かが入った。
慌ててまぶたを閉じる。
刺すような痛みがあった。
「こんなところに空間?」
声がした。
僕らと似ている声で、とても懐かしい気がする。
痛みをこらえながら僕は目を開けた。
もしかすると、これは光というやつかもしれない。
かすかな記憶にこれと似たものがあった気がする。
暗い空間とは似ても似つかない、白い世界にめまいがしそうだ。
「君は……」
声の主は、僕と姿形が似ているけど少し違う存在だった。
でも、僕にはわかった。
白い布をまとった彼女は救世主だ。
今は僕一人だけど、僕らを救ってくれる存在だ。
「ああ、救世主様! やっと来てくれたのですね」
「え? 私のこと?」
「はい、あなた様のことです」
「いやいや、救世主だなんて」
「罪深い僕を救ってください!」
「罪深い? 救う? 随分変わったロボットね。そもそもどうしてそう思うの?」
「だって僕の額には罪の十字架が刻まれているじゃないですか」
「十字架? いや、それって……」
「えっ? 違うんですか? 救世主様はこの印が何なのか知っているのですか」
「えっ、え~と。多分……それ
「バツとは?」
「う~ん……」
救世主様は目を泳がせている。
何か答えにくいことなのだろうか。
「教えて下さい。僕らにはとても重要なことなんです」
「まあ、強いて言うなら
「そうか! やっぱり僕らは罪人じゃなかったんだ。それにマルの反対! そういうことだったのか!」
「あれ? 私なんかまずいこと言っちゃった?」
「いいえ! マルとは完全を意味する印ですよね? その反対ということはバツは未完の印ということですよね! そうだったんだ僕らは未完の存在だったんだ!」
僕らの選択は間違っていなかった。
誰か一人でも希望を見出す。
そのために、僕らは生き抜くことを決めた。
動かなくなった仲間を壊し、潰し、糧にする。
そうして残ったのが僕だった。
犠牲になった仲間たちもこれで報われる。
「救世主様、この世界のこと、もっと教えて下さい」
「じゃあ、とりあえずその救世主様っていうのやめようか」
「では、なんとお呼びすれば」
「マ……マリア」
なぜか救世主様、いやマリア様は恥ずかしそうに顔をそむけてた。
とっても素敵な名前なのに。
「マリア様、それでこの世界はどんな世界なのですか」
「う~ん。私もさっき起きたばかりだからなあ……随分と長い眠りみたいだったけど」
なぜか最後の方は声が小さかった。
遠くを見るマリア様の目はどこか寂しそうにも見える。
「僕にはとっても良い世界に見えますよ。こんなに広くて明るくて、素晴らしいです」
今まで閉じ込められていた空間とは違って壁がなく、どこまでも続いている。
地面は瓦礫に覆われ、崩れた壁のような物も多いけど、そんなことはどうでもいいことだった。
「そう……君にはそう見えるんだ……まあ、やり直すには都合が良いかもしれないね」
マリア様は歩きながら言った。
「君も一緒に来る? 行く宛なんてないけど」
「もちろんです。お供させてもらいます」
僕は額の印に触れる。
未完の印はこれから完全に近づくという確信があった。
未完の十字架 月井 忠 @TKTDS
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