救助
避難誘導が終わったカミトは弟のアラトと合流し、避難所の入り口に立っていた。
一息付いた瞬間、蛇神さま(さえずりはホムラと呼んでいたが)からもらったイヤリングからメルフィーアの大声が聞こえたものだから頭が痛い。
ーーーーまさかジェネシスのやつ、わかっててやったんじゃないのか?
カミトは頭によぎった疑問を抑え込むと苦々しい顔でアラトに声をかけた。
「アラト、悪いが・・・」
「了解。兄さん、今回は黒い方?」
「あぁ。アラト、話が早いな」
「さっきの会話、オレも聞こえてたんで」
アレだけでかい声がしたから当然かとカミトは考えた。
「兄さん、準備はいい?」
「ふぅ。もちろんだ」
二人はお互いに息を整え、構えた。
そして、印を結び、アラトは自身の刀を抜いた。
「第九楽章!空前絶後!!」
アラトは刀で空間を切り裂いた。
「第十一楽章!電光石火!!」
カミトの印が結び終わるとカミトの全身が黄金色に輝いた。
二人は空間の裂け目に飛び込み、黒いロボットの近くにあるビルの屋上に出た。
「近くまで来ました」
カミトは静かにメルフィーアに状況を伝えた。
☆★☆★☆★
「わかった!やるぞ!!ジェネシス!!」
メルフィーアはレバーを握り、ドラゴンを操作した。
クリムゾンドラゴンは勢いつけて駆け出し、黒いロボットに抱きついた。
そして、クリムゾンドラゴンの両腕で黒いロボットの両肩を抑え込んだ。
「今だ!!!!」
メルフィーアの合図と共にカミトは黒いロボットの後頭部に跳び、そこから中に入った。
ーーーー!!!!
クリムゾンドラゴン内でアラーム音が響いた。
『メルフィーア、一回下ガッタ方ガイイ』
「わかった」
メルフィーアはレバーを操作した。
紅の巨大ロボットは黒いロボットから肩を抑え込んでいた手を離し、黒いロボットから離れた。
『アノママ抑エテイタラクリムゾンドラゴンノ腕ガ壊レテイタダロウ』
「あまり動いてはなかったが」
『今、アノロボットカラ汚染サレタ魔力ガ放出サレテイル。下手シタラ腕ダケデハスマナカッタ』
「・・・危機一髪だったことか」
『ソウイウコトダ』
「カミト、頼むぞ」
メルフィーアは天に祈る気持ちでパネルに映し出された黒いロボットを見つめた。
☆★☆★☆★
カミトは黒いロボットの首の後ろにある緊急脱出孔から中には入り込んだ。
暗い通路を少し進んだ先には少し広い空間が広がっていた。
ーーーークリムゾンドラゴンのときと同じだな。
カミトは以前の事を思い出していた。
空間の中は装置が動いているせいか、明るい。
操作パネルの前で女性が倒れ込んでいた。
黒髪の女性だ。
メルフィーアよりやや小柄で黒い軍服のようなものを纏っている。
蒼光する黒い軍服、腰には日本刀。
軍服と言っても、カミトは見たことはないデザインのものだ。
黒くて癖が強い髪は長くて腰まで伸びている。
身体中を薄っすら覆う黒い靄(もや)。
「・・・・なんだ?この靄(もや)は?」
カミトは訝しげな声を漏らした。
『ナギ。彼女は邪気にやられているようだね。ここは任せて貰っていい?』
「わかった。ムイ、頼むぞ」
カミトは刀を抜き、印を結んだ。
「第五楽章!月光泉!!」
カミトが抜いた刀は光を放った。
放った光は倒れている女性を包み込む。
そして、金髪の手のひらサイズの少年が
光の中から姿を現し、黒い靄をすべて消した。
『これで大丈夫だよ』
小さい少年は微笑み、カミトの刀の上に触れると放たれた光と同時に姿を消した。
「・・・・うーん」
仰向けに寝かされている女性は髪色や体付きは違うが、カミトに時たま豪快に声をかけてくる人物と似ているような気がした。
彼女は目を覚ましたのだろう。瞬きしながら起き上がった。
「・・・・ブレッド・・・?」
カミトは誰ですか?と言いたい気持ちと女性がメルフィーアに似ているせいでいろいろ混乱しており、いろんな気持ちが入り混じっていたのだろう。
「あの・・・・クロフィーア=アースガルドさんでしょうか?」
カミトは混乱のあまり、自分でもなんで言ったのかわからないことを口走った。
「・・・プッ」
思わぬカミトの言葉に彼女は笑った。
「それを言うならクローディアでしょ?どっちにしても違うわよ」
彼女は続けた。
「・・・それにしてもどこから入ったのよ?」
「首の後ろに緊急脱出孔がついているのでそこから入りました」
「初耳ー!わたし、いつも頭にあるハッチから入っているんだけど」
カミトの言葉に女性は驚きを隠せなかった。
ーーーー!!!!
機械音が響く。何らかの通信を受信した様だ。
彼女はそのまま立ち上がると操作レバーの前に座った。
「あら。2つも来ている」
パネルの表示を見ながら彼女は言った。
「片方はあの紅いロボットね。もう一方はブレッドから来てる」
彼女はスイッチを押し、通信を始めた。
「こちら、ブラックドラゴン。助けてくれてありがとう」
『こちら、クリムゾンドラゴン。助かって良かった』
パネルにはCrimson Dragon(クリムゾンドラゴン)と表示されており、カミトにとって聞き慣れたメルフィーアの声がコックピット内に響いた。
「仲間が近くにいるみたい。多分派手にブチかましてくれるから、合図するまでそのままじっとしてて」
『了解した』
彼女はスイッチを操作し、もう一方と通信した。
『チェリー!大丈夫か?』
今度は男の声だ。少し慌ててる。
パネルにはTindalosXと表示されている。
「あら、ブレッド。今はね。妖精使いの子に助けて貰ったわ」
『妖精使い?詳しい話は後でいい。それより今いる座標を送ってくれ』
「いいわよ。じゃぁ、派手なの一発頼むわ。まず10分くらい時間ちょうだい。それまでこっち温めておくわ」
『わかった』
彼女は通信を切るとカミトのほうを向いた。
「じゃぁ、妖精使いさん、そろそろ退散お願いね。わたしはチェリー=フォルディ」
「オレはカミトです」
黒髪の女性は笑うとこう言った。
「じゃぁ、妖精使いのカミトくん、またいつか」
カミトは頭を下げるとその場を去った。
行きと同じ緊急脱出孔から外に出て、近くのビルの屋上でアラトと合流した。
そして二人は急いでその場を去った。
カミト達が去った後、二体の色違いの巨大ロボと、そして金属板怪獣が残された。
「さてと、カミト達も逃げた事だ。あの怪獣をなんとかするぞ」
メルフィーアはレバーを握った。
ーーー!!!
通信が入る音が響いた。
『サファイアドラゴン・・・・登録コードハ同ジダガ何故カ登録名ガブラックドラゴンニナッテル!?』
「いろいろあって名前が変わっただけなんじゃないか?ジェネシス、繋げてくれ」
『了解シタ』
『はい!ちょっと待った!今から仲間が派手なのをブチかましてくれるからそのままじっとしてて』
パネルにはBlack Dragonと表示されており、パネルの横に設置されたスピーカーから女性の声が響いた。
「わかった」
メルフィーアは返事をした。
その瞬間
ーーーードカァァァァァン!!!!
派手な爆音が響いた。
黒いロボットの近くにそびえ立っていたアンテナ塔が破壊された。
「おおっ!!」
『邪魔な装置は壊れたわ』
通信のスピーカーから黒いドラゴンのパイロットの声がする。
複数の金属板を組み合わせたような怪獣は何かを呼び出すような仕草をした。
そして、似たようなのが数体、姿を現した。
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