幼なじみとルームシェアを始めたらめっちゃ可愛い件
くろい
第1話幼なじみ
深夜2時、俺はインターホンの音を聞いて目を覚ました。
まさかな? 俺の聞き間違いだと思い、恐る恐るインターホンの画面を見た。
どうやら、インターホンの音は幻聴ではなかったようだ。
なぜなら――
少し髪の毛がぼさっとしている一人の女性がスーツケースと一緒に玄関前に立っていたのだから。
顔はハッキリと見えず、誰なのか判別もつかない。
こんな時間に来る相手に心当たりなんてないし、俺は見なかったことにした。
しかし、俺の恐怖体験はまだ続く。
俺が出てこないからか、またインターホンのボタンを押してきたのだ。
ピンポーン! と部屋に繰り返し鳴り響くインターホンの音。
俺は意味もなく息を殺してそっと静かに居留守を決め込むも、何度も何度もインターホンを鳴らされる。
さすがにちょっと怖いし警察でも呼ぼう。
なんて思いもしたが、ここまで熱心にインターホンを鳴らし続けるのだ。
部屋を間違っているだけの人だったら、それはそれで可哀そうである。
俺は恐る恐るインターホンに備わっている通話機能を使って話しかけた。
「あ、あの。ど、どなたですか?」
震えた声で俺がそう言うと、不審者はインターホンのマイクに向かって明るい声で話し出した。
「私、私だよ!」
俺俺詐欺ならぬ私私詐欺?
そう一瞬思ったが、声を聞いて誰が来たのか俺はわかった。
とはいえ、もしかしたら違うかもしれない。
俺は恐る恐る何度もインターホンを連打してきた不審者に聞いた。
「ひ、
「そうだけど? てか、寒いから入れてよ……」
「いや、いいけど……。なんで急に来たんだ?」
「まあまあ、それは入ってから説明するから」
いきなりやってきた陽葵に促されるまま、俺は玄関を開けた。
すると、目の前に立っていた陽葵がニコッと笑って俺に言う。
「私の住んでるアパートが火事になっちゃったんだよね」
なるほどな。一駅離れているところに住んでいるが、十分近くに住んでいると言える俺の部屋に避難してきたってことか。
にしてもあれだな。荷物をまとめたスーツケースを持っているし、燃えたのは他人の部屋で自分の部屋が燃えたわけではなさそうでなによりである。
ただまぁ、俺の部屋に避難をしてくるのは別にいいのだが電話のひとつくらいは欲しかった。
「深夜にインターホン鳴らされてめっちゃびびったんだからな?」
「ごめんごめん。面倒くさいし良いかなって」
「あのなぁ……」
「で、あれ。
「お前の母さんにも何かあったらよろしくね~って頼まれちゃってるしな」
困った幼なじみを無視するなんて酷いことはできない。
俺は火事で避難してきた陽葵を部屋に招き入れるのであった。
※
俺の部屋に避難してきた幼馴染の陽葵。
俺の部屋に入ってきた彼女は座るや否や、疲れた~と盛大に顔をローテーブルの上に突っ伏した。
そんな彼女が持っていたスーツケースをちらりと見て言う。
「お前、しれっと逃げる際に貴重品とかそれにまとめただろ」
陽葵のスーツケースを見るに、すぐに逃げるのではなくしっかりと貴重品をかき集めたのは明らかだ。
「私の部屋1階だったし、いざとなればベランダから逃げれる! ってのもあってちょっと欲張っちゃった」
「……次からはマジで荷物なんて無視して逃げろよ?」
「うん、絶対にそうする」
しっかりと反省しているようだし、これ以上このことをつっつくのは野暮だろう。
部屋の中央に鎮座しているローテーブルに顔を突っ伏している陽葵を俺は励ました。
「お疲れ様。本当に大変だったな」
「うん、鎮火するのはすごく早かったんだけど、燃えたのがお隣さんでね……。私の部屋も致命的な被害を受けちゃって当面は住めないレベル」
「そんなレベルでか……。てか、おばさんに連絡とかは?」
「お母さんにはもう連絡したよ。そしたら、あんたのことだからホテルに泊まれるほどの現金持ってないでしょうし、今日はひとまず晴斗くんに助けてもらいなさい~って」
陽葵とはかれこれ18年間の付き合いがあり、下手な兄妹なんかよりも仲が良い。
そりゃもう、トラブったときに頼る先になるくらいにはな。
さてと、簡単にだけど聞くことは聞いたしな。
少し煙たい匂いが漂うなか、俺は陽葵にシャワーを浴びることを勧めた。
「シャワー浴びて来い」
俺がそういうや否や、陽葵はにやにやと俺を揶揄ってきた。
「お世話になるんだから体で返せってこと!?」
「ちがうわ!」
「あははは、冗談冗談。んじゃ、お言葉に甘えてちょっと煙臭いしシャワーを貸して貰おうかな」
「石鹸とか気にせずガンガン使っていいからな」
「あーい」
陽葵は返事をするや否やお風呂場へと消えていった。
現在の時刻は深夜2時30分。
普段はこの時間は寝ていることもあってか、普通にあくびがとまらない。
とはいえ、先に寝るわけにもいかないので眠気に耐えていたときだった。
お風呂場の方から陽葵の声が聞こえてくる。
『タオルとかどこ~?』
用意してやるの忘れてた。
どうせ着替えも持って行ってないんだろうなと思い、陽葵に聞き返す。
「着替えはあるのか?」
『な~い』
「持ってきたスーツケースには?」
『服入ってるけど漁られるの嫌だから、とりあえず何か貸して~!』
というので、適当なジャージを取り出しタオルと一緒に脱衣所へ。
で、中を見ないように少しだけ脱衣所のドアを開けて中にそれらを放り込んだ。
「それでいいだろ?」
『ありがとね』
「んじゃ、戻るから」
再び部屋の方に戻ると、陽葵もすぐにシャワーを浴びて俺が渡したジャージを着て戻ってきた。
「ふー、綺麗さっぱり。ジャージありがとね」
「ひとまず、今日は夜遅いし寝るぞ。適当にクッションやらを使って寝てくれ」
俺はベッドに寝転びながら陽葵にそういった。
一人暮らしの部屋にはベッド以外の寝具などないし適当にクッションやらを使ってくれと陽葵に言ったのだが、陽葵というのは名前の通りに明るくて、わりと天真爛漫な性格をしている。
「ずるい!」
容赦なく俺が寝ているベッドに侵入してこようとする。
そして、そんな彼女にやられるような俺ではない。
俺はベッドの上で手足を広げて陽葵の侵入を阻止する。
「いいや、ベッドは俺が使う。居候は大人しく床で寝てろ!」
「いやだもん。私もベッドが良い!!!」
「わがまま言うなって」
「ぐぬぬぬぬ……」
陽葵は悔しそうに唸る。
うるさいし、さっさと寝てしまおう。
しかし、目を閉じようとした瞬間、陽葵が俺の体に乗ってきた。
ボブヘアーで可愛い顔をしている女の子が体の上に乗ってくるというのは普通なら嬉しいのだが……。
相手は幼馴染の陽葵だ。
微塵も興奮しないどころか、うざったい気持ちしか湧いてこない。
「重い」
「いやいや、可愛い女の子に乗られてるんだよ? そこは喜ぶべきじゃない?」
「可愛いのは認めるけど、陽葵だからなぁ……。普通、幼馴染に興奮しないだろ」
「漫画では興奮しまくりじゃん」
「てか、いい加減に俺の上から降りろって」
邪魔だと払いのけようとすると、まだベッドで寝るのを諦めきれないのか陽葵は俺をわざとらしく焚きつけるように揶揄ってきた。
「そんなに必死に降りろって……。あ、もしかして、あっちの方が元気になっちゃうからとかぁ?」
「ないない」
「そんなこと言っちゃって。ほんとはもう……」
陽葵は手を俺の下腹部あたりに回してまさぐってきた。
昔は互いにふざけて電気あんましあったこともあったっけとか思い出しつつ、俺は陽葵にされるがままでいるときだった。
陽葵は悔しそうな顔で俺の下腹部をポンポンと強めに叩きながら告げた。
「ほんとに反応ないね」
「ま、幼馴染だし」
「……それはそれでなんかムカつく!」
何が何でも俺のアレを反応させようと陽葵は執拗に弄ってくる。
お前は痴女か。
刺激を与えられたら普通に元気になるのが男という生き物なわけで、このままだとガチで元気になりそうなこともあり俺は陽葵をわりと強めに止めにかかる。
「やめろって。お前で興奮はしないけど、さすがに物理的刺激を受け続けたら普通に元気になるから」
「そうなの?」
「……なるほど。陽葵さんはまだ初心なんだな」
上京した時点では陽葵に恋人がいないし、居たこともなかったのは知っていた。
大学生になってから半年を過ぎてるし、そろそろ陽葵にも彼氏の一人くらいは出来たんだろうな~とか思っていたけどまだ出来ていないようだ。
「きもっ。なにその言い方。てか、何を思って彼氏がいないと判断したの?」
「性知識がアップデートされてないところとかで」
「……なるほどね。てか、初心とかからかってくるけど晴斗こそ彼女いないの?」
「いたら、今俺の上に跨ってるお前をぶん投げてる」
普通に今の状況は彼女が居たら、彼女に申し訳ないし浮気って言われても反論できない状況ではあるからな。
とまぁ、絶賛彼女募集中な状態なことをカミングアウトすると陽葵は笑う。
「上京したらすぐに彼女を作るとかほざいてたくせにね」
「おまっ、お前だってイケメンの彼氏をすぐに捕まえるとか言ってただろうが」
「ふふっ、こう見えて私はモテてるんですよ? ただ恋人に発展しないだけで」
「お、俺だってモテてるからな」
見栄を張ったものの、ぶっちゃけた話をすると全然モテてない。
普通にコンパ行っても、なぜか女の子からの受けは良くなくて、気が付けばちょっと距離を取られていることが多い。
見栄を張った俺に対し、たぶん可愛くてガチでモテてる陽葵はというと、優し気な目つきで俺を慰めるかのように言う。
「うん。そうだね。晴斗ってカッコいいもんね」
「……くっ。てか、ホント寝たいからいい加減にしろ!」
「もう良くない? このままで」
陽葵は俺の体の上に乗ったまま寝ようとし始めた。
はぁ……。もうしょうがない。
俺は諦めてベッドの半分を陽葵に明け渡すことにした。
「ほら、半分分けてやるからどけ」
「その言葉待ってた! んしょっと……」
陽葵の重みから解放された俺はベッドの半分を空けた。
するとまぁ、陽葵は遠慮なくその空いた場所にすっぽりと収まる。
こいつ、ガチか……。マジでこのまま俺と一緒にベッドで寝る気なのか?
「この年になって幼馴染と一緒のベッドで寝ることになるなんてな……」
「私もこうなるとは思ってもなかったよ」
「さてと、本当に寝るぞ」
「うん、お休み~…………」
陽葵は疲れていたのだろうが、火事のせいでアドレナリンがドバドバ出ていただけなのだろう。お休みといった瞬間に、電池が切れたかのように陽葵は静かになった。
18歳にして、また幼馴染と一緒の布団で寝ることになるなんて本当にあれだよな~とか思いながら、俺も寝るために目を閉じるのであった。
※
朝というのには少し遅い時間に俺は目を覚ました。
起きたら横に陽葵の顔がある。
狭苦しいベッドに男女二人。それなのに、普通に何事もなく朝を迎えたなぁとか思いながらも、幸せそうに寝ている陽葵の頬を引っ張って遊ぶ。
ベッドを半分譲ってやったんだから、このくらいは許されるはずだ。
遊び始めてから数十秒後、やわらかいほっぺの持ち主である陽葵が目を覚ました。
「おあよ。私の頬っぺたでなにしてるの?」
「遊んでる。駄目だったか?」
「別に?」
「で、今日はこれからどうするんだ?」
俺は陽葵の今日の予定を聞いた。
するとまぁ、やっぱり火事のせいで色々と精神的にお疲れなのだろう。
「ひとまず二度寝!」
「ったく、お前ってやつは……。二度寝するのはいいけど、不動産屋とか、保険会社とか、大事な連絡はきちんと今日中にしろよ?」
「わかってるって」
「さてと、二度寝する陽葵さんやい。俺はこれからちょっと出かけてくるけど、何か欲しいモノは?」
俺は二度寝を決め込もうとしている陽葵に聞いたら、本当に疲れていたのか陽葵から返事は帰ってこなかった。
どうやら、もう夢の中に旅立ってしまったらしい。
「寝るの早すぎだろ……」
住んでいたアパートが火事になり、俺の部屋に避難してきた陽葵。そんな彼女のせいで当面は騒がしくなりそうだ。
俺は苦笑いをしながら着替えを済ませ、ちょうど冷蔵庫には何もなかったこともあり、食料を買うために近所のスーパーへと歩き出すのであった。
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