3

「失敗しました」


 新来者の部屋を出ると、メイペスは、明白あからさまに顔面蒼白で悄気ている。


「面白かったですよ。伝えるべきことはきちんと伝えたので、後は彼ら次第です」

 とは言うものの、アンスタウトは正直なところ、何故、彼女が気を落としているのかまでは分からなかった。


「お話は、絶対に感情的にならずに、冷静に且つ端的にしろと、パートロに口酸っぱく、何度も何度も何度も、注意されたのに」

 成程、幾度ともなく指摘されていたのか。

 余程、強く念を押されていたのだろう。

 アンスタウトは漸く、納得がいった。


「あなたは、あなたですよ」

 恐らく、パートロとは生まれた時から一緒にいるのだから、会ったばかりのアンスタウトが何を言ったところで響かないだろう。

 と、思っていたのも束の間。

 メイペスは明るい表情を見せる。

「そうですよね。やっちゃったことは仕方ないですよね。後は野となれ花となれ、です。後悔は先に立たないのですっ!」

 何て切り換えの早い娘なんだ、落ち込みが嘘のようだとアンスタウトは少々、面喰らう。


 なので、ほんのちょっとだけ、お灸を据えて、ご機嫌を伺う。

「まあ、無責任に放り出せないのが難点ですが。とはいえ、鬱憤を吐き出したいのではないですか?この場ではなんですから、部屋に戻ってお茶でもいかがですか?お訊きしますよ」と言うアンスタウトの提案に、

「はいっ!」と、元気良く答えるメイペス。


「くっ、は…あははっ」


 破顔一笑。

 堰を切ったようにアンスタウトが声を出して笑っている。


「……笑いすぎではないですか」

 メイペスは、火照った頬を押さえアンスタウトを睨む。

 でも、何だろう。

 自分の対となる彼が、こんな無邪気な笑顔を見せてくれる人で良かった、と思った。


「では、参りましょうか」

 アンスタウトは、目頭を拭ってから、優雅に手を差しのべた。


 その上品な仕草に目を奪われたメイペスは、精一杯の照れ隠しも兼ねて

「美味しいお菓子も所望致しますわよ」

 と、わざと鯱張しゃちほこばりながら、彼の手を取る。


「何でしたら、ヴレノシュに聞いたパートロの失敗談もお付けしましょうか?」

「まあ、それは素敵ですわね」


 そんな遣り取りが、再びアンスタウトの笑いのツボに触れ、メイペスも釣られるように笑い出した。


 お茶会は結局、メイペスがお菓子に夢中になって終わり、せめてパートロの失敗談は聞いておけば良かった、と思ったが後の祭りだった。


 

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