第4話

バイトが終わった午後8時頃。とぼとぼと寮へ帰る。ふぅ、話したら少し気が紛れたかな。途中、前からすごい速さで走ってくる男子中学生がいた。なんなんだあの子。…て!

俺の目の前で止まった。


「もしかして!すぐる、くん?」


「え…?」


くんって、君は中学生だよね…?そして、その子にまじまじと顔を見られた。


「あはは!やっぱりー!優くんだー!俺のことわかる?艶耀えんようだよ?」


「艶耀?ってチビの保育園一緒だった?で、裟南ちゃんの弟?」


「そーでーす!えんよーでーす!元気だったー?嬉しいなぁ~!」


元気いっぱいでしゃべるこいつは、あの艶耀ちゃんと呼ばれていた子であろうか?少し美形かもしれない。


「優くん!ねぇ、一緒に遊ぼうよ」


「いきなりなんなんだよ…。なんか身長高くなったなぁ」


「そーかな?160だよー?」


「俺より高いじゃないか」


「優くんは変わってないねー!まつげ長い!」


「まつげをどうしろってか?…何?そんなじろじろ見ないでくれる?」


「なんかー優くんたくましくなったね?」


「そ、そう?」


筋肉はそんなにないけど、まぁ、昔と比べるとかなりついたかな?


「まーそんなことはどーでもいいからさー!遊ぼうよー!」


「…どうでもって…ひどくない?」


「どこ行こうか?」


話聞いてないし。相変わらずだ。


「今バイト終わって帰るところだし。遊ばないよ?」


「えー?そーなの?バイトしてるの?すげー!」


「すごくないし」


「じゃあさー優くんの家に行くー!」


「家には帰らないよ」


「え?どうして?」


「家出してる」


「うそー!喧嘩したの?」


「しました。で、今は高校の寮にいる」


「へぇーそうなんだ!大変だね」


「お前も大変だな。預けられてるんでしょ?」


「そうそう。親の先輩の家だよー。ちょーボロい家」


「そうか、苦労するなぁ」


「しかもーブサイクな娘もいんの!」


「おいおい、娘さんのいる所に預けられちゃったのか」


「そー。そいつウザいんだよねー」


「へぇ。じゃあ帰るから」


「…うん。またね」


艶耀は悲しい顔をしていた。俺はそれで裟南ちゃんに振られたことを思い出して悲しくなった。


翌日、学校帰りにバイト行ってから寮へ帰る。すると、自室の扉の前には艶耀が座っていた。


「なにしてんだよ!こんなとこで!」


「優くん!俺も家出したーー」


「だめでしょそれ!」


「友達と住むって言ったらいいってさ!」


「えー、家出じゃないし。それに、俺はいいって言ってないけど」


「お願い!優くんのとこがいい!」


「えー、マジかよ」


「うん!」


「でも、裟南ちゃんは?残して来ちゃうの?」


「裟南は来ないよ?」


「まぁ、そうだろうけど、艶耀だけ家出るとかいいのかよ?」


「いいのー。裟南もたぶん友達の家に行くんじゃね?」


「適当かよ…。で?艶耀はお金あるのか?」


「あるよー?親からもらってるー!ご飯は買えるよ?」


「ほーう」


いいことを考えた。


「じゃあ艶耀ちゃん、家賃も払ってもらおうか」


「え?そこまではお金ないなぁ」


「…半額でもいいが?」


「ないなぁ」


「そうかそうか」


期待した俺が悪い。中学生の小遣いなど。


「しょうがない…住んでいいよ」


「やったー!ありがとー!」


「鍵開けるから待っとけよ」


「ドキドキするなぁー!どんな部屋かな?」


「どんなって?…そりゃ普通の…」


我先に艶耀は中に入って行った。礼儀を知らないやつだ。


「狭い部屋だけど片付いてるね!」


「寮ですから。で?食事は?」


「まだー」


「弁当食うか?」


「え?俺のもあるの?」


「余り物だけど。無理やり持ち帰らされた」


「嬉しー!いただきまーす!」


艶耀は嬉しそうに食べ始めた。まだまだ子供だな、まったく。


「優くん!おいしーよー!」


「そうですか。で、荷物は?」


「んー、明日持ってくるー」


「なんで準備してないんだよ…」


「いいからいいから。あとで」


「…裟南ちゃんが苦労してたんだろうな。艶耀がこんなに迷惑じゃ」


「優くん、裟南のことばっか。好きなの?」


「そ、それは…。裟南ちゃん、彼氏とかいらないって言ってたなぁ」


「残念!振られたんだー!」


「声でかい!寮ではお静かに!」


「はーい。優くんもお弁当食べる?」


「自分用あるから…」


こんなマイペースというか自己中というか…そんな艶耀と一緒に住むこととなった。

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