第2話 こんなんヤケカラオケや
「なんだよ『私たち合わないな』って……!! そんなの付き合って1週間くらいでわかれやッ!!」
ジンジャエールをあおりながら、俺は胸の中にたまった鬱憤を吐き散らかす。
炭酸による痛みが口の中で暴れて、視界がちょっぴり滲む。
あぁ、断じて、決して、悲しくて泣いているわけではない。
「うんうんそうだな、それは彼氏くんが悪いな」
「まぁフラれちゃったってことは、充にも悪いところがあったってことだよね」
「あれ待って、二人ともちょっと辛辣じゃない? なんのために呼んだと思ってるの? カズに関しては超ニコニコだし」
なんという悲劇に見舞われている俺に対し、俺の両隣に座る男たちは実に無神経な言葉を投げかけてきた。
コイツら、人の心とかないのだろうか。
「だって、今まで彼女にデレデレしてた友達が急にカラオケに呼びつけてきたかと思えば、フラれた報告だぜ? そりゃもう口角上がりっぱなしよ」
人の心とかなかった。
一切守りたくない笑顔を浮かべるこのジャガイモ頭は、
通称カズ。
いかにも野球部ですという様相をしているのに、所属はバスケ部だ。
こんなセリフを吐くくらいには性格がひん曲がっていやがるので、非モテの非リア充である。
高校入学してこれまでつるんできたけれど、現在進行形で今後の関係を見直したいと思っている。
「フラれちゃったんだし、何が駄目だったのか反省しないとでしょ? じゃないとまた同じミスしちゃうかもだし」
人の心とかなかった(デジャヴ)
人畜無害そうな顔をしておきながら、フラれたてホヤホヤな人間にそんな言葉をかけるこのイケメンは、
通称ジュン。
にこやかイケメンだからまだバレていないけど、道徳を暗記科目だと思っているようなタイプである。
本性を知らない女子たちからはキャーキャー黄色い声援を向けられる対象になっているが……早いところ暴かれてほしいもんだ。
「いやいや反省て……そんな変わり身が早ければ誰も悲しくならねぇんだよ!! 励ましをくれ励ましを!!」
バンっと机を叩きながら俺は猛抗議する。
なんのためにコイツらを呼んだんだ?
そんなの、彼女を失った悲しみを埋めるために決まっている。
ささくれたこの心を癒すためなわけで、決して傷口に塩を塗りたくられるために呼んだわけではない。
カズとジュンはキョトンとした顔をするが、すぐさま屈託のない笑顔で言った。
「……そうだな。なんにせよ、あんまり引きずるんじゃねぇよ。女なんて星の数ほどいるんだからよ。まぁその星に手は届かないんだけどな」
「そうそう。高校生のカップルなんて半年で別れるのがほとんどだしさ。1年間近く付き合ったなら頑張った方なんじゃない? まぁそれでも別れたってことは、本当にダメだったんだろうなって感じだけど」
こいつらは俺になんの恨みがあるというんだ。
傷口に塩を塗りたくるどころか、別の箇所をナイフで刺し始めてるぞ。
彼女の話してた時の俺ってそんなにうざかったか?
……うざかったかも。
いや、それはそれとして慰めの言葉のひとつやふたつ掛けてくれたっていいだろ!!
別れたてホヤホヤなんだぞこっちは!!
そんな風に頭を抱えてしまいたくなるが……しかしこれもまた仕方がないかもしれない
片や捻じれにねじ曲がった非リア充、片や色恋には困らない容姿のサイコパス。
二人とも別々の要因で失恋したことがないから、筆舌に尽くしがたい俺のこの感情を理解できないのだ。
すべては俺の人選ミスのせいである。
「……フン、もういい。お前らに期待した俺が馬鹿だった。歌ってやる」
目の前のデンモクから選曲すると、俺は傍らのマイクを握っておもむろに立ち上がった。
こんな奴らの言葉に期待する方が間違っている。
きっと、今の俺の気持ちに寄り添ってくれるのはback numberだけだ。
「よっ、今一番失恋ソングが似合う男!!」
「きっと今なら作詞者の意図にも最大限寄り添えるんじゃないかな」
俺の背中にやいのやいの言うヤツらのことは放っておこう。
なんともいえないカラオケのムービーを眺めながら、俺は魂を込めて歌い始めた。
最初の音程は盛大に外れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます