VRで小説執筆を考えた男
高井希
第1話小説家希望
小説家希望の伊達正樹は今回も新人賞に落選した事に苛立っていた。
ーこんなに面白い小説なのに、何故編集者や批評家達は、この才能を理解出来ないんだ。ー
彼の感情は自己反省の時期を通り越し、今や八つ当たりの時期に入っていた。
伊達は三流大学を中退し、小説を書き出して早十数年。
大学在学中から住んでいるボロアパートで、昼はコンビニのアルバイトや交通誘導員をして生活費を稼ぎ、夜は執筆活動に勤しんでいた。
実年齢はまだかろうじて三十代であるが、運動不足と日に三度のコンビニメシのせいか、バイト仲間からは四十代だと思われている。
全てを捨てて小説を書いている彼なのに、報われたことは今までに無い。
原稿を編集者に送っても梨の礫。
Web小説サイトに投稿するが、誰も読もうとしない。
やむなく、新人賞の公募に何作も原稿を送るが、落選続きの始末。
流行りのAiで小説を書かせて投稿してみても、無視される。
そして今また今回も新人賞に落選した事に苛立っていた。
彼はスマホを取り出し、文字を打ち始めた。
『結果どう?』
すぐに返信が来た。
『ダメ。お前は?。』
『同じ』
『選考委員がバカ』
『俺に考え。明日、いつもの所で会おう。』
「あ~あ、今日は書く気になれない。」
伊達氏は万年床にひっくり返りふて寝をはじめた。
次の日、コンビニのバイトを終えて、コンビニの隣接している小さな公園のベンチでコーヒーを飲んでいると、
「よう。お待たせ。正樹。」
と、灰色の髪、灰色の長袖Tシャツ灰色のズボンを履いた中年男性がやって来た。
「ああ。新庄。久しぶり。」
「考えって何だよ。お前小説家諦めるのか?。」
「チゲーよ。小説を書くのが、俺でもだめ、お前でもダメ、Aiでもダメなら、VRで小説書けば良いじゃないか。」
「なに言ってるか分かんなんだけど。俺、メカ弱いんだ。」
「VRでそれぞれが登場人物になりきって行動するのさ。シュミレーションゲームみたいに。」
「シュミレーションゲーム?。俺やったこと無いけど。」
「やったこと無くてもだいたいどうゆうのか判るだろう?。」
「もっと解りやすく説明してくれ。」
「俺のいとこが新しいVRを発明した。俺は、メインAIに異世界とか、学園、天国、地獄、江戸時代、古代ローマなんて命令すれば、AIがその世界観を仮想世界に作り出し、それを参加者が体験できるんだ。どうだ?、小説に出来そうだろ?。」
「いまいちピンとこないんだが?。」
「だから、例えば異世界を選ぶと、その建物や食べもの、風景だけじゃyなくて、参加者の服装や持ち物まで、異世界風になる。その上、AIが異世界風のイベントを参加者に提供する。参加者はまるで自分が異世界にいるような体験ができるんだ。」
「そうなんだ。それで、それをすると俺はなんの得になるんだ?。」
「VRの記録を本にする。俺とお前の共同執筆だ。だから、その本の売り上げを半々にわける。いい話だろう?。」
「費用はいくらかかるんだ?。」
「そのVRをはじめて人間に使う、つまり、人体実験の被験者だから、費用はかからない。」
「本一冊分にするなんて、一か月も拘束されるんじゃあないだろうな。」
「いや。夢をみるのは一瞬なのに、夢の中で長い日々が経っていることがあるだろう?。脳が高速処理をするらしい。だから、たぶん、8時間くらいで、十分に長編小説くらいになるらしい。」
「8時間拘束されるのはきついだろう。」
「俺たちは眠っているだけさ。眠っていれば8時間なんて一瞬だろう?。」
「まあ、眠っていて金が入ってくるなら、いいか。でも、そんな簡単なら、なぜ俺を誘う。お前一人なら、全額おまえのものだろう?。」
「VRの参加者を面白い話になるように誘導したいんだ。一人じゃあ無理でも、二人なら可能だろう?。」
新庄は頷いた。
次の更新予定
VRで小説執筆を考えた男 高井希 @nozomitakai
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