第12話 医療の可能性

ダルヴィス連邦の拠点に到着して数日が経った。颯太は、拠点内にある施設の混雑ぶりに驚かされた。患者のほとんどは魔法では手に負えない症状に苦しむ者たちだった。


「魔法は万能じゃないんだな……」


颯太は改めてこの地での医療の必要性を実感し、医者として自分が果たせる役割を考え始めていた。



施設内で活動を始めた颯太に最初に声をかけたのは、エルフの薬師ミレイア・セリンだった。彼女は薬草の束を抱え、興味深げな目で颯太を見つめていた。


「あなたが噂の『呪いを持つ医者』ね。魔法じゃなく、知識で病を治すとか」


颯太はその言葉にわずかに身構えたが、ミレイアは微笑みながら言葉を続けた。

「でも、それが本当なら面白そうだわ。私、薬師だから、あなたのやり方を学んでみたいの」


「薬師……?」


「そう。薬草や植物を使って薬を調合するのが私の仕事よ。魔法だけじゃ治せない病気も、自然の力なら治せることがあるの」


颯太はミレイアの言葉に興味を引かれた。

「じゃあ、試してみたいことがあります。鎮痛作用や抗菌作用のある薬草が必要なんですが、何か心当たりは?」


ミレイアはすぐに薬草の束を広げ、指差した。

「これが使えるわ。鎮痛作用があるのはこの『トルバの葉』。抗菌作用なら『セフィリアの根』ね。ただ、調合は慎重にやらないと危険よ」


「調合はあなたに任せます。それが専門なんですよね?」


颯太の言葉に、ミレイアは満足げに頷き、手早く調合を始めた。彼女の手つきは熟練の技そのもので、颯太も感心せざるを得なかった。


「これでどう?」

ミレイアが差し出した薬を見て、颯太は笑みを浮かべた。

「完璧です。これで患者の苦痛を和らげられるはずです」


しかし、薬草や調合だけでは対処しきれない患者も多く、颯太はある問題に直面していた。それは、適切な医療器具がないことだった。


「手術や治療には、もっと精密な器具が必要だ……」


そう悩む颯太に、ミレイアが提案した。

「医療器具が欲しいなら、ガルスに相談するといいわ。あの人はドワーフの鍛冶師で、どんな金属でも自由自在に操れるの。ただ、ちょっと頑固だから、話を通すのは簡単じゃないわね」


ミレイアに案内され、ガルスの工房を訪れた颯太は、鍛冶場の熱気に圧倒されながらもガルスに頭を下げた。

「ガルスさん、医療器具を作ってほしいんです。手術や治療に必要なんです」


ガルスは作業の手を止めると、颯太を鋭い目で見た。

「人間の頼みなんざ聞く気はねえよ。俺は獣人やエルフのために技術を使っているんだ」


颯太が困惑していると、ミレイアが口を挟んだ。

「ガルス、私からもお願い。彼の医療がこの拠点を救うかもしれないのよ」


ガルスはしばらく考え込んだ後、渋々と条件を提示した。

「一つ条件を飲むなら、作ってやらんでもない。俺の知り合いの子――ティアナって少女を救ってくれ。彼女は病気で苦しんでる。治療ができるなら見せてみろ」


「……分かりました。全力を尽くします」



ミレイアと共に病室を訪れた颯太は、ベッドの上に横たわる小さな獣人の少女――ティアナ・レベッカと出会った。


彼女の顔色は青白く、手足は細く震えていた。呼吸も浅く、体を起こすことすら困難そうだった。


「彼女は……栄養失調と低体温の症状がありますね。あとで詳しい検査をする必要がありますが、まずは体力を回復させることが最優先です」


颯太は周囲に指示を出し、体を温めるための布と、消化の良い食事を用意させた。


「すぐに効果は出ないかもしれませんが、彼女の体力は少しずつ戻るはずです」


治療を進める中、ティアナが小さな声で呟いた。

「……ありがとう、お医者さん……」


その言葉に颯太が振り向くと、ティアナの目にはわずかな笑顔が浮かんでいた。


「私、夢を見るのが得意なの……先生、疲れてるみたいだから、少しだけ私の力を貸してあげるね」


ティアナが眠りにつくと、颯太は不思議な安らぎを覚えた。それはまるで、体の疲労が和らぎ、心が癒されるような感覚だった。


「……彼女が持つ力がこれか」


ミレイアが微笑みながら言った。

「ティアナの能力『夢の癒し』よ。彼女の眠りに触れると、不思議と心が軽くなるの。疲れているなら、少しだけ彼女の近くにいればいいわ」


颯太はティアナの力に感謝しながら、彼女を必ず救うと心に誓った。



颯太の医療技術は拠点内で注目を集め始めた。患者の症状を的確に診断し、魔法では対処できなかった病気を改善させていく姿に、多くの者が感心し、信頼を寄せた。


しかし、その一方で「呪いを持つ医者」という噂や、人間であることへの反感を抱く者も少なくなかった。


「魔法に頼らず治せるのはすごいが、呪いの力で治療してるんじゃないのか?」

「人間は信用できない。いつか俺たちを裏切るかもしれない」


そんな囁きが聞こえる中、レオンがその場に現れ、鋭い目で兵士たちを睨みつけた。

「黙れ!お前たちが疑おうと、この医者は命を救ってる。それが何よりの証拠だ」


レオンの言葉に、兵士たちは口を閉ざし、その場を去った。


「気にするな、医者」

レオンが肩を叩き、笑顔を見せた。

「お前はお前のやり方で命を救えばいい。それを見ていれば、誰だって分かるさ」


颯太はその言葉に救われる思いがした。そして、自分の医療がこの連邦で認められる日が来ることを信じ、治療に励み続けた。


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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。もしこの作品を楽しんでいただけたなら、ぜひ評価とコメントをいただけると嬉しいです。今後もさらに面白い物語をお届けできるよう努力してまいりますので、引き続き応援いただければと思います。よろしくお願いいたします。


こんな小説も書いています

ナースたちの昼飲み診療所:https://kakuyomu.jp/works/16818093088986714000

命をつなぐ瞬間:https://kakuyomu.jp/works/16818093089006423228

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