第5話 酒場で情報収集

 冒険者ギルドの登録料が稼げた頃には、私が家出をしておよそ三ヶ月という月日が流れていた。現在の季節は春を過ぎ、夏になっていた。暑い季節だ。そしてようやく冒険者だよ!


 でもそこで当初の目標を思い出した。


「私は別に冒険者になりたいわけじゃないんだよ!」


 地団駄を踏む。


 そう。私は錬金術士になりたいのだ。なのに何で冒険者になりたいと思ったのか。本末転倒とはこのことか。なので冒険者になるのは一旦保留にして引き続き酒場で情報収集をすることにした。


「錬金術士?」


 酒場の常連客に聞いて回る。


「何だ? リサちゃん。錬金術士になりたいのか?」

「そうだよ。考えても見ろ。安い酒場で何時までも処女を売りに給仕なんてやってらんないだろ」


 するとそれを聞いていた男が一人大声で笑った。


「だっはっは。確かに! 年増の処女なんて面倒臭そうの一言だもんな!」


 そんなこと言うなよ。例えそれが事実だとしても!


 みんな色々と背負ってんだよ!


「はぁ……」


 思わず溜め息が漏れる。しかしすると客の一人が情報を提供してくれた。


「確かヒーリアの旦那が錬金術士だったはずだぞ?」


 ヒーリアさん?


 私は首を傾げて記憶を探る。


「確か酒場の隅っこでチビチビと安酒を飲んでいる背中の曲がったお爺さん?」


 すると男が頷いた。


「そうそう。そいつだ」

「えぇ……あれ? 錬金術士ってもっとこう儲かる仕事じゃないの?」


 すると別の客が訳知り顔で話しだした。


「そりゃあ一部の錬金術士の話だな。えぇっと、確か基礎研究って言ったか? なんでも錬金術士の基本は素材研究って言って地味の一言らしいぞ」


 それを聞いていた別の客達が次々に追加情報。


「何だ? リサちゃん。儲けたいのか? なら魔道具士の方がいいぞ」

「あぁ。アイディア次第で一攫千金も夢じゃないらしい」


 ワイのワイのと客同士で盛り上がり情報が、そこかしこから飛んでくる。そこでふと疑問が湧いた。


「ね、ねぇちょっと。錬金術士と魔道具士の違いを教えて」


 すると訳知り顔で客の一人が教えてくれた。


「錬金術士は主に物質を変化させる仕事だったか。『全は一、一は全』をテーマに、全ては神なる物質であるアロママテリアで構成されているとかなんとか……」


 ナンノコッチャ?


 私が首を傾げていると男たちが更に噛み砕いて説明してくれた。若い女の子に知識を披露できるのが嬉しいのか、あっちこっちから情報がもたらされる。もたらされた情報を私が総括してみると錬金術の概要が見えてきた。


「えっと、つまり。錬金術の基本はアロママテリア。つまりこの世にある全ての物質はアロママテリアで出来ているというのが基本にあって、例えばこの安酒のエール。これを一度アロママテリアに戻して、その後に価値の高い蜂蜜酒に作り変えることができれば、その差額で儲けることが出来る。ってこと?」


 するとお客達が「おぉ~」と歓声を上げた。客の一人が頷く。


「そうそう。それが錬金術。それに対して魔道具士は、魔物の魔力の籠もった素材や魔石で様々な道具を作るのが仕事だ。錬金術士が漠然とした夢のある仕事に対して魔道具士は地に足の付いた現実的な仕事と言えるな」


 そう語った男に私は尋ねる。


「ね、ねぇ? 錬金術士の言うアロママテリアの概念って本当なの?」


 すると男は唸った。


「それも含めて研究しているんだって言っていたぞ? 究極の物質アロママテリア。別名を賢者の石というらしいが、それを作り出すことに成功すれば神にだってなれる……」

「……マジ?」


 私がゴクリとつばを飲み込む。しかし男はニヤリと笑った後で言った。


「かもしれない」


 酒場が珍しくシィンとなった。ってかな。


「ね、ねぇ。思ったんだけど、何であんたら、ぐうたらで酒ばっかり飲んでる、スケベオヤジ共がそんな事を知っているの?」


 すると男たちが混ぜっ返す。


「だっはっは。酒の肴でちょっと聞きかじっただけだよ! なんだ? リサちゃん。俺たちに惚れ直しちゃったか?」


 惚れ直す?


 おいおい。話を盛るなよ?


「そもそも惚れてないよ!」


 私が突っ込みを入れると、それを聞いた男どもは大いに笑ったのだった。

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