依頼
今回の依頼はこの会社で発生した進化現象の解決だ。
「アリーニナ、早速中の調査だ。お客さんはここで待っていてくれ。」
「はい!レイ代表、守りは私に任せてください!」
威勢のいい返事をするのは私の会社の戦闘員アリーニナだ
客の不安そうな眼差しを背にしてその会社の中へと向かう。目的地は十三階だが、ひとまず一階を確認する。
一階のオフィスではスーツを着た人々が生気のない目をして床に横たわっていた。
状況の把握のために話を聞いてみる。
「あなたは何故仕事をやめて寝ているんだ?」
「そ、そ、そ、そ、それは私たちが仕事ができないから」
ひどいどもりと声が小さいせいで聞き取りにくい。
どうやら精神に作用するタイプの進化が起こっているらしい
「それはどういう意味だ?」
「ど、ど、ど、ど、どういう意味とはどういう意味?」
どうやら脳の機能も低下しているらしい、このタイプの進化は厄介だ。
この場所にいる私たちの脳にも影響が出てくる可能性が高い、できるだけ早くこの精神への攻撃を終わらせる必要がある。
「アリーニナ、急いで十三階まで行くぞ、できるだけ早くだ」
「はい、ではエレベーターを使いますか?」
「いや、道具を使ってもいい、できるだけ早く行く。」
アリーニナがその言葉を聞いてすぐに4次元バッグから短距離ワープ装置を取り出し、起動する。
「これはかなりお金がかかりますよ〜」
そう言って一階から二階へ、三階、と一階ずつワープしていく。
ワープをすると普段落下する何倍もの浮遊感が襲いかかってくる。
そうやって十三階に辿り着く…と同時に強烈倦怠感が襲いかかってくる。
本当にひどい気持ちを我慢しながら進化の元を探す…いた。
周りに寝ている会社員とは対照的に一人だけしっかりと椅子に座り、パソコンに意味不明の文章を打っている。
どんどん握力が弱っていく、もう攻撃するのは厳しい。アリーニナは完全に酔って嘔吐して倒れている。しばらく使い物にならないだろう。
精神を振り絞って質問する。進化した人間のすることには矛盾が多い。そこを指摘して自己矛盾に陥らせることができればいい。
「お前は何している?」
「私は仕事をしています。この会社は私がいないとたち行かないので、私が頑張るしかないのです。」
満更でもなさそうに仕事をしている。あたりを見るにここは他の場所に比べて狭い上に、机の数も少ない、会社の中で役に立っているとは到底思えない。
なんとなくこいつの進化した原因がわかってきた。おそらく彼の進化した理由は優秀でいることへのコンプレックスだ。口が聞けなくなる前にそこを早く刺激しまわないといけない。
「おい、お前は自分が有能だと思っているのか?」
荒々しくなった口調に少し怖がる様子を見せつつ彼は早口に喋る
「はい、事実私以外は仕事ができないんですよ。私はここでは変えの効かない人材なんです。」
「い、いや、お前はそ、そうじゃない」
私もついにどもりが始まった。脳に靄がかかったような気がする。
「お、お前は優秀じゃない。お、お前が他の人を使い物にならなくしているだけだ。
そ、それに、べ、別に周りの人が優秀でないから消去法でお前が優秀になるのか?」
「私他の人より優れていて換えが効かないんです!!優秀なんです!!」
「お、お、おまえが今やっていることはなんだ、か、か、会社の経営の邪魔をしているじゃないか。お、お、お前はかえがきく社員どころじゃない、今すぐ首にした方が利益になる無能な社員だ。」
どもりながらもなんとか言い終える。
私の喋ったことは図星だったようだ。少し倦怠感がなくなる。
「じ、じゃあ私はどうすれば優秀になるんですか、どうすれば認められるんですか!」
悲痛な叫びが聞こえてくるが、もう聞く必要はない。私たちが求められているのは、ただの変えのきく一社員の悩みを聞くことではなく、この進化を駆除し、オフィスを使えるようにすることだ。
アリーニナに視線を送る。彼女ももう回復しているようだ。
後ろから刀で斬りつけ彼の首を落とす。
依頼は達成された。私たちにはこれ以上することはない。私たちは私たちで、彼らは彼ら、交わる必要もなければメリットもない。
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