エメリヒの苦悩

同業者の会社の前まで到着し、そこで許可証をもらう。

「ここから先はその許可証がないと蜂の巣にされちまうから気をつけろよ」

「ああ、ありがとう。」

「まったく、それを入手するのに俺がどれだけ頭を下げたと思ってる。」

「悪かったよアビーク、今度何か奢るさ。」

少し会話しつつ、車を降りてこのスラムで最も治安の悪いところへ向かう。

「アビークさん、本当に久しぶりですね。」

「おおアリーニナちゃん、元気にしてたかい?」

「はい!おかげさまで。」

ほほえましい二人の会話を聴きながら移動していると、大企業の制服を着て銃を担ぐ男二人に出会った。

「おい!止まれ!10秒以内に身分証を見せろ!」

「俺だよ、アビークだよ。はい、身分証」

「ああ、アビークさんでしたか、すいません大きな声を出してしまって、どうぞこちらへ。」

「今日は君たちの企業の本隊がいるところを見学させてくれないか?」

ここでアビークは随分顔が広く慕われているらしい。あっさりと通された。

私が到着をエメリヒに伝える

「エメリヒ、着いたぞ」

そこに広がっているのは略奪されたスラムにできた村の姿だった。犯されている女性や死体が転がっていて、あちらこちらから銃声や爆発音、悲鳴が聞こえてくる。

「やっぱりここは本当にひどいですね。」

エメリヒはこの旅で見た風景の残酷さが相まって、もう限界に近いようだった。

「大丈夫ですか?」

「ああ、私に懺悔をさせてください皆さん。私は実はqドーム代表の息子なんです。

今回私がスラムに来たのは私の父親がした悪事の結果を見に来たんです。企業は従業員に汚い欲望を罪のない人々に吐き出させることで士気を上げ、私の父は賄賂を受け取り、この場所で治安維持を行わない。そして私はそれらを見て見ぬ振りをする。私もその汚れた関係の一部なんですよ。」

そう叫んでエメリヒは泣き始め、それ以降はどんな反応も示さなかった。



契約は一日で終わり、私たちは別れた。もう会うこともないだろう。

この情報を記録することで私たちはそれぞれ308ポイントを獲得できた。命の心配はしばらくしなくていいと言うことだ。しかし、喜ばしいこととは思えない。

私たちがポイントを稼ぐには誰かを不幸にしなければならない状況が非常に多い。

誰かに寄生することでしか俺たちは生き残れない、この状況に私たちを追いやった地球や、何にでも責任を感じる誠実な少年エメリヒを苦しめた人間の悪意、そしてそんな不幸が日常的におこるこのあらゆる不条理を煮詰めたようなドーム、それらに対し腹が立つ。しかし、私がどうしたところでこのドームは変わらない。生きるため、私は何も考えないようにして明日のために仕事の準備をする。

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