失われた帝国

syu3

第1話

第一章: 隠れの里

アルティネス大陸の北端、永遠に雪と氷に覆われた山々の中に、隠れの里は静かに存在していた。外界の目からはほとんど見えないその場所は、幾重にも張り巡らされた魔法の結界によって守られていた。里の中心には、昔ながらの木造の建物が並び、石畳の小道が幾筋にも走っている。その風景はまるで時が止まったかのように感じられた。


雪の降る昼下がり、里の空気は澄み渡り、まるで神々がその静寂を守るかのようだった。突然、一陣の風が吹き、隠れの里に住む者たちはその冷気に慣れた顔を見せる。そんな中、雪の中に一人の青年が歩みを進めていた。その青年こそ、セリオン・ドラヴェルシア。彼は18歳であり、今から12年前に起こった大惨事、ドラヴェルシア帝国の滅亡を唯一生き延びた者だった。


セリオンの顔は、見る者を圧倒するほど美しく、しかしその瞳には深い闇と悲しみが宿っていた。髪は漆黒で、身の回りには冷気をまとっているかのような威厳が漂っていた。彼の歩く先には、隠れの里の村人たちがそっと道を開ける。その理由は一つ、彼がドラヴェルシア帝国の王家の血を引く者であり、過去の栄光と悲劇を知っている者だからだ。


「セリオン殿、ご無事で何よりです。」


里の長老、アシュロンが静かに歩み寄る。彼の目は優しくも鋭い。セリオンにとって、アシュロンは父のような存在だった。帝国滅亡の際に生き残った者たちを導き、隠れの里へと避難させたのもアシュロンである。


「長老、もう十二年経ったんですね。」


セリオンの声には、年齢に似合わぬ重みがあった。彼の心には、常に帝国の滅亡が焼き付いている。幼い頃、父王の顔を覚えている。その温かな手のひらに抱かれ、未来に希望を持っていた。だが、すべてが変わった。ヴァルトラント帝国の策略、裏切り、そして数千人の命が一瞬で奪われたあの日から、セリオンの世界は崩れ始めた。


「時は流れ、世界は変わりました。だが、ドラヴェルシアの魂は決して滅びてはいない。」

アシュロンの言葉は、静かで力強かった。



アシュロンはしばらく黙ってセリオンを見つめた後、重い言葉を口にした。


「セリオンよ、今、君には一つの使命がある。ドラヴェルシア帝国を取り戻すために、君がやるべきことだ。」


その言葉に、セリオンは顔を上げた。彼の瞳の中に、一筋の光が宿る。


「ドラヴェルシア帝国を…取り戻す?」


「ああ。帝国はもう存在しないが、その魂と力はここにある。それを再び呼び起こすために、君がその力を得なければならない。だが、今はそれを手にするための道がまだ見えぬ。」

アシュロンの視線は遠くを見つめ、続けた。

「君の血筋は、龍族と繋がっている。君の前に現れる者たちは、君を導く存在になるだろう。しかし、最も重要なのは、君自身がその力を信じることだ。」


セリオンはその言葉を反芻しながら、ゆっくりと頷いた。


「私は何をすればいいのでしょうか?」


アシュロンは少しだけ微笑み、静かに言った。


「まずは旅立ち、世界を見てきなさい。力を蓄え、ドラヴェルシア帝国を取り戻すための手がかりを探しなさい。君の力はまだ覚醒していない。だが、君の旅の中で、それを見つけることができるだろう。」


セリオンは深く息を吸い、決意を固めた。彼はこの隠れの里で、何年も過ごしてきた。しかし、もうそれを超える時が来たのだ。ヴァルトラント帝国に立ち向かい、ドラヴェルシア帝国の栄光を取り戻すために。


彼の旅は、ここから始まる。

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