罰ゲームの告白を断ったら、急にモテ始めて修羅場ってる件
和鳳ハジメ
しゅらららば01/罰ゲームで修羅場
(――どうしてッッッ、どうしてこうなったあああああああ!?)
イケメンじゃないけど安心する顔だと定評のある高校生・
楽しい昼休みに、今日は昼飯代がタダになるチャンスでもあったのに。
なのに何故、己は絶体絶命のピンチに陥っているのか。
(午前の休憩時間の時は男子だけだった、クラスの男子だけで腕相撲勝負、最下位は優勝者に愛を囁くか学食のA定食を一回奢りという勝負)
市立倉美高校の中でも指折りのお祭り騒ぎ好きが多数在籍し、突発イベントが発生するこの教室で生き抜くためには情報が必要だ。
クラスの男子全員の体力データは、腕力は、握力は把握している。
番外戦術に対応する為、男子のみであるが個人の弱みもある程度は。 ――だが。
(読めなかったっっっ、まさか女子も参加するとはッ! しかも罰ゲームの奢りが撤廃されてクラスの異性に嘘でもコクるになるなんて!!!)
データキャラを自称するカケルであるが、昨今のプライバシー問題を鑑みて異性に関しては丸っきりノータッチ。
そして自覚はある、――カケルは女子に弱い、正確に言うなら手ちっちゃ、やわらかっ、等とうっかり堪能して負けてしまうタイプだ。
だというのに、可能な限り男女ペアで勝負するという謎ルールが発動してしまって。
(最下位にさえならなければいい、幸いなことに俺は比較的背が高いし毎日寝る前に筋トレもしてる、……例え女子とだけ試合を続けたとしても負けるはずがない、それぐらいの理性はある。あったんだ、理性はちゃんとあったんだよッッッ!!!)
おかしい、変だ、作為的なものを感じる、だってそうだ。
(初戦で負けた後の戦い、相手全員が男子の力自慢ばっかだし、全員目隠しと耳栓で番外戦術できないしさぁ!!! あっという間に最下位争いなんだけど!? しかも――)
「――へいへいへーいっ、ビビッてるぅ? カケルぅお前ビビってるだろ~~っ! いくら女子に弱いからって一番の女友達であるボクに遠慮する訳ないよなぁ? …………ぶっつぶしてやるから、とっととかかってこいやァ!!!」
「なんでテメェなんだよリラッッッ、おかしいだろ絶対! 学年どころかウチの高校で一番ゴリラなお前に勝てるわきゃないだろ! というかビリ決定戦に居るのがおかしいだろ!! 絶対ッッッ、俺に罰ゲーム受けさせるつもりで手抜いただろテメェェェェェェェ!!!」
「はぁ~~? 誰がゴリラだって? ボクみたいな美少女を前に失礼じゃないか?? 見てよこの細腕、白い肌。背も小さくて体重軽いしさぁ、どこがゴリラだよ!!!」
「俺の目の前で中身入ってるスチール缶握りつぶしといて今更???」
「不思議そうな顔すんな!! こんな美少女と手を繋げられるだけでも光栄思えバカっ!」
クラス全員が見守る中、ぷんすか怒りを露わにするリラ。
貴重な女友達である
長い髪をツインテールにしているのが良く似合い、まるで人形のような精緻な配置の目鼻口と白い肌、そこに華奢で小柄とくれば文句なしに美少女と言える。
「…………確かに、リラはマジでかわいいもんな」
「ストレートに褒めるじゃん、やっとボクの魅力に気がついたって?」
「可愛い、ホント可愛い、あー、こんな美少女と腕相撲できるなんて俺は幸せもんだなぁ」
「うぅ゛~~っ、ちょっとは照れながら褒めろよぉ! 真顔でまっすぐ見つめられながら言われたからボク、顔真っ赤になってんじゃん! 鏡見なくても絶対に真っ赤になってんじゃん!!!」
「ははっ、悪い悪い」
一ミリたりとも謝罪の意を込めず、カケルはリラに笑いかけた。
もしこれが普段の雑談なら、彼女の事を褒めるなんてしなかっただろう。
なにせ奇遇にも入学からからずっと同じクラスで隣の席だ、良くも悪くも彼女の美貌は見慣れてしまっている。
(だが普段褒めてない分ここで効くッッッ、女子のデータはノータッチとはいえコイツに関しては別だ、最下位を回避するためにも番外戦術でメンタルを削っておくのが吉だ!!)
もー、もー、と顔を赤くして愉快なほど体をクネらせるリラを前に、カケルは冷や汗を流した。
これで彼女は動揺し、ある程度は力を抜いてくれるかもしれない、もしかすればワザと負けてくれるかもしれない。
だが如何せん身体基礎スペックに大きく差がある、リラには常軌を逸したパワーがある、動揺させてなお圧倒的不利は変わらない。
「…………さあ、そろそろ始めようかビリ決定戦を。いくらお前がゴリラオブゴリラだとしても一矢報いてやる、そうだお前が罠を仕掛けたんだろう分かってんだよ! 俺に罰ゲームでウソ告白させてフられる所を笑うつもりだろおおおおおおお!!! 俺は勝利を諦めないッッッ、最後の最後まで諦めない!!!」
「え、そっちの――いや何でもない、さ、始めようかカケル……全てを受け入れる覚悟は出来たかな?」
「ぐぬぬッッッ」「ふふふ……」
どうしてこんな罠を、と、だからこそ負けるわけにはいかない、と。 彼は、年相応の顔なのにどうしてパパ味があるよねと何度も言われた顔を精一杯強ばらせて威嚇。
――――自分でもよく分からないほど、ウソでも誰かに告白するのが嫌で。
「「レディー……、ゴー!!!」」
「うおおおおおおおおおおお! 動かねえええええええええええ! やっぱお前ゴリラじゃねえかあああああああああ!!!」
「えー、まだあんま力込めてないんだけどー? ホントに筋トレしてんのキミ??」
「舐めんじゃねええええええ!!!」
「ほらほらどーしたぁ?」
「くっそおおおおおおおおおおおおおお!!」
小柄で華奢なリラの手は外見通りに柔らかいのに、カケルが力を込めて握れば鋼鉄のように硬く。
体重差で押し切ろうとしたが、ビクと動かない。
――否、違う、微かにだが。
(動いているッッッ、俺が押してる勝てるッッッ、やった流石に体重差で勝て――――)
――本当に?
カケルは気づいてしまった、美少女の皮をかぶったゴリラと称される彼女が押されるなんてあり得るのだろうか。
(待て待て待て待てッ、少しずつ押してる!? ありえないッッッ、罠だこれは罠だッッッ、俺に勝たせる――いや違う!!)
ハっとなって慌ててリラの顔を見ると、彼女は涼しい顔のまま。
そうしている間にも少しずつカケルの勝利へと傾いている、慌てて引き戻そうとするが一ミリとも動かず勝利へと傾き続けていて。
(リラは負けようとしている? それも俺に負けたって形で? バカなそんなどうして? 嫌な予感がするッッッ、負けたら告白だぞ!? 自分からそうしようと? それこそバカな、俺達は親友と言ってもいい間柄、例えウソでも告白なんてあり得ない、なら残る可能性は――)
その瞬間カケルは戦慄、考え得る最悪の事態に思い至ってしまったからだ。
桜路莉羅に関してカケルが知っている欠点の一つ、それは即ちメシマズであるコト。
つまり。
(コイツッッッ、俺にポイズンクッキングを食わせようと!? 常々向上心のある奴だとは思っていたが料理の腕を諦めていなかったなんて――――ッッッ)
なんたる不覚、リラは昼飯奢りを利用してウルトラメシマズ克服の為にカケルを実験台にしようとしているのだ。
と彼は結論づけた、――奢りの条件は廃棄されている事を忘れて。
「負、け、る、もんかあああああああああああああああ!!!!」
「あーあ、ボク負けちゃうなぁ、つよいつよい、やっぱさ、ゴリラなんて呼ばれててもボクってば非力な美少女だからなー、あー、もうすぐ負けちゃうなー-、ナンテクヤシインダー」
「ド畜生オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ジリジリとカケルの勝利に傾く、どんなに彼が引っ張ってもリラの掌は彼女自身の手の甲を机に押しつけるべく強力を発揮。
勝利という名の敗北に、じわじわ、じわじわと、そして。
「――――~~~~勝っ、て、しまった……ッッッ」
「わーい負けた! 残念だけどボクは罰ゲームしなきゃなー!!」
なんて対象的なのだろうか、勝利を得たのに絶望感で青ざめるカケル、敗北したのに喜色満面なリア。
彼は胃薬の準備しなければと、覚悟を決めた瞬間であった。
彼女がコホンと可愛い咳払いをひとつ、カケルの注意を引いて。
「…………好き、ですっ! ボクと恋人になってください
「え、おっぱい足りないから嫌だけど…………――――あ゛」
静まりかえる教室の中で、やべっと小さな声がカケルの喉から漏れた。
反射的に本音で断ってしまったけれど、リアの声色からしてみたら告白は嘘ではなく本当。
彼の目の前で彼女は大きく丸い目に大粒の涙を浮かべ、その自慢の握力で机の角をバキっと折り。
「そんな理由で納得できるもんかーーーー!!! ぶん殴ってでも恋人にしてもらうからなっ! マジコクしてんのキミも分かってんだろイエスって言えよ逃げようとすんじゃねぇ!!!」
「話せば分かるッッッ、それだけじゃない! 理由はそれだけじゃないからっ!!!」
「他にも理由あんの!? 流石にショックすぎるんだけどボク!?」
がびーん、と目を見開いたリラにカケルは仕方がないとため息をひとつ。
皆が見ている前で明かすのは気恥ずかしいが、言わなければならない、本当に、彼女に否がある事ではないからだ。
「…………他の理由というかさ、むしろこっちの方がメインなんだけど」
「ダウト! キミがおっぱい星人だって周知の事実なんだからな!!! 下手に誤魔化そうとすんならぶん殴ってやる!!!」
「まぁ聞いてくれ、――――俺としてはな、もっとダメな子の方がいいっていうかさ」
「どゆこと??」
「なんていうかさ、リラって可愛いしフィジカル強いし、勉強もけっこう出来るし料理とかも上手い方だろ?」
「えぇ~、そんな褒められちゃったら照れるなぁ」
「そこなんだよ、俺は……うっかり道を踏み間違えた時にそのまま転げてしまいそうな危うさをもったヒトとの側に寄り添ってあげたいんだ…………んでもって、そっから起き上がる時も地獄の底まで落ちて死ぬ時も運命を共にしたいっていうか…………へへっ、こういうコト話すのって初めてだったから照れくさいな」
いいこと語っちゃったぜぇ、と言わんばかりの顔をするカケルに。
リコを筆頭にクラスメイト達はドン引き、思わぬ人物がヤベェ性癖を持ってたと動揺を隠せない。
「くっ、つまり……ボクがあまりにもパーフェクト美少女だからッッッ、天真爛漫で王道をゆく魅力に溢れてるから、ストライクゾーンからウルトラ外れているって、なんて悲劇なんだッッッ!!!
「理解してくれたかマイフレンド……」
「――――じゃあ、あたしのおっぱいが後3カップぐらいサイズアップしたら?」
「かなり前向きに検討させて――――はッ!? キョミてめぇ!?」
突如割って入った声の主は、カケルの幼馴染みにして、リラの親友であるキョミ、――
おかっぱ頭を揺らして笑う彼女の胸は、リラよりは大きいが程々に慎ましやかで。
つまりそれは。
「やっぱおっぱいが百パー理由じゃねぇかカケルッッッ! ふざけんなブン殴ってでも貧乳派に変えてやるううううううう!!!」
「殴るってなら逃げるしか――って動けない!? ッッッ!? おまっキョミてめぇ!!! その為に後ろに居たのか! 離せっ、離せえええええええ!!!!」
「殺れ! 今だリラちゃんあたしが押さえてる前にカケルちゃんを殺るんだ!!」
「ナイスだよキョミ!」「キョミてめぇ幼馴染みなら俺の味方しろよ!」
「残念っ、あたしはリラちゃんの味方だし、カケルちゃんはそんなに好きじゃないから……ここで死んでもいいかなって」
「ちょい待ちボク殺さないよ!? カケルのこと殴るかもしれないけど殺さないよ!? ちょっとキョミ殺意強すぎない!?」
口を開かなければ清楚担当美少女と名高いキョミはカケルを羽交い締めしたが。
「――きゃっ!! しまった!?」
「よしッ、流石にキョミには体格差で押し切れるこのまま逃げさせて貰う!」
「なんて素早い!? ボクのことゴリラとかいうけどカケルもバカみたいに逃げ足速いじゃんか!」
「うおおおおおおおおおお、午後の授業まで隠れるぜええええええええ!!!」
それは余りにも早い出来事であった、リアとカケルは腕相撲が終わった直後で彼我の距離が一メートルも離れておらず。
尚且つ、後ろからキョミに羽交い締めされていたというのに、コンマ数秒で振りほどき取り囲むクラスメイト達の隙間を縫って走り教室の出口まで。
本気の告白をした直後のリアは咄嗟に反応できず、キョミ達クラスメイトも即座に逃走を選択した彼を止められず。
(よし! これで何とか…………なってねぇよなコレ???)
カケルは廊下の端の階段の踊り場へ全力疾走、教室のある三階から二階に降りそのまま一階へ、次は旧校舎の部室か、それとも校庭か校舎裏に逃げ込むか。
どちらの方が探しに来ないかと、考える前に。
(……………………保健室か、割とアリなのではなかろうか)
足を止める、一階階段下の隣の宿直室、その隣で校庭に繋がる下駄箱の前にある保健室。
その扉の前に立ち、数秒ほど呆けた後ノックをコンコン、コンコン、と四回。
返ってくる返事を待たずに扉を開け、入って即座に閉める。
――中には、スツールに座った髪の長い白衣姿の女性が。
「よお、ちょっと匿ってよヤッチーセンセっ!」
「――ッ!? …………も、もぅ、返事を待ってから入って来てください、か、っ、あ、天城くん」
「ヤッチー相変わらず俺の名前どもるよね、そんなに天城って言いにくい? まぁいいや、なんか罰ゲームでマジっぽい告白されちゃってさ、断って逃げてきちゃったよ。頼むから昼休みの間だけでも匿ってくれないか!」
「もう……仕方ないなぁ、お昼ご飯まだですよね? ふふっ、ちょっと作りすぎちゃって、――食べる?」
「えっ、やった! 今日も食べてるってマジ!? 食べる超食べる!! ありがとう風花……じゃなくてヤッチーセンセ!」
という訳で、カケルは保健室に在住する保険医。
校内可愛い子ランキング一位にして、お嫁さんにしたい子ランキング一位、男子のみ集計の巨乳ランキング一位。
通称・白衣の天使ヤチエル、
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