1-6
連れてこられた時同様、帰りも目隠しで車に乗せられ、捨てられるようにして駅で降ろされた。
帰りの新幹線に乗り込むとどっと疲れが押し寄せて来、明神は倒れこむようにして座席に座った。
通りがかった車内販売の女性から缶ビールを買った。
「いいんですか」
川島がたしなめたが、「いいんだ」と押し切る。
手が震えてプルトップを開けられずにいると、川島が手を貸してくれた。
缶ビールを一気に飲み干す。勢いが良すぎて口元から泡がこぼれ落ちていった。
「『死ななくてもよかったのに』と言ったんだ」
川島が知りたいであろう事を明神は教えてやった。2hilが発したその言葉を口にするだけで、汚物を押し込まれたような嫌悪感があった。怒りが再びこみ上げて来、空になったビール缶を握りつぶしていた。
「あー……」と言ったきり、川島は眉をひそめた。
「道理で、お内裏さまの明神さんが不動明王の形相だったわけですか」
「お内裏さま?」
「ひな人形の男雛です。明神さん、穏やかで怒った顔みたことないのに。ガラ悪い社会部にしては珍しく品のいい顔立ちが、さっきは鬼の形相だった」
「ガラ悪いって、間違っても社会部の連中に言うなよ」
茶目っ気たっぷりに川島が舌を出してみせた。
再び通りかかった車内販売から明神は二本目の、川島は一本目の缶ビールを買い求めた。
「血も涙もない人間っているんだなあ……。金儲けのためなら、何でもありなんですかね」
「死んだ人間をよみがえらせることでもな」
「偽物ですよ」
「もちろんだ。そうだ、川島くん、さっき、気になることがあるって言っていなかったか?」
「ああ、ええっと、気になるというか、不気味だなと思うことがあって」
「不気味なこと?」
明神は二本目のビールも早々に飲み干してしまった。
「あれは死んだ人間の目でした」
そう言って川島は缶ビールに口をつけた。
「目に生気がなかった。まるで目玉なんかなくて、顔に二つ穴が開いているだけのような……まあ、人外の存在であることをアピールするための演出なんだろうけど。僕はそこそこ人の顔の写真を撮ってきて、いろいろな顔に出会ってきたけど、あれは人間の顔とは思えなかった。人の顔の仮面を被った何者かという印象を受けましたね」
「人の顔の仮面を被った何者か、ね」
明神は二本目の缶ビールもぐしゃりと握りつぶした。
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