幕間2


 神が起こした奇跡により、奴隷たちは自由の身になりました。しかし、残念ながら、それは彼らが真の自由を手に入れた、ということを意味することはありませんでした。なぜなら、彼らは奴隷の立場で生み出した神を、その後も信じ続けたからです。


 つまり、それは奴隷の精神とでもいうべきものを、そのまま自らの中に埋め込んでしまったのと同じでした。皮肉なことに、彼らは神を信じる限り、奴隷のままで居続けなければならなかったのです。


 その上、その神とは、絶対の信仰と厳しい戒律を要求する神。それを怠れば、再び彼らを見放し、奴隷の烙印を与えるかもしれない、非情な神です。そんな神と彼らが結んだ契約は、苦難のときだけ頼ることを決して許さない、その瞬間から未来永劫までをも縛るものでした。


 一方、それから千と数百年の時間が過ぎた頃のお話です。かつての奴隷たちが住まう国と海を挟んで向こう、ある強者の国が争いを始め、みるみるうちに周辺国を制圧し、一大帝国を作り上げました。そして、勝った者の常として、負けた国の人々の上に立ち、こんな命令を出しました――この町は帝国のものとなったのだから、いままでのやり方はすべて捨て、私たちの規律に従って暮らすように。


 鎖に繋がれこそしなかったものの、そうして支配された人々は、まるで奴隷でした。帝国の富のために労働力を搾取され、しかし自らは貧しく、飢える日々。帝国が勝利し、領土を広げるたび、そうした奴隷のような人々は増え、不幸もまた、大きく広がっていきました。すると、人はどうしたでしょう。人という動物の根本は、いくら時が過ぎても変わりません。だから、あのときの奴隷たちのように、この時代の無力で不幸な人々もまた、自らを救ってくれる存在――神を強く求めました。


 しかし、結論から言えば、人々はその境遇から彼らを救い出せるような、強力な神を生み出すことはできませんでした。


 なぜなら、彼らは不幸ではありましたが、古い時代の奴隷ほどは追い詰められていませんでした。強力な神を生み出すには不幸は足りず、苦しみもまた十分ではなかったのです。それにもう一つ重要なことに、彼らは一個の集団ではありませんでした。違う土地に住み、違う言葉を話し、違う暮らしを営む人々でした。そんな別々の彼らがいくら望んでも、一つの強力な神を生み出せるはずもないのです。


 だからこそ、彼らの前に現れたのは神ではなく、救世主でした。その人こそ後の神の子、真の奴隷の血を引いた、一人の心優しい青年だったのです。

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