とある男のゴブリン観察日記
狩りの囮に使ったり、戦のでの雑兵に使ったりするのが一般的だ。
村内で交配を重ねたゴブリンは、野生のゴブリンよりも従順な性格が多く、扱いやすいので家ゴブリンや飼いゴブリンと呼ばれるようになった。
飼い方も簡単だ。適度に餌を与えていれば、こちらを上位者とみなして従う。注意するべき事は満腹にさせないこと。腹いっぱいになるほどの餌は、飼われているのではなく貢がせていると勘違いして増長するからだ。
そんなゴブリンだが、最近増えたものの中に変わった個体がいた。餌の芋虫には手をつけず、柵の周りに生えている雑草を実に不味そうな顔をしながら食べているのだ。
そんなんだから他のゴブリンと比べると身体も小さく、いつも虐められていた。もっともやられている当のチビゴブリンは、うざったそうな顔をすれど気にもとめていないようだ。そんなことより食料確保に忙しいのだろう。そろそろ柵の周りの雑草がなくなるが、はたしてどうするのだろうか?
シンプルに我慢していた。いや芋虫食えばいいだろ! そんなに雑草が好きなのか? 本当に変わってんなこのゴブリン。
次の日のことだ。戦士長の娘がゴブリンのケンカ話を興奮気味に広めていた。なんでもあのチビゴブリンがボス格のゴブリンを倒したんだとか。
ここ数日まともに飯も食ってなかったあのチビが? 疑問に思いながら餌をやりに行くと、柵の中の空気がざわついている。チビが勝ったのかは分からないが、序列に変化があったのは本当らしい。
変化にもう一つ気がついた。チビが芋虫を食べている。雑草食べている時よりもしかめっ面で。そんなに嫌なのか……。
珍しかったので何気なく眺めていると、チビの持つ芋虫を奪いに他のゴブリンが襲いかかった。背後からの奇襲だったにも関わらず、あっさりと迎撃するチビ。なかなかの戦いっぷりじゃないか。
それからしばらくの間、仕事終わりにケンカの観戦をするようになった。街と違ってこの村には娯楽が少ないので、ケンカの観戦は大人達の間でちょっとしたブームにまでなっていた。
へっぴり腰のまぬけな戦い方を見てはゲラゲラ笑い、意外な粘りをみせる格下のゴブリンを応援してみたり。
観戦者が増え、酒も入れば次はちょっとした賭けを行うようになるのは自然の流れだろう。どのゴブリンが勝つかを予想し合うのだが、チビは負けないので除外され、それ以外のゴブリンで賭けをしていた。
この柵の餌やりの回数が多かった俺は、どのゴブリンが強いか他の連中より詳しかったので結構稼がせてもらった。
懐が潤っていい気分だったのだが、少々盛り上がり過ぎたらしい。仕事をサボって観戦するアホが現れたせいで、村長による観戦禁止令が発せられた。
少し残念だが、ちょうど良かったのかもしれない。
最近チビにも子分ができたのか、あまり戦わなくなっていた。あいつは賭けの対象にはならないが、観ていて一番面白い。チビの戦う頻度が減って、他のゴブリンのつまらない戦いばかり観るのに飽きてきた連中も多かったのだ。
ブームが過ぎ去り代わり映えのしない普段の日常が戻ってくる。俺は餌を運び、チビは相変わらず不味そうに芋虫を食べている。
そんななかちょっとした事件が起きた。戦士長の娘達がチビを柵から外に連れ出したのだ。
水汲みを代わりにさせようとしたらしいのだが……チビが汚な過ぎて身体を洗うのに時間がかかって、戦士長に見つかったみたいだ。
戦士長は過保護なのでずいぶんと怒っていたが、あのお転婆姫達はきっと懲りないんだろうな。
そんなふうに眺めていたら、信じられないものを見た。チビが戦士長の蹴りを躱したのだ。
おいおいマジか……。チビは戦士長の殺気でガチガチに震え上がっていた。それなのにあの蹴りを躱したってのか? 村の戦士達でもあの不意打ちを躱せる奴はそういないぞ⁉
驚愕しながらことの成り行きを見守っていると、戦士長の奥さんがやって来た。すると何故かチビが戦士長から蹴りを放たれた時以上に驚いている。目線は奥さんに抱かれた赤ん坊に釘付けだ。
よろけて井戸にもたれ掛かると、ハッとしたように中を覗き込み……。何やってんだあれ?
何度も井戸の中と赤ん坊を見比べて、魂が抜けたかの様にその場で崩れ落ちた。
戦士長もそんなチビの様子に鼻白んだようで、一言二言娘達にキツく言い含めると狩りへと出掛けて行った。
いくらでも替えの効くゴブリンの命は軽い。だがチビは、あの戦士長と対峙して結果的に無傷で生き延びた。その事に得たいのしれない恐ろしさを感じた俺だったが……後にある意味その恐ろしさは正しかったと知ることになる。
この時の俺に忠告したいものだ。賭けで増やした金は絶対に残しておけ、と。
この村でチビが何をしたのかは……またの機会ってことで楽しみにしているといい。
鬼人の子? だと思ったらゴブリンでした。俺はまともな生活を手に入れるぞーッ‼ 牡羊座の山羊 @ohituzizanoyagi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。鬼人の子? だと思ったらゴブリンでした。俺はまともな生活を手に入れるぞーッ‼の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます