高校の4大美女の誰かが双子の妹らしい

剃り残し@コミカライズ連載開始

第1話

 いきなりだが、我が家のリビングは放課後に美少女達の溜まり場になっている。


 本来は宿題をみんなで片付けるという名目で集まっているものの、実態はパーティゲームに終始している美少女が四人いる。


「皆、このターンが終わったら宿題やるよ。絶対にやるから……っと、10! いいねぇいいねぇ!」


 1P担当、百武ひゃくたけ風子ふうこ。背が高くすらっとしていてショートヘアがよく似合う活発な美少女。明るい性格で四人のリーダー的ポジションに収まっている。


「……1Pの風子がサイコロを叩くからターンが始まる。全ての始まりは風子だぞー……5か。まぁ普通だなー……けど止まる先が赤マスは聞いてない……」


 2P担当、成松なりまつ冬埜ふゆのがローテンションな声で指摘する。


 華奢な身体から細いアニメ声を出すアーモンドアイの美少女。映画、音楽、漫画、ドラマ、ゲーム。ありとあらゆるインドア趣味を愛する漆黒のロングヘアのサブカルロリダウナー女子。


 俺の双子の妹でもある。二卵性なので何もかも似ていないが。


「別に止めるなら誰のところでも良いじゃないですか……っと。1ですか。アンラッキーですね。しかし、乱数に振り回されるだけのゲームの何が楽しいんだか……」


 3P担当、円城寺えんじょうじとも。街作りシミュレーションゲームやブロックで建築するタイプのゲームを愛する美少女。口癖は『アンラッキー』。


 髪の毛はセルフカットらしく、横はボブカットくらいの長さだがその前髪は右から左に向かって斜めになっている。


「そんなこと言いながら灯もサイコロを叩いてるのよね……おっ、8。いいじゃない」


 4P担当、江里口えりぐち彩水あやみ。中肉中背で標準のど真ん中を行く黒髪ロングの清楚系女子。四人の中では一番の常識人だと勝手に期待している。


 そんな4人を少し離れたところにあるダイニングテーブルから眺めているのが俺、成松なりまつるい。見た目も中身も陰キャだが、双子の妹が美少女四人組に属しているため、おこぼれに預かって三人の美少女から認知されているだけの人間だ。


 俺達5人には不思議な縁もある。それは、全員の誕生日が同じ。しかも、誕生場所も同じ。母親たちが産気づいて病院に来た時間にラグはあれど、出てくるタイミングもほぼ同じだったらしい。


 つまり、16年前の同じ日、同じ場所で生まれたということ。当時の産院かどれだけてんやわんやだったのか、想像するだけで申し訳なくなる。


「お前ら……宿題やるぞ〜。早くこっちにこ〜い」


 俺が声を掛けると真っ先に妹の冬埜が反応した。ミニゲーム中にも関わらず、ポーズボタンを押して俺の右隣に座ってノートを開いたのだ。


「冬埜は素直で偉いな〜」


「や、兄貴がバカだから隣で見てあげないといけないからなー」


 冬埜がジト目でそう言う。


「酷くないか!?」


「兄貴。前のテスト、平均は何点だった?」


「さ、30点です……」


「だろー? おかげで私は学年1位なのに双子の妹だからって私まで笑われるんだぞー。しっかりしてくれー」


「双子だからって成績まで一致するとは限らないだろ。第一、俺たちは二卵性でなんにも似てないんだから」


「それはそうだがー……何にも似てないことはないだろー……確かに顔も髪色も目も体型も似てはいないがー……目の数は同じだなー? 指もお互い10本だなー?」


「だいぶ基本的な要素だな!? それを言い出したらここにいる人は全員俺の妹になるぞ!?」


「えー、それは困っちゃうなぁ……塁の妹にはなりたくないよ」


 俺の正面に座った風子が微笑みながらそう言った。


「風子も酷いな!?」


「あっ……こ、これは意地悪で言ってるわけじゃなくて……その……妹は二親等扱いだから婚姻届が出せなくなるじゃん?」


「そもそも俺たちは18歳じゃないから婚姻届は出せないけどな」


「うぉーい。兄貴、そういうことじゃないぞー。このニブチンがー」


 べしっと冬埜がツッコミを入れてくる。


「え? そうなのか? じゃあどういう意味なんだ?」


「やれやれ……無邪気というものも考えものですね」


 俺の斜向かいに灯が座り、首を横に振った。


「そうよ、冬埜。塁はバカなんじゃなくて無邪気なだけ。ま、妹だからそういう言い方でも許されるんだろうけど……羨ましいわ」


 彩水が俺の左隣にやってきてテーブルで頬杖をつき、笑顔での方を見てきた。


「別にバカって言いたいなら言ってくれていいんだけどな。冬埜の言い方に慣れてるし」


 彩水は苦笑いしながら「あは……あはは……」と前を向いた。


「兄貴ー、そういうことじゃないんだぞー、ニブチンがー」


「ならどういうことなんだよ……」


 全員が「無邪気」という合言葉とともにウンウンと頷く。


 誰もその答えを教えてくれようとはせず、宿題を進める時間がぬるりと始まった。


 ◆


 その日の夜、リビングにあるテーブルに一通の手紙が置いてあった。心当たりはないので家族の誰か宛だろうから中身を見るのも悪いと思いつつ、通りがかったフリをしてチラッと中身を見る。


『被験者Aは被験者Cの生物学上の父であることが99.99%の確率で否定されない。被験者Bは被験者Cの生物学上の母であることが――』


「99%で否定されない……? 結局良いのか? 悪いのか?」


 言い回しもややこしいし、長々と書かれていて良くわからん。


 首を傾げながらじっと紙を眺めていると父さんがリビングに入ってきた。


 父さんは俺を見て顔を青ざめさせた。


「る、塁!? それを見たのか!?」


「え? あー……うん。何これ?」


 父さんは大きなため息をついて諦めたように首を横に振って俺の前に歩いてきた。


「前にお遊びの遺伝子検査キットをやっただろ? 四人で」


「あー……冬埜がやりたがったやつね。自分の先祖のルーツがわかるっていう」


 先祖と言ってもはるか昔。しかも、アフリカだとかヨーロッパだとかアジアだとか、そんな大雑把な括りだ。


「そうだ。で、冬埜は誰ともルーツが違っていた」


「あったなぁ……そんな話」


 俺はなんとなく父さんと母さんとルーツが混ざったような感じだったが、冬埜は、俺とも両親とも違っていた。その時は皆して『あてにならない』と言って笑っていたのだが、そうでもなかったらしい。


「え? ちょ……ちょっとまってくれ! じゃあ俺も……」


「いや……ん? 塁、この紙を見たんじゃないのか?」


「見たけど……良くわかんなくてさ」


 日本語が難しくて。


「なるほどな。ま……早い話が塁は正真正銘、俺と母さんの子だ」


「冬埜は?」


「冬埜は……父さんと母さん、どちらとも血縁がない。つまり、他人なんだ。最初は父さんも疑ったんだ。母さんがで……なんてさ。けど、塁と親子である以上、それはないってことがわかった」


 不意に登場した親父オヤジのオヤジギャグ。


「笑えないぞ」


 父さんは「だよなぁ……」と呟いた。少なくとも、誰も気づかないうちに冬埜が本来の双子の妹と入れ替わっていたということになるのだから、笑えるはずがない。


「ま、何はともあれ、この事は秘密だ。何があったのかも考える必要はない。だって、冬埜は俺の大事な娘だからな」


「俺の妹でもある」


 父さんとにやりと笑い合う。


「そういうこと。母さんはこのことは知ってるけど……まぁそれだけ」


「了解」


 俺は頷いてコップに水を注ぎ、階段を登り2階にある部屋に戻る。


 俺の部屋のはずなのだが、いつの間にか冬埜が侵入して椅子に腰掛けていた。


「おー、帰ってきたなー」


 冬埜がいつものようなローテンションな雰囲気で俺に話しかけてきた。


 冬埜は気だるそうだがそれでも大きな目をしていた。俺はどちらかとちえば細い方。


 冬埜は女子の中でも背は低い方だがバランスの整った等身をしている。俺は背は高いが顔がでかい。


 冬埜はサラサラのロングヘアだが縮毛矯正はしていない。俺はくせ毛体質。


 これまではただの個性だと思っていたことが『違い』として浮き彫りになって、実の妹ではないと言う事実を裏付けてくる。


「……下に水を取りに行ってただけだよ」


「そうかー。私のジュースは持ってきてないのかー?」


「一緒に取りに行くか?」


「むー……珍しいな。いつもは『自分で取りに行け』なんて言うじゃないか」


「そういう気分なんだよ」


「一体どういう気分なんだ……」


 冬埜は口ではそう言いながらも微笑んで立ち上がり、俺と腕を組んできた。


「なっ……何をしてるんだ!?」


「兄貴がらしくないことを言ってくれたからなー。私もらしくないことをしてみたんだ。何を照れることがある? 私達は二卵性双生児、双子の兄妹。大切な片割れ同士だ」


 冬埜は無邪気にそう言って笑顔で俺の腕に顔を擦り付けてくる。双子とはいえ異性の高校生同士でやることか!? と思うが、そんな微笑ましいツッコミも冬埜が実の妹ではないという事実にかき消されていく。


「そうだよなぁ……冬埜は俺の妹だもんなぁ……」


「あぁ、そうだ。私は兄貴の妹だ」


『血の繋がりなんて関係ない。これまで過ごした記憶は本物だ』なんてセリフはこの手のドラマで幾度となく見かけた。


 そして、それは本当にそうなんだと強く思いながら冬埜とリビングへ向かった。

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