第57話 七海ちゃんレポート1
「さて、じゃあ調べるとしますかね」
先輩たちが無事に家にたどり着いたのを確認した私は藤田先輩の調査をするために動き出す。
とはいってもどこにいるのかわからないから調査って言っても難しいんだけど。
「まあ、知ってそうな連中に聞いてみるしかないかな」
知ってそうな連中と言えば野球部員だろう。
彼らは藤田先輩のせいで甲子園出場停止処分になったわけだから相当に恨んでるはずだし絡みが多かったから何かしらの情報を知っている可能性が高い。
「でも、私野球部に知り合いいないんすよね。どうしたもんかな」
適当に聞き込みだけでもしてみますか。
居場所が分かればそこを中心に探ればいいしわからないならわからないで別の手段を取ればいい。
とりあえずはやってみますか。
◇
「あはは~ヘイトすごかったな~」
適当に野球部の先輩に聞いてみたらいろんな情報が聞こえてくる聞こえてくる。
何なら聞いてもない情報まで聞こえてきたし。
相当恨まれてるんだろうな~
「まあ、やらかしたことを考えれば当然っちゃ当然っすけどね」
高校球児にとって甲子園はまさに夢の舞台だろう。
そこへの挑戦権を手に入れられたのに出場停止なんてひどすぎる。
それを招いた藤田先輩はまさに親の仇のように扱われていた。
「ま、おかげで住所とかそこら辺を教えてもらえたんで私としては全然良いんすけどね」
正直彼がどんな目に遭っていようが私には関係がない。
何なら面倒を起こす前に野垂れ人でくれたほうが私としてはありがたいくらいだ。
「さて、ここら辺に住んでるって言ってましたけど本当にいるのやら」
野球部の人が言っていた情報を頼りに藤田先輩が住んでいると思われる場所付近に到着する。
家を訪ねるわけにもいかないので私が見つけるしかない。
「面倒だな~でも、やっとかないといけないのがつらいところ」
先輩に頼まれたからって言うのもあるしあの人を野放しにして天音先輩に危害でも加えられたら大事になってしまう。
それだけは避けないといけない。
「とはいってもこの時間帯にここに来るかどうかもわからないし今日はこれくらいにして帰ろうかな。もう時間も遅いし」
日は完全に落ちきっていて辺りは暗い。
今いる場所は閑静な住宅街だから人通りも少ない。
わたしみたいなか弱い女の子がいていい場所と時間帯ではないだろう。
「さて、家に帰ってゆっくりしよう。明日は土日だからそこでもっと詳細な情報を集めることにしようかな」
私はこの土日に何を調べるかを考えながら帰路に就いた。
◇
「う~ん、やっぱり偶然見つかるなんて都合よくはいかないか」
次の日も私は藤田先輩の家付近を張っていたのだがやはりそう簡単にはいかないようで見つからない。
そもそもここが本当に藤田先輩の家なのかも怪しい。
でも、あそこで野球部の先輩が嘘をつくメリットなんか無いし。
「これは、長期戦になりそうっすね。面倒な」
経験上こういう時は調査が長引くことのほうが多い。
しかも、調べられたとしてもストーカーの正体が藤田先輩じゃなかったら振り出しに戻ることになる。
面倒にもほどがある。
安請け合いなんかするんじゃなかった。
「そこの嬢ちゃん俺らと一緒に遊ばねえか?」
「いえ、人を待っているので結構です」
調査をしているとこんな風な輩に絡まれることが何度かある。
でも、最近はそう言うのをされ過ぎてあしらい方が慣れてきたっすね。
「そう言わずにさ~絶対に楽しいから!」
「ですから結構です」
「なぁ~いいじゃねえかよ」
男はそういって私の腕を掴んできた。
とっさに振りほどこうとするけどなかなか力が強くて振りほどけない。
「じゃあ、行こうか」
「行くってどこに! 離せ!」
抵抗しても引っ張って連れて行かれる。
大声を出しても周りに人はいない。
目の前には大きめの車。
あそこに連れ込まれたらいよいよやばいっすね。
「あんた何してんだ?」
「あ?」
「その子嫌がってるだろ? 離してやれよ」
そういって男の手を掴んでいたのは見覚えのある人物だった。
◇
「なんで先輩がここに?」
「そんなことは後だ。手を放してここから失せるかそれとも警察に突き出されるか選んでいいぜ?」
男の手を掴みながら俺は目を見ながらそういって手を掴む力を少しずつ強める。
最近は少しずつ筋トレを再開したからかして前よりも幾分か力を込められている気がする。
「ちっ、覚えてろよ! クソガキ!」
手を押さえながら前にあった車に走って乗り込んですぐに走り出してしまった。
逃げ文句が完全に三下のモブキャラだな。
あれは。
「助けてくださってありがとうございます」
「別にいい。それよりもなんで七海さんがここに?」
「それはこっちのセリフなんですけど?」
ここは確か悟の家の付近だった気がする。
調査をお願いしておいてなんだけど悟の家を教えて無かったと思ってメールしたけど全く既読が付かなかったからここまで一応確認に来てみたんだけどまさかもう住所まで調べ上げてるとは。
探偵の娘恐れ入る。
「いや、調査をお願いしておいて住所とか教えて無かったからメールしたんだけど既読つかなかったから一応確認に来たんだけど、本当にいるとはね」
「そういう事っすか。確かにメール来てる」
七海さんはスマホを取り出して画面を見ながら「ゲッ」と声を上げていた。
今回は偶然助けれたけどこんなことが毎回起こるわけない。
ここら辺は治安が悪いし何かと物騒だ。
やっぱり悟の件は俺の方で調べるか。
「とりあえずここから離れようか。何が起こるかわかんないし」
「そうっすね。またあんな連中に絡まれたらたまったもんじゃないっす」
「だな。行こうか」
「はいっす」
とりあえず場所を変えて話をすることにした俺たちは移動を開始する。
◇
「明日から悟の調査はやめてくれ」
「なんでっすか? まだなにも調べられてないっすけど?」
「今回の件でわかったと思うけどあそこらへんは治安が悪い。君みたいな可愛い女の子が一人でいると危険すぎる。まあ、依頼した俺が言うのもなんだけどね」
完全に忘れてたけどあそこらへんは治安が悪いんだった。
瑠奈と悟の家に行くとき何回か危なそうなやつに絡まれたことがあるのを忘れてた。
「本当に依頼した人の言う事じゃないっすね」
少し呆れがちに七海さんはため息をついた。
呆れられても仕方がないか。
「そういうわけでやめてくれていい。今日は送っていくからもう帰ろう」
「よくないっすよ。私はこれでも探偵の娘です。一度受けた依頼はやり遂げます。先輩は私のことを心配してくれてるみたいですけど今回は油断しただけです。ああいう危ない地帯だと今回の一件でわかったので次からは護身具を持っていきますよ」
「……護身具って?」
「スタンガンとかスプレーとかその他もろもろっす。少なくとも並みの不審者なら撃退できる代物ですよ」
絶対に一般人が持ってなさそうな物の名前を挙げる七海さん。
やっぱりこの子は可愛いだけの女の子じゃないようだ。
「でも、危ないだろ?」
「うるさいですよ。これは私のプライドの問題ですので。送っていただく必要もないです。では私はこれで」
「あ、ちょっと……行っちゃったよ」
呼び止める前に七海さんはどこかに行ってしまった。
全く話を聞かない後輩だ。
「これでも結構心配してるんだけどな」
まあ、どれだけ心配してるって言ったところで彼女は止まりそうになかったけど。
「はぁ、帰るか。これ以上時間をかけると永遠に怒られそうだ」
ちょっと散歩してくるって言って出てきたから変に時間をかけると怪しまれるかもしれないからな。
俺は小走りで来た道を戻ることにした。
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