第56話 空の恋心(鈍感?)
「そういえばだけど俺たちの両親の可能性はないのか?」
「ないでしょうね。あの人たちはそこまでの危険を冒してまで先輩たちに何かをしようと考える人物ではないはずっす」
帰る直前に俺は疑問に思ったことを七海さんに聞いていた。
ストーカーの犯人候補だともしかしたら両親もなんじゃないかと思ったのだが……
「そうなのか?」
「はい。言っちゃなんですけどこの前先輩から聞いた話をまとめると先輩の両親はなによりも世間体を気にしているように思えます。そのうえで先輩がご両親の世間体を揺るがしかねないカードを提示したのであればそれ以上干渉はしてこないというのが私と後藤さんが出した結論です」
「なるほど」
的を射ていると俺も思う。
それに後藤さんがそう分析したのならきっとそうなんだろう。
つまりほとんどの確率でストーカーの犯人は両親ではないという事か。
「そういう事っす。じゃ、私は今日も先輩たちをつけてる人間がいないかを確認してから藤田先輩の調査を始めるっすね」
「ああ。お願いするよ。何回も言うけど危険の及ばない範囲でね」
「わかってるっすよ。本当にやばくなったら連絡してもいいっすか?」
「当たり前だ。なんなら本当にやばくなる一歩手前で連絡してくれ。すぐに助けに行くから」
「頼もしいっすね。じゃあそうさせてもらいます」
「おうよ」
それだけ言って俺は七海さんと別れて永遠のもとに向かう。
とりあえずはいつものごとく七海さんの調査結果を待つしかない。
「できれば美空の勘違いっていう線が一番いいんだろうけどな」
こんなのは希望的観測だって理解はしている。
でも、そう願ってしまう。
もうこれ以上誰かが危険な目に遭ってほしくないし遭わせたくもない。
「空遅いわよ?」
「ごめん。ちょっと話し込んでて」
「そう。まあ、いいわ。早く美空ちゃんの所に行きましょう。待たせると悪いわ」
「だね。行こうか」
俺たちは二人して目配せをすると歩き出す。
最近は俺たちが付き合っているという噂が広まっているからか騒がれるようなことも初期に比べればほとんど無くなったように思う。
まあ、実際には付き合ってないわけだから生暖かい目で見られても気まずいだけなんだけどね。
◇
「美空ちゃんお待たせ」
「永遠姉さん!全然待ってないですよ。いつもわざわざ迎えに来てもらってありがとうございます!」
「全然良いのよ。これくらい」
やっぱり二人が仲良くしているのを見るととてもほっこりするな~
俺は二人を見ながら心穏やかな気分になっていた。
「じゃ、帰ろうか。とりあえずは安全が確認できるまで寄り道とかはしないほうがいいだろうし」
「うん。そうだね」
「じゃあ帰りましょうか」
最近では日常の1ページとなってきている三人での登下校。
これが何もない状況ならば楽しめたのに。
ストーカーがいるかもしれないとなると全然心が落ち着かない。
全く、早く犯人を捕まえないとな。
◇
「なるほど。そういう感じですか」
私は先輩たちを尾行している人がいないか探していたけどそれらしい人物は今日も見当たらなかった。
でも、一つだけ発見もあった。
「やっぱり天音先輩は柳先輩のこと好きっぽいっすね」
昔から私は天音先輩を知っているけどあんなに幸せそうに過ごしているのは見たことが無い。
中学の頃にご友人ができたみたいだったけどその方が亡くなってから今まで天音先輩は生きているようで死んでいたんだと思う。
そう錯覚するくらいには生気を感じ取れなかった。
「あの感じなら当分は心配いらなそうですね。いいことを知れたし私は私の仕事をこなすとしますか」
今日もそれらしい人物が見当たらなかった。
となると今私が行うべきことはただひとつだ。
藤田先輩の調査。
ある程度の危険は承知の上っすけど、どうなることやら。
◇
「お兄は永遠姉さんのこと好きなの?」
「なんだいきなり?」
夕食を終えて自室に戻り筋トレをしていると珍しく美空が俺の部屋を訪ねてきていた。
いきなりの質問に筋トレがとまる。
「いや、気になってさ。距離感的に嫌いではないでしょ?」
「嫌いになるわけないだろ。というか嫌いになれるところが見当たらないんだけど?」
完璧という言葉は存在しないと思ってるけど永遠は限りなく完璧に近しいと思っている。
容姿もそうだし性格もそうだ。
彼女の何ごとにも努力ができるところは本当に心から尊敬している。
「わかる。永遠姉さんって本当にすごい人だしね。で、うまく話を逸らしたつもりかもしれないけど私は答えを聞いてないよ?」
「お前、そんなことを聞いてどうしたいんだよ……」
美空はいつもは素直でいい妹なのだがこういう時は聞き分けが無い。
年頃の女の子だから恋バナには興味深々何だろうか?
「気になるからって言ったじゃん!それにお兄の今までの経験的に女性不信とかになってないかなって心配してるんだけど?」
「なるほどな」
全くできた妹である。
そこまで心配されているのならごまかすのは無しだな。
「好きだよ。というか、好きにならないほうがおかしいだろ?」
「まあ、確かに。永遠姉さんって女性から見ても魅力的だしね」
「ああ。もちろん容姿だけじゃなくて性格もあり得ないくらいに良いと思う。努力家なところも」
「ふふっ、ぞっこんだね?お兄」
「まあな。これで満足か?」
美空はいたずらっ子のように笑いながら俺を見つめてきた。
全くこいつはいつもいつも俺の内心を見透かしているようで怖い。
「まあね。お兄が女性不信とかになってなくて安心したよ。難しいと思うけど頑張ってね?」
「あいよ」
適当に返事だけ返して筋トレを再開する。
すぐに美空は自分の部屋に戻って行ってしまう。
「全く簡単に言ってくれる。俺と永遠が釣り合うわけないだろうに」
恋愛は一方通行では成立しない。
双方が想いあってやっと実るのだ。
だからこそこの恋は実らない。
何度も言うが俺程度では永遠と釣り合わない。
「俺ができるのは永遠が幸せになれるように問題を解決するくらいだろうな。ま、最近は問題を俺が持ち込んでるんだけどな」
全く皮肉な話である。
「まあ、今は美空のことだよな。何が起こってもいいように昔の勘は取り戻しておかないといけないな」
2か月ほど体を動かしてないから俺が想定してるよりもはるかになまっていた。
何があっても動けるようにしておかないと。
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