幼馴染、ときどき女子高生。リボンをするのは俺の前で。
花宮拓夜
第1話 プロローグ
地元の大きな公園がふと目に留まり、俺は自転車のペダルから地面に足を着いた。
夕焼けのオレンジに包み込まれた公園に、自然と体が吸い寄せられる。
「そういえば、これくらいの時期だったか」
当時、小学三年生――約八年前まで記憶が遡る。
あの日、この場所で、俺はある女の子の涙を目にした。
夕焼けに照らされて水面がキラキラと揺れる池ぼりの前に、当時の自分と彼女の姿がぼんやりと浮かんでくる。
「あたし、そら君とバイバイしたくない……したく、ないよぉ……っ」
俺の服の袖を掴み、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら訴えかけてくる。が、あの頃の俺は――いや、今だって俺は、そんな彼女を引き止める事なんてできはしないのだ。
湯城優愛――彼女は親の都合で、ここ埼玉から東京への引っ越しが決まっていた。
埼玉から東京なんて電車に乗れば大して遠くもないのだが、あの頃の感覚では遥か遠く離れた簡単には行けない場所のようであった。
涙を流す彼女の両肩に手を触れ、少し屈んで目線を合わせる。
「これでバイバイなんて、絶対にさせないから。今より俺がデカくなって、男らしくなって、そしたら……絶対、絶対に優愛を迎えに行くから!」
「ほんと? あたしの事、忘れず迎えに来てくれる……?」
「誰が忘れるもんかっ。それで、次にお互い大人になって会った時――――」
――結婚しよう、か。
夢から覚めたように、幼き日の二人は俺の前から姿を消した。
思えばあの時が、これまでの人生で最も俺が輝いていた瞬間かもしれない。
あんなにも格好良いセリフなんて今では小っ恥ずかしくて口が裂けても吐けないし、それを伝える相手すらいない。
現在、今年で十七歳になる高校二年生――あと数年も経てば大人の仲間入りをしてしまう年齢だというのに、男らしさは小学三年生の自分に完敗している。
こんな状態じゃ優愛に合わせる顔がないし、そもそも携帯番号やSNSのアカウントさえも知らないのだから、会う術すら持ち合わせていない。
「はぁ……どこで何してるのかな、あいつ」
内気なのに俺の前ではやたら明るく、小柄で泣き虫だけどクラスメイトの誰よりも笑顔が可愛い女の子――きっと会わない間に、一段と可愛らしく成長している事だろう。
「結婚相手の枠だけは、ずっと空いてるんだけどなぁ」
とはいえ、小学生の口約束なんてあってないようなものだ。
俺の事なんてとっくに忘れているだろうし、覚えていたとしても約束まで……ましてやそれを果たそうとしているわけがない。
何なら俺だって、今更その約束を本気で果たそうとはしていないのだから。
恋人がいないのは彼女と結婚するためではなく、単純にモテないだけ。
一体俺は、どこで道を踏み外してしまったのだろうか?
小学生時代には確かにあった自信をどこかに失い、今や異性とまともに喋る事さえできなくなった俺――
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