目が覚めたら世界崩壊してたっ(笑)!密室のシェルターで綺麗な少女と二人っきり、何も起こらないわけがないのだが、未知の機械生命体まで襲って来て、シェルターの扉をノックするよ。いるよね?もういいかい?

輝親ゆとり

第1話 見知らぬ場所

 学校に行かないと。

 おぼろげにそう思って、僕がベッドから体を起こすと、天井に頭をぶつけてしまった。そんな近くに天井なんてなかったはずなのに、と思いながら、目を開けると、確かに天井はあった。だが、起き上がったところで頭をぶつけるほど低い位置にはなかった。

 じゃあ、どうして? と考えるまでもなく理解できた。僕は自分が透明な狭い入れ物に入っていたことに気づいた。

「えっ⁉ な、なんだこれ?」

 さらに、自分がいる部屋に見覚えがなかった。目覚めたばかりの私の頭は混乱した。

 夢なのか……。

 それにしては体の感覚はしっかりしているし、部屋の内装も妙にリアルだった。

 白を基調とした部屋。

 壁際に椅子とテーブルがあるぐらいで、他には何一つ家具は置かれていない。物もないし、あとは僕が横になっている、この透明のカプセルのようなベッドぐらいだ。

 部屋自体は清掃されているのか、綺麗ではあるが、生活感がまったく感じられない。病室の個室のような寂しさがあった。

 とにかく僕は外に出ようと、透明の入れ物ーーカプセルのようなものから出ようとした。

 しかし、上部を触ってみたり、手で押してみても、出られそうになかった。こうなったら力づくで出ようと壊す勢いで両手で押すが、体が仰向けになっているので、力が上手く出せずに、ひびすらも入れられなかった。ただ無駄な体力を使っただけだった。

 このままだと学校に遅刻すると思うものの、こんな状況では学校どころではない。どうしてここにいるのかすら思い出せない。自分からこの部屋に来た覚えもなく、それ以前のことも思い出せない。

 前日は普通に学校にいた。家に帰って来ていつものように過ごしていた。それで明日に備えて眠りについた……はず、だ。

 やはり夢なのだろうか。テストも近かったし、現実逃避してこんな空間を作り出してしまったということなのだろうか。もう一度眠りにつけば、次に目を覚ました時にはいつもの日常に戻っていると、僕は大人しく目を閉じることした。

 だが、まったく眠気が来ない。長い眠りについてたように、体が寝たくないと拒否してるようだ。

 どうしたものかと考える。できることがない。退屈だ。スマホもない。SNSが見たい。今の状況はバズるかもしれない。

 そんなことを思いつつ、僕は改めて周囲を見ると、机の上に自分のスマホが置いてあることに気づいた。間違いない。ということは、僕はこの部屋に来た。

 もしかして夜中に急に意識を失って、救急車で病院に運ばれた。それなら話はわかる。身につけている服も寝巻きじゃない。手術する時のような薄手のものだ。この部屋も病室に似ているし、そうだとしたら周辺に誰かいるはずだ。

 僕は頭上のカプセルを叩きながら、声を上げた。

「あの、すみませーん!」

 時間もわからない。他の患者が寝ていることも考えられた。それを気にして声が遠慮がちになってしまった。

 当然誰も来る気配はなかった。ナースコールというものも見当たらないし、もう一度外に向けて呼びかけよう。

 僕はしばらく声をかけ続けたが、一向に反応がなく、次第に声やカプセルを叩く音は大きくなっていった。

 誰も来ないことには、ここからいつまでも出られない。それは困る。非常に困る。というのも、新たな問題が浮上してしまったからだ。今すぐにでもここから出ないと危険だ。

 なぜなら、漏れる。漏らしてしまう。

 この感じは朝起きてまずトイレに行くのと同じだ。そんなにぐっすり寝ていたのだろうか。いや、今はそんなことどうでもいい。トイレに行かせてくれ。

 こんなところで漏らしてしまったら、人として終わりだ。もし漏らしてしまって、誰かがこの部屋に入ってきたりしたら、恥ずかしいを通り越して、泣いてしまうかもしれない。

 ただ、漏らしたのに誰にも気づかれないというのも、それはそれで嫌だ。身動きが取れない状態で、尿と共に放置されるのは気持ちが悪い。

 つまり、そうならないためには、このカプセルから自力で出るしかない。僕はこのカプセルをぶっ壊す――容赦なくぐちゃぐちゃに破壊する勢いで、手だけでなく足や体も使って押し上げた。

「トイレぇえええええぇええっ!」

 だが、びくともしない。頑丈な作りで、これなら大きな地震があって、建物が崩れたとしても、ここに入っていれば助かりそうな気がした。そのまま自分の棺桶になってしまうだろうが。

 僕はバンバンと叩いた。

「漏れるぅっ! トレイに行かせてっ! ここから出してっ!」

 余裕がなくなり、なりふり構っていられなくなって、私は暴れた。青春真っただ中の青年がおしっこを漏らすなんてことになったら、墓場まで持って行く案件だ。

 僕が必死になっていると、どこからか機械的な音声が聞こえてきた。

『声帯認証確認――起動します』

 と、カプセルの上部の蓋がゆっくりと、僕の頭から足先へと降りて行く。よくわからないが、外に出られた。さっきの音声も気になるが、それよりも何よりもトイレだ。

 僕は慌てて部屋の外に出る。その先には長い廊下があり、幸いなことにすぐにトイレの標識が目に入った。急いで駆け込んだ。

 スッキリした僕は、トイレから出ると改めて廊下を見渡した。病院だと思っていたそこは、あまり整然とした綺麗な内装ではなかった。

 至る所で配管が剥き出しになっていて、まだ工事中のような粗っぽさがあった。空調のファンの音も聞こえてきた。床自体はゴミや埃は落ちてない。掃除が行き届いてるようだが。

 それにどこにも窓がなかった。そういえば僕がいた部屋にも窓がなかったと思う。少し奇妙な感じはしたが、部屋に戻ることにした。

 テーブルの上にあるスマホを取る。ロックを外して、ホーム画面を見ると、時刻は昼を過ぎていた。完全に遅刻だ。が、これだけ盛大に遅れているのなら、むしろ諦めがつく。

 僕はSNSを見ようとアプリを開く。

「あれ? おかしいな」

 通信ができていなかった。何度やってもアプリは繋がらなかった。原因を調べようとネットに繋ごうとするが、通信ができないからそもそも使えるはずがない。

 起きたばかりで頭が働いていないようだ。

 僕は部屋を出て、人を探すことにした。誰かに聞かないことには、ここがどこなのか知りようがなかった。とりあえず近くに他の部屋があったので、覗いてみる。病人がいるはずだと思っていたが、どの部屋にも人はいなかった。それどころか、病室のはずなのに、ベッドすら置かれてなかった。ほとんどが倉庫のようで、ロッカーや段ボール箱があるだけだ。

 薄々感じていたが、ここは病院ではないかもしれない。だとするとこの施設は何なんだ。

 長い廊下を歩いていくが一向に人を見かけない。というか、人の気配がない。足音も喋り声もしない。静かだった。いや、静か過ぎて不気味だ。

 僕は急に不安になってきた。誰もいないよくわからない場所に一人だけ。その事実が、次第に恐怖に変わってくる。

 そもそも、僕が寝ていたあのカプセルのようなものもベッドとは違うし、自分の体を見ても怪我をしていたり、気分が悪かったりすることはない。治療のためにいたというのも怪しかった。

 これはむしろ誰かに見つかることの方が、ヤバいのではないかと、陰謀めいたことが頭をもたげた。そんなことあるはずないと思いつつも僕は息をひそめて、近くの部屋に入って、見つからないようにした。

 一体、誰からだ? 自分でもよくわからない。

 見つかったところで、どうにかなるとも思えないし、とにかくもっと情報がほしかった。スマホが使えないのは不便だ。

 部屋に戻ることも考えたが、もう少しこの施設を調べてみようと、僕は先に進むことにした。

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