第6話 「冷静なる刃と迷いなき狙撃」
深見夏菜は、特務機関において冷静さと高い戦闘技術を兼ね備えたエージェントである。
彼女は常に冷静な表情を保ち、感情的になることはほとんどない。肩までの黒髪が揺れる姿はどこか神秘的で、クールな美しさが漂っている。無駄を嫌い、効率的な動きで敵を仕留めるその戦闘スタイルには、一切の感情が介在していないように見える。しかし、その背後には、彼女が抱える過去と、仲間たちへの秘められた想いがあった。
幼少期の夏菜は、家庭において周囲に感情を見せないよう育てられた。
家族の中で彼女は常に冷静であることを求められ、感情を抑えて行動するよう教育された。それが当たり前の日常となったことで、彼女は感情を表に出すことを学ばずに育ち、いつしか周囲の期待に応えようと冷静な表情を装うことが癖となった。その影響で、感情に左右されず、効率を重視する性格が形成されたのである。
転機が訪れたのは、彼女が家族と過ごす時間が終わりを迎えた時だった。
ある日、家族が妖怪の一団に襲撃され、夏菜はその場に立ち尽くすことしかできなかった。短剣を手に、少しでも戦える力があればと願ったが、当時の彼女には守る術がなく、ただその場から逃げることしかできなかった。家族を守れなかったという後悔が、彼女の胸に深く刻まれ、それ以来、彼女は感情を抑え、戦闘技術を高めることに没頭するようになった。
その時から、彼女にとって戦闘は「誰かを守るための効率的な手段」となった。感情に左右されず、最も効果的な方法で敵を倒すことだけに集中する姿勢は、過去の後悔を昇華するための手段でもあった。彼女が双短剣を武器として選んだのも、素早く動き回り、確実に敵を仕留めるための最適な選択であり、そこに迷いは一切なかった。
特務機関での夏菜は、他の仲間から「冷たい」と思われがちだった。
彼女は仕事の場面では一切の感情を見せず、任務遂行のみに徹するため、他人に対して関心がないように見えることも多かった。しかし、その一方で、仲間たちが危険にさらされた時には冷静に彼らを援護し、敵の隙を突いてサポートに回る姿勢から、実は仲間を大切に思っていることがわかる。
冷静さと洞察力に長けた彼女は、リーダーである凛と意見が一致することが多く、任務中に二人が共に戦闘を指揮する場面も少なくなかった。周囲から「似た者同士」と言われることに対して、彼女は表情を変えずに聞き流しているが、内心では凛に対する尊敬の念と、冷静な彼だからこそ信頼できるという思いがある。
ある任務の際、仲間が妖怪に囲まれ窮地に立たされたことがあった。
夏菜は瞬時に短剣を構え、無言のまま敵の背後に回り込むと、双剣に麻痺毒を注ぎ、一瞬で敵の動きを封じた。その冷静で無駄のない動きに、仲間たちは改めて彼女の実力と頼もしさを感じた。その後も、彼女は素早く動き続け、次々と敵を倒していき、まるで自分の体の延長のように短剣を操る。
戦いが終わり、仲間が彼女に感謝の意を述べても、彼女は特に表情を変えることなく「当然のことをしただけよ」と答え、淡々と任務を終わらせた。しかし、仲間が無事だったことに対して、内心でほっとしている自分がいることに気づき、少しだけ驚いていた。
夏菜にとって、仲間との関係は複雑である。
彼女の冷静さと効率重視の姿勢は、時に冷徹と誤解されることがあるが、実際には仲間への深い思いやりがある。ただし、それを表に出すことに慣れていないだけなのだ。彼女にとっての「効率的な戦闘」とは、仲間が安全に任務を終えられるための最善策であり、そのために彼女は誰よりも冷静であろうと努めている。
今も彼女の胸には過去の後悔が残っているが、その冷静な態度は単なる無関心ではなく、仲間たちを守るための強い決意の表れである。
_______________________________________________
斎藤義明は特務機関の中で、圧倒的な精度を誇る遠距離射撃のエキスパートである。
40歳になった今でも、短く刈り上げた黒髪の頭には、いくつかの小さな傷跡が残り、彼が経験してきた戦いの歴史を物語っている。無駄のない筋肉質な体躯と冷静な眼差し、そして少し無骨な外見が、彼に一種の威厳を与えていた。彼の服装は、目立たず機能的な地味な色合いが多い。彼にとって、目立つ服装や装飾品は無用であり、任務において邪魔なものでしかない。
斎藤は任務の際、いつも冷静である。周囲を常に観察し、状況を分析して、最も効率的な手段を選ぶことに長けている。その一環として、仲間に対しても厳しい指示を出すことが多い。特に若いメンバーに対しては、時に厳しく、容赦のない言葉をかけることもあるが、その冷たさの裏には彼なりの深い思いやりが隠されていた。
斎藤は、軍人としての過去を持っている。
若い頃、彼は軍隊に所属し、数多くの戦闘任務に参加してきた。その経験の中で、彼は射撃の精度と忍耐力を磨き上げ、数々の任務で活躍していた。しかし、ある一つの出来事が彼の人生を大きく変えることになる。それは、ある作戦で仲間を救うために放った一発の弾丸が、予期せぬ形で誤った場所に命中し、無関係な人々を巻き込んでしまったことだ。
その時、彼は自分の技量と判断力に絶対の自信を持っていた。しかし、その一瞬の判断が、多くの命を奪ってしまった現実を目の当たりにした彼は、自分の手で人を傷つけることに対して深いトラウマを抱えることとなった。その後、彼は軍を退き、銃を手にすることを避け、しばらく孤独な日々を過ごした。
特務機関に誘われたのは、その数年後のことだった。
軍を離れた彼は、自らの過去と向き合いながら新たな生き方を模索していたが、機関からの誘いを受けたことで、再び銃を手にする決意を固めた。特務機関で与えられたのは、妖気を込めた特殊なライフルだった。通常の銃弾では通用しない魑魅魍魎を撃ち抜く力を持つこのライフルは、彼にとって新たな挑戦であり、自らの過去を乗り越えるための手段となった。
彼は銃を手にした時、過去の恐怖が蘇るのを感じたが、機関の指導者がかけた一言が彼を支えた。「あなたの射撃技術は、守るためのものだ。過去の失敗は無駄ではない。それを乗り越えれば、今度は仲間を守り抜ける」。その言葉に斎藤は励まされ、自分の技術を再び信じることを決意した。
特務機関での斎藤は、仲間たちにとって欠かせない存在である。
彼の射撃精度と判断力は、幾度となく仲間たちの窮地を救ってきた。どんなに緊迫した状況でも、彼は一切動揺せず、最適な判断を下し、冷静に引き金を引く。特に、若いメンバーが任務において危険に晒される時、斎藤は容赦なく厳しい指導を行い、彼らの未熟さや甘さを正す。しかし、彼が厳しく指導する理由は、自らの過去の過ちを踏まえて、仲間たちに同じ過ちを繰り返してほしくないという思いからだった。
斎藤にとって、仲間たちは守るべき存在であり、自分自身の失敗を払拭するための新たな家族でもある。彼は表には出さないが、任務の後にはいつも若いメンバーの行動を振り返り、成長を見守り、彼らがいかに一人前のエージェントに成長しているかをひそかに喜んでいるのだ。
斎藤は、戦闘の場では決して感情を表に出さないが、仲間たちは彼が温かい人間であることを理解している。
彼の冷静な判断力と正確な射撃技術がなければ、特務機関のメンバーがこれほどまでに安心して任務に挑むことはできない。斎藤のライフルの一発一発には、仲間を守り、過去を乗り越えようとする強い意志が込められている。
任務の後、若いメンバーが彼に「今日は助かりました、ありがとうございます」と声をかけることがあるが、斎藤はいつも無言でただ頷くだけだった。だがその心の中では、確かな満足感と、彼らの成長を見届けることへの喜びが秘められている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます