話したくても話せない

第15話 社会ができること - 理解と共感の輪を広げる

Aさんの経験を振り返ると、場面緘黙症を持つ人たちが生きやすい社会をつくるためには、何よりも「理解」が必要だと痛感します。話せないことをただの「性格の問題」と見なすのではなく、それが不安や恐怖から来るものであることを知ること。それが、支援の第一歩です。

無理解がもたらす孤独

場面緘黙症の人たちが直面する最大の壁は、「話せない自分」を周囲に説明するのが難しいということです。Aさんも、話せないことで「怠けている」「やる気がない」と誤解されることが多かったと言います。

「何度も説明しようと思ったけど、そもそも話せないから説明できなかった」と、彼女は言います。この無理解が、彼女をさらに孤立させ、社会との接点を薄れさせていく原因になっていました。

私たちは、場面緘黙症を「怠け」や「恥ずかしがり屋」といった単純な言葉で片付けるのではなく、その背景にある不安や心の葛藤を知る必要があります。

理解を深めるためにできること

社会が場面緘黙症を理解するためにできることは、実はそれほど難しいことではありません。

1. 話せないことを責めない

「どうして話せないの？」と問い詰めることは、不安をさらに悪化させるだけです。「話さなくても大丈夫だよ」と伝えることで、安心感を与えることができます。

2. 話す以外の方法を尊重する

メモやジェスチャー、メールなど、言葉以外のコミュニケーション手段を積極的に受け入れる姿勢が大切です。

3. 無理をさせない

話すことを強要するのではなく、その人が自然に話したいと思える環境を整えることが必要です。

4. 知識を広める

学校や職場で、場面緘黙症について学ぶ機会を設けることも効果的です。正しい知識を広めることで、偏見や誤解を減らすことができます。

共感が生む力

Aさんが「話せない自分」を受け入れるきっかけになったのは、周囲の人々の共感でした。

「話せなくても大丈夫」と言ってくれる家族や、「君のペースでいいよ」と見守ってくれる上司の存在。それが、彼女にとってどれほど大きな救いになったかは計り知れません。

「人は、理解されるだけでこんなに楽になるんだ」と彼女が話してくれたとき、私も心から共感しました。話せないことで苦しんでいる人に対して、無理に変化を求めるのではなく、ただ「そのままでいい」と受け入れること。それだけで、心の負担は大きく軽減されるのです。

一人ひとりができること

私たち一人ひとりが場面緘黙症に対する理解を深め、周囲の人に伝えていくことが、社会全体の変化につながります。たとえば、次のようなことから始められます。

• 場面緘黙症についての情報を共有する。

• 学校や職場で、当事者に寄り添った対応を心がける。

• SNSやブログなどで、自分が知ったことを発信する。

小さな行動でも、それが積み重なれば大きな変化を生むことができるはずです。

Aさんの言葉が教えてくれたこと

Aさんは最後にこう言いました。

「話せないことは私の一部だけど、それを理解してくれる人がいると、生きるのが少しだけ楽になる」

その言葉に、私は社会全体が変わる可能性を感じました。たった一人の理解者でも、当事者にとっては大きな支えになります。そして、その輪が広がることで、誰もが自分らしく生きられる社会が実現するのではないでしょうか。

次回は、場面緘黙症の理解を深める教育や取り組みについて具体的なアイデアを共有したいと思います。それが、未来をより良いものにするための鍵となるでしょう。