第5話 ザンギ

 それから三週間、村上は「スター」の前にいた。「スター」は、閉まっていた。張り紙があった。内容は、

「今回、都合があり閉店させていただきます。短い期間でしたが有難うございました。店主より」

 

 末娘の郁子が去り、職人の典三てんぞう何処どこかに行ったようで「スター」は終わったのです。店主も女将おかみさんも心が折れたようで、店を続けるのは辞めたようです。


 それから、半年ほどして山瀬から手紙が届いた。

『この前は、色々あってすまんかった。今は、郁子と神戸の安い長屋に居る。なかなか就職が無かったが、今度、ブリジストン渉外しょうがい担当の部署に入ることができた。なんとかかんとかや。また、来年には、郁子と一緒に親たちに会うと思っている。その時には、また酒を飲もうぜ』

 それから村上と山瀬とは10年程会わなかった。山瀬は海外転勤になったのだ。


 職人の典三は、郁子と結婚するはずだったのだ。大将が、二人を一緒にして「スター」を代替わりをするはずだった。だが、郁子が去ると、職人の典三は落胆する。美人の郁子と夫婦になり「スター」の大将になるというあてはずれたのだ。

 典三は、博打、女遊び、酒etcと自堕落じだらくになって行きました。典三にとっては、天国から地獄に蹴落けおとされたのだ。結局、典三は、今治に居られなくなり、夜逃げをしたのだ。借金取りから逃げ、大阪、東京、青森、と転々とする。そして、最後には北海道まで逃げたのだった。


 ちなみに、関西圏とか中国・四国とか九州から逃げると北海道に行くことが多いらしい。と云うのは、青森までは行くが、津軽海峡からは出ないようで、借金取りもそこまでだと云う。それで、北海道に逃げる人が多いようです。典三も釧路の郊外にある所謂今治村と云う処にひそんでしばらく居たようです。今治村は、今治から夜逃げした人たちが多く居る処で、釧路の人には今治村と呼ばれているようです。北海道は、所謂、広島村、福岡村、松山村とか色々あるようです。夜逃げして北海道に移った人たちが居るようです。

 典三は、三年ほどして金をめ、釧路で居酒屋を始めたのです。昭和30年頃だと思います。無論、看板の一品は「せんざんき」です。すぐに評判になり、釧路の「せんざんき」は北海道の郷土料理になったのです。簡略にされ、「せんざんき」は、「ざんぎ」となりました。

 以上です……


                               終わり


 

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