第4話 関西汽船が霧の中に
その夜11時、関西汽船の待合室に山瀬と村上がいた。
郁子は出て来ない。
「ボー……ボボー……」
波止場全体を出発の
「やっぱり、親の心に
山瀬は、ポツンと一言云った。
関西汽船は
その時だった。
「待って、待って」
郁子の声だった。
郁子は走って山瀬の胸の中に抱いている。
だが、汽船は桟橋からは50メートル離れていた。
「ちょっと待っとけ」
村上が云うと、関西汽船の事務室に入ると、
「二人遅刻したんやけどな。どうにかしてくれんか?」
事務員に聞くと、
「規定にありますので、そういう事は出来ません」
と云う。
「その二人は、駆け落ちや。放っといたら心中するかもしれん。そうなってもええんか。あんたも後生悪しな」
村上は、そう云うと、他の事務員が、
「お前が駆け落ちするのか?」
事務員は知り合いだったのだ。
「わしじゃない。この二人や」
村上がそう云うと、その事務員は、
「分かった。無線電話で船が帰る様にする」
と云うと、無線電話室の中に入った。
やがて、200メートルまで行っていた汽船が帰ったのだ。
そして、二人は手に手を取って船の中に入った。
もう一度、汽笛を鳴らし、蛍の光を流した。
春とは言え、夜になると気温が下がる。霧がゆっくり流れ、やがて関西汽船は霧の中に消えて行った。
ここまで話すと一つ歌が出て来る。
つれて逃げてよ
ついておいでよ
夕暮れの雨が降る 矢切の渡し
親のこころに そむいてまでも
恋に生きたい 二人です
~~二番もいこか~~
見捨てないでね
捨てはしないよ
北風が泣いて吹く 矢切の渡し
噂かなしい 柴又すてて
舟にまかせる さだめです
~~ついでに三番もいこか~~
何処へ行くのよ
知らぬ土地だよ
揺れながら櫓が咽ぶ 矢切の渡し
息を殺して 身を寄せながら
明日へ漕ぎだす 別れです
矢切の渡しではなく関西汽船です。江戸川ではなく瀬戸内海です。他はだいたい同じです。
歌は、ちあきなおみ 細川たかし とありますが、私は、ちあきなおみの方がええと思ってます。
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