プラタナスの話・彗星は爆ぜ、創世は溢れる

 今でも思い出すのは、揺れる車の中でゲームをする僕を止め、夜空を見せてくれた日のこと。


「こんなところでもゲームとは、時代も進んだな……」


「星はいつでも見れるよ。雨さえ降らなければ、珍しいことでもないし」


 宇宙どころか、世間知らずな子供。電子機器が発展した世の中、それまではそこが世界だった。僕はおじさんに連れられて、星の見える丘にやってきた。半ば強制だけど。


「ちょっとはこっちに目を向けろ!」


「あっ……、強化素材あとちょっと必要なのに」


 そもそも僕が天体観測をするようになったのは、おじさんと一緒に星の見える丘に行った時以来なんだ。当時の僕は、星なんてただ同じように光る地理としか思わなかったしね。


「ほら、来るぞ」


「はぁ……」


 でも、あの特別な夜空は僕の全てを飲み込んだ。おじさんは気づいてたかな。僕の全身が震えて、感動のあまり息を呑んだことを。だって、僕の目を奪うものは、いつも近くにあったから。


「え……っ!」


 一等星から三等星まで散らばる夜空に、突如弧を描くように落ちては、儚く消える光。ネットで調べたら、彗星が砕けて飛び散るカケラが、隕石となったとされているけど、「物事はそういうものだ」って言い訳で片付けられるのが気に入らない。だから、あらゆるものが完結をたどるしかない事がどうしても納得できない。


 僕の欲は、絶対に完結しない。


「やっぱり僕には、宇宙が待っているわけだ」


 そこから、僕の日常は夜空に吸い込まれた。箱の中から覗く、暗い空に存在する無数の光は、こんなにも心が躍るものだったなんて。日が昇るのを止めてほしいと何度も願ったくらいだ。でも、僕のような青二才に、それらを科学的に証明したところで……。結局全てを知るには、僕の研究はあまりにも安直で、虚栄に過ぎないことを思い知った。皆がいずれ知ることを先取りするだけでは、僕には物足りなくて。僕が欲しいのは、絶対的な賞賛こたえじゃない。


 宇宙には、人と星を繋ぐ何か、そして全てが生まれることに為すべき意味があったのではないかと。


「あっ……、僕だけの、星……!」


 あの日、僕の中でビッグバンが起きたように、次々と僕の感情や探究心は星の数だけ生まれた。これで人間は生まれる、そして遥か遠くの無限の彼方へと旅立つ。散らばる意味が、朧げな存在理由が、全て物語の一部として集約されていく。その光が、その宇宙が、無限にある未知の疑問を紡いでくれたから。


 人類の存在がアダムとイブの罪の証であるように、人の命がいずれ星になることが本当なら、生と死だけが答えじゃない。僕を蔑もうが讃えようが、何もかもを無視して怒られようが、そんなものはどうでもいい。全ては星が教えてくれる。答えを見つけるだけで、新たな疑問を見つける。ただ無限に広がる宇宙のように、星の数だけ疑問があればあるほど僅かな光は強く輝く。それだけで僕の燈が、宇宙でただ一つしかない星となる。そう、僕はいずれ……、になるんだ。


 7月31日、雨上がりの快晴の夜。

 今日の流れ星は、いつもより一段と綺麗に見える。惑星も変わらぬ輝きのまま。また宇宙の新たな概念を見つけるための考察が浮かび上がった。


「変化がなくても面白いね、星って」


「相変わらず宇宙マニアだな。本性は宇宙人か? 空なんていつでも嫌と言うほど見れるのによ」


「そんなこと言わないでよアーロン。これは大事な研究なんだから」


 以上、これを持って今日の観測を終了とする。


「明日はどんな宇宙が観られるかな」

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軌跡のアウトライン(仮称) レイ @reeeeeeey1222

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