Pre-Chorus.
7
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☆音夢崎すやり☆
夢の世界の精霊にして、人間世界の年齢でいうと、17歳の女の子。暗い夢に覆われた人間の世界を明るい夢で満たすため、今日も皆に元気を与え続ける!
好きなもの:歌うこと、ドーナツ
嫌いなもの:虫
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それでも、当の『中の人』は自殺しようとしているのだから、設定は設定でしかないし、三次元の世界の闇に呑まれたら、所詮二次元の世界では太刀打ちできないのだと分からせられる。
――そんなことを思いながらも、燻離学生が襲来してから4日。
自身の研究と並行し、私は何だかんだと、自律AIのVアイドルを作成に取り掛かっていた。燻離学生からモデルや設定資料、ボツとなった音声データ、更には自身の割と詳細なライフログ(インタビューでも聞いた家族構成や動機どころか、幼い頃の写真や動画データ、更にはこれまでの人生を綴ったものまで。否が応でも本気だと感じさせられる)などなど、音夢崎すやりのファン(あるいはストーカー)からしたら
だが、私がやるのはここまでだ。
今も私は、スパイプログラムを埋め込むつもりはなかった。少なくとも、似た様なフェイク技術を埋め込むつもりでいる。
大体あんなモノ、外に出せる訳がない。そんなことをしたら最後、私はおろか、燻離学生までも消されてしまう――人知れずに。
そんなことはもう、絶対に起こしたくない。克己が消えただけでも、相当堪えたのに。
失敗は、教訓を得て同じ失敗を繰り返さないからこそ有意義なのだ。繰り返しては意味が無い。
しかし、ならば――と私は思う。
一体、私は何をしているのだろうか。
無論、自律AI開発を引き受けた目的は明確だ。彼女の自殺を止めるために――ひいては彼女の計画を頓挫させるためにどうするか、
こんな状況で自律AI制作に着手するのは、中々に虚無的な感情を抱かせた。だから思ってしまうのだ――一体何やっているんだろう、と。
【だよねだよねっ。スタパの新フレーバー、めっちゃ美味しいよね! アレさ、ダークモカチップとチョコソース、それとシトラス果肉を合わせたら、めっちゃ『オトナの味』って感じでオススメだよ! ……『コーヒーも飲めないのに「大人」かあ』って! 良いじゃん、コーヒー飲めなくても!】
そんな私は(半ば燻離学生に押し付けられる形で)音夢崎すやりのアーカイブをながら見していた。これも、自律AIを作る糧とするため――恥ずかしながら、私はアイドルについて何も知らない。だから、知らねばならない。燻離学生が満足のいくアイドルに仕上げる為には。
すやりのチャンネル登録者数は、長期休業が影響しているのか、30万人を切りそうになっていた。だがそんなこと、燻離学生は気にしてないのだろう。後釜に完璧で究極なアイドルが据えられれば、そんな些事は全て解決するのだから、と。
それにしても、アーカイブ内の彼女の活動は目を見張るモノがあった。
まず肝心の歌。燻離学生が来たあの日にもアーカイブで聴いてはいたが、はっきり言って物凄く上手い。
歌に詳しい訳ではないので、どう表現すれば良いか困るのだが、ポップスもロックもそつなくこなす歌い方の引き出しが多い。滑舌もいいのでラップも歌えるし、表現も多彩。実際、それを褒めるコメントが、動画の下にはズラリと並んでいた。
そして彼女は、『グローリンボーイ』という曲のカバーで
さらに、この歌唱力を武器に、他の歌手ともコラボしていた。すやりは、上手すぎて浮くこともなく、自然にコラボ相手と馴染んでいる。相当な実力者と断ずるに十分だった。
他にも、歌配信や『歌ってみた』動画と並んで多かったのは雑談配信。主に1人で配信を行い、リスナーとワイワイ話すことが多いようだ(ちなみに、有料課金のコミュニティ限定配信、
そしてこの雑談、より正確にはエピソードトークが中々面白い。例えば、友人と墓場で肝試しをすることになった
あの燻離学生の雰囲気に反し、中々
あとはいわゆる企画モノ。友人のVアイドルなどのコラボで行うことが多く、パーティゲームのバトル配信(罰ゲーム付き)だったり、ただワイワイと流行りゲームを遊んでいるだけのものもあった。どれもこれも楽しそうな彼女の姿が伺える。この企画モノから、歌ってみたのコラボに繋がることもあったようだ。
さらにはショート動画(いわゆる、1分以内の長さの動画)もかなりの頻度で投稿している。過去のコラボ動画の切り抜きもあったが、流行り楽曲に乗った歌唱動画だったり、短い雑談だったり。マンネリ化を防ぐためか、同じテーマがなるべく続かないような配慮を感じる。
このように、バズった後も、上手に勢いに乗って有名になった、という印象を抱かせる。
これらに加えて、ツインテールがチャームポイントの可愛らしい立ち絵。なんでも、有名なイラストレーターに依頼をしたらしい。成程、これでSNS対策までしていれば、確かに登録者数は増えるだろう。
それでも、31万人という数字は中々の異常値だ。普通にやって届く数字ではないことを、慈愛リツの件で学んでいる。しかも恐るべきことに、すやりは事務所に所属していなかった。つまり、登録者数を増やすノウハウを事務所に頼らず独力で見つけ、着実に成果を上げていたということになる。控えめに言って才覚に満ち溢れているし、運を味方にもつけながら、実力を存分に活かすための努力をしていたのだろう。
本当に、頭が下がる。
――正直に言おう。
配信をながら見していて尚、私は徐々に確かに、音夢崎すやりのファンになっていた。深みにハマった訳ではないが、それでも彼女というアイドル性には惹かれたのは事実だ。
しかも、あの『中の人』の実態を知った上で、だ。それでも惹きつけられる努力に基づくスター性が、彼女には――音夢崎すやりには、確かにある。
そんなスターを――『夢の世界の精霊』を、燻離学生は潰さんとしている。私の開発しているスパイプログラムは、そういう可能性を十二分に
それでも、彼女がスパイプログラムを入れようと考えるきっかけとなった、誹謗中傷。
その実態を最初に目にしたのは、最近の生配信アーカイブのコメント欄。
これが、まさしく地獄の様相を呈していた。
(Seg.)
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