Magicien et Non-magicien 《魔術師と非魔術師》
◇◆Liam◆◇
切りそろえた前髪をきちんと分けた紺色の髪に、漆黒の瞳は、フレデリックとそっくりだった。
名前は
魔術師を専門として診られる医者が極端に少ないため、特殊魔法を発現した者から相談をされることも多く、この街の者の特殊魔法の概要は大体知っていると言っても過言では無い。無論、そこに隠された秘密までは知らない。
「エリックくん」
話しかけると緊張感のある目をこちらに向けた。深い漆黒の瞳。
彼も、私のことを知っている。
「気分はどうかな」
エリックは、少し警戒しながらこちらを窺っている。
「先生は……非魔術師をどう思いますか」
やっとの思いで口を開いた第一声だった。
エリックは、非魔術師をあまりよく思っていない。
「私たちと同じ、人間だな」
「…だけど……っ…」
エリックは言葉に詰まる。
沈黙の後、一呼吸をして、エリックはぽつぽつと話し始めた。
「…兄さんはわるくない」
「……」
「悪いのは非魔術師のやつらだ」
「……そうか」
「………先生は、僕を否定しないの?」
「悪いのは非魔術師なのだろう」
「……でも」
「……」
「……だけど…っ」
エリックは感情が溢れるのを堪えているかのように押し黙ってしまった。
「先生…」、とエリックの母は心配そうにこちらを見た。
あの場で何があったのか。私も看取った後警察から聞いた。
これは状況的にはエリックの兄、フレデリックの正当防衛だったそうだ。
数人の非魔術師。
弟のエリックに手を出そうとしたのをフレデリックが庇い、そのまま騒動に発展したらしい。
「……兄さんは」
エリックが口を開く。
「…兄さんは、非魔術師の学校に通ってた…だけど、みんなから馬鹿にされてたんだ。本当は魔法なんか上手く使えない…出来損ないだって…うっ…兄さんは、すごい魔術師なんだ…っ、なんで、そんな…っ」
エリックは嗚咽を漏らしながら感情を吐露する。
「う……っ、く、、僕は……僕は、非魔術師なんか、大っ嫌いだ……!あいつら、、あいつらが、兄さんが……っ!うっ……それに…それにっ!…っうぅわぁあああっ……!」
ぼろぼろと涙をこぼしながら、エリックはわぁわぁと泣き出した。
私は、母親がエリックを抱きしめるのを見ていた。
エリックの気持ちは痛いほど伝わってくる。
このまま非魔術師嫌いがエスカレートしなければ良いが……
しかし
フレデリックは、彼の特殊魔法の特性から、この未来を知っていたのではないだろうかと考える。
もちろん、本当に知らなかった可能性もあるが
彼の魔法は『prédiction future』…つまり、『未来予知』だ。
「エリックくん」
エリックは俯いたまま泣いている。
「非魔術師は、悪い人たちばかりではないよ。中には、良い人だっている」
「……」
「君の魔法は……いや、君のお兄さんが、何か残したことはなかったかな」
「…………」
「自分の感情に嘘をつかなくていい。君のお兄さんが正当防衛だったということは、私も知っている」
「………」
「君が大事に思ったフレデリック君は、同じように君のことが大事だった」
「……っ」
堪え切れずはらはらと涙を流すエリックの、まだほんの小学生のその肩は、とても華奢に見えた。
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