Incident 《事件》

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

à l'Hôpital

-大学病院にて-


人の《死》に立ち会うことは、何度経験しても慣れるものではない


ーリアム

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -


◇◆Liam◆◇


昨夜の騒動は非魔術師にの方に非があると

彼の弟の悲痛な証言から痛いほど伝わった。


私の勤める救急部に搬送されてきたのは20:30を回っていた。

青みがかった紺色の髪。この兄弟のことは知っていた。


しかし、私が診たときには既に手遅れだった。

魔法がゼノ様によって剥奪された後だった。


それは弟…エリックにもわかっていたのだろう。

ただただ、悲しそうに涙を流していた。

泣きじゃくった後であろうその顔の、目は赤く腫れ、涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。

兄に縋り付き、言葉にならない声と共に涙を流す姿に、胸が痛くなった。


その後まもなく肉体が消失するのを見届けた。

魔術師は、魔法を剥奪されると肉体は骨も残さず消滅してしまう。

それは、その内に隠された《秘密》を守るためだとも言うが、これを見届けるのは本当に心苦しいことだと、いつも思う。



フレデリック…どうか、安らかに



消えゆくフレデリックを見つめながら、感情が破綻するエリックを見た

その後まもなく兄弟のご両親が到着したが、フレデリックの最期を見届けられなかったことを心底悔しそうに、また、とめどない涙を流しながらエリックのことを抱きしめて、泣いていた。


人の《死》に立ち会うことは、何度経験してもなれるものではない。


フレデリックのカルテを見ながら逡巡した。私にはいくつか疑問があった。

魔術師でありながら非魔術師の通う大学へ通うことを選んだフレデリック。

そして、彼の《特殊魔法》。

彼は、この未来をどう考えていたんだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る