第3話 交わる情熱と冷静

配属から数週間が経ち、祐介はICUの仕事に少しずつ慣れ始めていた。とはいえ、まだミスも多く、焦りと緊張の日々が続いていた。そんなある日、主任の佐藤から突然声をかけられた。


「坂本、ちょっと来い。お前に見てもらいたい記録がある。」


佐藤が見せたのは、同期の橘玲奈が記録した患者のケア計画だった。

「これを見てみろ。お前の同期の橘が作ったものだ。完璧に近い計画だぞ。」


祐介は内容を見て驚いた。緻密に計算されたケアプランには、患者の病状だけでなく、家族のケアまでが細かく記載されている。

「これを新人がやるのか…すごいな。」

自然と出たその言葉に、佐藤は軽く頷く。


「お前は熱意はあるが、現場では結果が全てだ。橘のような冷静な判断力を見習え。」


その言葉が祐介の胸に重く響いた。


その日の勤務後、同期たちで寮の食堂に集まることになった。祐介、橘玲奈、大谷翔、斉藤萌香の4人がテーブルを囲む。


「祐介、また佐藤さんに怒られたって?」

萌香が笑いながら尋ねると、祐介は苦笑いを返した。

「まあな。でも、橘の記録を褒められてさ。俺ももっと頑張らないとって思ったよ。」


玲奈はその言葉に目を細め、冷静な口調で答えた。

「熱血だけじゃダメってことよね。ICUでは冷静さがないと患者の命を守れないんだから。」


その言葉に、祐介の胸に引っかかるものがあった。

「熱血がダメだって言いたいのか?」


「そうじゃないけど、無駄に動いてミスするくらいなら、一度立ち止まって考えたほうがいいんじゃない?」

玲奈の言葉は冷たく響いた。翔と萌香がフォローする間もなく、祐介は反論した。


「俺は患者のために全力で動くのが看護師の役目だと思ってる。それが無駄だなんて思ったことはない!」


「でも、それで誰かに迷惑をかけたら?それに患者だって、安心してケアを受けたいはずよ。」


二人の言い合いが白熱する中、翔が間に入った。

「まあまあ、二人とも落ち着けよ。俺たち、同期なんだからさ。」


萌香も苦笑しながら言葉を添える。

「そうそう。祐介は熱血、玲奈は冷静ってことで、役割が違うんだし。」


「役割ね…。」

祐介はため息をつきながら椅子に座り直した。


その夜、祐介は自室で一人考え込んでいた。玲奈の言葉に反発を覚える一方で、自分の未熟さも痛感していた。彼女が優秀なのは事実だ。そして、自分の行動が時に空回りしていることも、心のどこかで認めざるを得なかった。


「でも、俺は俺のやり方でやるしかない。」

祐介は自分の胸にそう言い聞かせた。


一方、玲奈も部屋で祐介の言葉を思い返していた。

「熱血ね…。でも、あの情熱は少し羨ましいかも。」


こうして二人は互いに反発しつつも、どこかで影響を受け合いながら成長していくことになるのだった。


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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。もしこの作品を楽しんでいただけたなら、ぜひ評価とコメントをいただけると嬉しいです。今後もさらに面白い物語をお届けできるよう努力してまいりますので、引き続き応援いただければと思います。よろしくお願いいたします。


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