第2話 命の最前線、ICUの全貌

 祐介がICUに配属されて数日が経った。日々の業務をこなす中で、彼は次第に目の前の現場がどれだけ特別な場所なのかを実感していたが、全貌はまだ掴みきれていない。


 そんなある日、主任の佐藤が祐介に声をかけた。

「坂本、お前、ICUがどんな場所か、ちゃんと理解してるか?」

「……正直、まだ全然です。」

 祐介は素直に答えた。


 佐藤は少し笑いながら手招きし、ICUのフロアを案内し始めた。


「いいか、ICUってのは患者の『命』と『時間』を扱う場所だ。ここに来る患者は、どれも命の危機に直面してる。そのために、普通の病棟とは大きく違うシステムで動いてるんだ。」


 佐藤はまず、患者のベッド周りに並ぶ無数の機械を指差した。

「このモニター、見てみろ。」

 モニターには心拍、血圧、酸素飽和度、呼吸数など、複数のデータがリアルタイムで表示されている。


「これが患者の状態を一瞬で判断するための武器だ。お前はこれを見ながら、患者が何を訴えてるのかを読み取らなきゃならない。」


「訴えてる…?」

 祐介はモニターと患者を交互に見つめた。


「そうだ。患者は声に出さず、数字で語ってくる。その声をキャッチするのが俺たち看護師の仕事だ。」


 近くで聞いていたICUの中村彩香医師が口を挟んだ。

「モニターの数値が少しでも変わったら、原因を探るのが看護師や医師の役目。でも、どの変化が重大で、どれが一時的なものかを見極めるのは、経験とチームでの連携が大事になるのよ。」


 祐介は目を輝かせて頷いた。


「ICUでは、患者の命を救うために看護師が果たす役割が特別重要なんだ。」

 話に加わったのは、優しい雰囲気のICU専属医・井上俊介だった。


「坂本くん、ここでは医師だけじゃ患者を救えない。例えば、人工呼吸器や透析装置なんかは、看護師が常に状態を管理してる。機械の異常や患者の体調変化を、真っ先に察知するのが君たちなんだよ。」


 祐介は井上の言葉に気圧される。自分たちの責任の重さを改めて感じた。


 巡回が一段落し、佐藤が祐介に語りかけた。

「最後に覚えておけ。ICUってのは『命の交差点』だ。ここには、命の危機を越えて、普通の生活に戻るための通過点として来る患者もいれば…残念ながら、家族に見送られるために来る患者もいる。」


 その言葉に、祐介は息を飲んだ。


「俺たちの仕事は、どちらの患者に対しても、できる限りのケアをして、本人と家族が納得できる時間を提供することだ。簡単な話じゃないがな。」


 祐介はしばらく無言で天井を見つめた。頭の中で、今まで出会った患者たちの顔が浮かぶ。


「佐藤さん、僕…頑張ります。」

 覚悟を込めた声で祐介がそう言うと、佐藤は満足そうに頷いた。

「その意気だ。お前の熱血っぷりを見せてくれ。」


 こうして祐介は、ICUという特別な場所の本質を少しずつ理解していった。そして、その現場で自分が果たすべき使命を胸に刻んでいくのだった。


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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。もしこの作品を楽しんでいただけたなら、ぜひ評価とコメントをいただけると嬉しいです。今後もさらに面白い物語をお届けできるよう努力してまいりますので、引き続き応援いただければと思います。よろしくお願いいたします。


こんな小説も書いています

呪医の復讐譚:https://kakuyomu.jp/works/16818093089148082252

ナースたちの昼のみ診療所:https://kakuyomu.jp/works/16818093088986714000

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