桜色の殺人鬼-The Velvet Blossom-
小林一咲
第1話 死神との出会い
桜が満開を迎えた春の午後。町中に甘い香りを漂わせる小さな洋菓子店「桜ヶ丘パティスリー」は、平日にもかかわらず大勢の客で賑わっていた。
天才パティシエと呼ばれる店主、
「ふぅ……これで完成」
葉月は完成したケーキを満足げに見つめる。
その名も「The Velvet Blossom(ザ・ベルベット・ブロッサム)」桜リキュールの香り漂うムースの中に、チェリーの酸味とビスキュイの香ばしさを詰め込んだ自信作だ。
「このスイーツ、きっと町中を驚かせるわ」
彼女が自信に満ちた笑みを浮かべたその時、入口のベルが控えめに鳴った。
「いらっしゃいませ」
接客係が明るく声をかけるが、入ってきたのはスーツを着た一人の男だった。彼の姿を見た瞬間、店内の空気が一変する。
男は背が高く、顔立ちは彫刻のように整っていたが、どこか冷たい雰囲気をまとっている。目元に漂う深い影が、その正体不明の存在感を強調していた。
「……失礼します」
低く響く声が店内を包むと、彼はカウンターに近づき、淡いピンク色のケーキ――「The Velvet Blossom」をじっと見つめた。
「これが、"桜色の殺人鬼"か」
葉月は驚き、振り向いた。
「ちょっと待ってください! その名前は違いますよ!『The Velvet Blossom』です!」
男は彼女を見つめると、ふっと笑みを浮かべた。だが、その笑顔にはどこか悲しみが滲んでいた。
「君が作ったのか?」
「ええ、そうですけど……」
「すばらしい作品だ」
そう言うと男はケーキを一つ指差し、注文した。そして、一口食べた瞬間、彼の瞳が一瞬だけ輝きを取り戻したかのように見えた。
「これなら……もしかしたら、私を殺せるかもしれないな」
葉月はケーキを食べた感想にしては、あまりに奇妙な言葉に困惑した。
「え、えええ? 殺せるってどういうことですか? 食べ物ですよ?」
男はケーキを最後まで食べ終わると、ゆっくりと立ち上がった。
「私の名前はルイ。この店にいる間だけ、死神とでも呼んでくれ」
葉月は思わず息を飲む。死神?冗談にしてはあまりにも変だ。だが、彼の言葉と冷たい眼差しには、奇妙な説得力があった。
「あなた、本当に死神なんですか?」
「そうだ。だが、私は少し変わっている。実は……死神にして死に興味がある」
ルイは小さく笑いながら続けた。
「君のスイーツには、私のような存在を消し去る力があるのかもしれない。それを確かめるまで、少しここにいさせてもらう」
「ええええ!」
こうして、死神・ルイと葉月の奇妙な共同生活が始まった。スイーツに命を懸けるパティシエと、自らの命を終わらせたい死神。この春、桜の香り漂う町で、何かが大きく動き出す――。
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『凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜』
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桜色の殺人鬼-The Velvet Blossom- 小林一咲 @kobayashiisak1
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