クラス1の美少女の自殺現場に遭遇したので助けたら好かれてしまい、付き合うことになった件

夜瀬 三日月

第1話 自殺しようとしてる美少女を助けただけなのに

 俺は鈴城 彰人すずしろ あきと

 私立明帝学園しりつめいていがくえんの二年B組に所属する普通の男子高校生である。


 ──だが、その「普通」は今日の深夜に崩された。


 そうあれは、俺がコンビニから家に帰るまでの橋。


 俺はふらっと深夜三時頃に、コンビニに買い物に行って、そこから帰る時に渡った橋で、同じクラスの美少女・鷹宮 春菜たかみや はるなに遭遇した。

 けど、彼女は

 なんと橋の上に立っていて、飛び降りるところだったのだ。

 俺は迷わず彼女の身体を抱きかかえて橋から身投げするのを阻止した。


「──えっ?」

「何やってんすか鷹宮さん、ダメじゃないですか」

「なんで」

「なんでって? 自殺しそうだったから助けただけっすよ」


 泣きそうになっている鷹宮さんの涙を己の袖で拭い、俺は帰ろうとした──が。


「ねぇ……私と付き合って?」

「は?」


 とんでもねぇ爆弾を手渡された。

 しかし俺には既に想い人がいる。

 三年A組の伊園 麻里亜いその まりあ先輩だ。

 亜麻色のロングヘア、透き通るような緑色の目、彫りの深い顔立ち──いつ見ても本当にいい先輩だ。

 いや、鷹宮さんも素敵な美少女には変わらない。

 青みがかった艶のある黒髪を二つにまとめてて、大きくてつぶらな瞳、輝く白い肌、桃色の頬と唇は大変素敵だ。

 二年B組の中では一番ではあるが──。


「すみません、鷹宮さん。俺、好きな人が居るんですよ」

「誰?」

「……三年の伊園先輩」

「ふーん……」


 鷹宮さんがツインテールの髪をくるくると触り出す。

 その姿が愛らしいけど、もうそろそろ帰らないと夜が更けて明日寝坊してしまう。


「私、その先輩より魅力的になるから!」

「いやあの! そう言うことじゃなくて!」

「諦めないからね! 私を困らせた罪、ちゃんと償ってね!」


 意味が分からなかった。

 想い人が居るとなったら身を引くのが普通だろう。

 なんでそこで逆にがっついてくるんだ。本当に意味不明だ。


 ──というわけで、現在に至る。

 俺は見事に寝坊し、色々あって友人二人に揶揄われている。

 というのも……。


「うっわ、鷹宮めっちゃお前のこと見てるんだけど」

「笑うなよお前」

「こっわ、お前なんか恨みかったんか?」

「いや別に。ただ単に鷹宮さんが自殺しそうだったから助けただけ」

「ヒュー、そりゃ大変だ。ラブラブビーム飛んでるぞ〜?」

「でもお前、好きな人居るんだろ? 伊園先輩だっけ?」

「だから断ったんだけど……」


 それでも付いてくる、なんて言ったらこいつら余計にはしゃぎそうだから言わないでおく。

 ──うわっ!


「なんで誘わないの?」

「は?」

「た、鷹宮どうしたん?」

「鈴城になんか用?」

「私を誘ってよ。なんで誘わなかったの?」

「いや普通に、友達を優先しただけっすけど?」


 いきなり彼女ヅラしてくるからビックリした。

 俺はお前の彼氏じゃねーよ。


「オイかーれーしー君っ」

「お前鷹宮のオキニじゃん! ぶはは!」

「やめろって! 鷹宮さんも、俺は彼氏じゃないんですから」

「え? なら私を彼女だと認めてもらうまでアタックするけど?」


 目がキマッてて怖い。

 今度から誘った方がいいのだろうか? でも俺には想い人が居るしなぁ……。

 正直言ってさっさと伊園先輩に告白した方がいいんだろうな。

 ……するか、告白。


「杉下、五月──俺、伊園先輩に告白するわ」

「おっ、急にどしたん?」

「付き合えたらいいな」

「そろそろ決着をつけなきゃダメだと思ってな」


 決着をつけて、そこから鷹宮さんに向き合わないとダメだ。

 人間として終わりだと思う。

 鷹宮さんはいつの間にか居なくなってるし──まあ、いいか。


 ──放課後。

 俺は今、三年A組の教室の外にいる。

 よし! ノックするか!


「すみません、二年B組の鈴城ですが、伊園さんは居ますか?」

「あー、伊園ならもう部活してると思うー」

「あ、そうですか。失礼します」


 伊園さん、こんな早くから部活に向かっているのか。

 俺は急いで文芸部室に走って行く。やがて文芸部室に辿り着いた。


「い、伊園先輩っ……!」

「あら、貴方は二年の……」

「鈴城ですっ……! 伊園先輩……付き合ってください!」


 場が凍った。

 その場にいた文芸部員達みんなが俺の方に視線を向けている。

 なんでその場で告白しようなんて思ったんだろうか。何か申し訳なさを感じたんだろうか。


「……ご、ごめんなさい」


 肩の力が抜け、俺はそのまま地面にへたり込んだ。

 ああ、やっぱりこうなるんだ。なら、鷹宮さんなんて助けなきゃ良かった。


「あら、ごめんなさい。わたし、何か不味いことを……」

「いえ、伊園先輩は悪くないです! 俺! 悪いのは、俺っす!」

「こ・ん・ば・ん・わ」

「ひいっ!」


 鷹宮さんが後ろからいきなりウィスパーボイスで囁きかけてきたので、俺は思わず飛び退いてしまった。


「貴女は?」

「私ぃ、二年B組の鷹宮って言いまーす! 先輩には感謝感激雨あられっ!」

「……そう」

「た、鷹宮さん! あ、すみません! さようなら伊園先輩っ!」

「さ、さようなら……」


 俺は逃げるように(実際逃げているのだから当たり前だが)校舎を出て、通学路まで掛けて行った。


「はぁ……はぁ……! これで、やつを撒いたか……!」

「なんでそんなこと言うの?」

「うわぁ!!!!!」


 いきなり目の前に鷹宮さんが現れて俺は卒倒しそうになったが堪えた。

 あー、失恋の感情を癒すのは新しい恋だとか言ったか?


「鷹宮さん、アンタの言うこと承諾するよ、付き合おう」

「……えっ?」


 目を見開いて紅潮している鷹宮さんがとても可愛くて、もうこれだけで失恋の傷ごと吹き飛びそうになる。


 こうして俺と鷹宮さんは、付き合う事になった──。

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クラス1の美少女の自殺現場に遭遇したので助けたら好かれてしまい、付き合うことになった件 夜瀬 三日月 @Secret_Liar

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