第3話 友達ができて

 「図書室ってやっぱり静か。あんまり好きじゃないけど、セトのためなんだから」


 ウォンや夢の中のセトに言われたとおりに、図書室へ行くことにした。セトがいなくては何も楽しくないし、1日が勝手に過ぎていくだけだ。暇つぶしにでも来てみようと思った。

 西の小川の先、ドーム型の屋根が特徴的な図書室は、数人の子どもたちが利用していた。そこは紙をめくる音でさえ慎重にしなくてはならないので、動くことが好きな私にとっては、あまり得意な場所ではない。


「入ってすぐ右側の下から2段目、奥から5番目ってここのこと?」


 本棚から本を取り出してみると、それはほかの本とは比べ物にならないほどボロボロだった。

 しかしよく見ると、表紙にはとても丁寧に装飾が施されていた。このことから、元の姿はきっと美しく荘厳なものであったと予想できる。

 それを持って、一列に並んだ長い机の上に本をすとんと置くと、既に読書をしていた人たちがこちらをちらりと見た。私はそれを見て慌てて会釈をした。

 耳が良すぎるのもあまり便利ではないのかもしれない。




「おかしな本、何も書いてないじゃない」


 ペラペラと本をめくっていけば、不思議なことに、この本には文字がひとつも書かれていなかった。まさにページのみが挟んであったのだ。

 すると、気配もなくトントンと私の肩を優しく叩いた者がいた。


「あ、あの、その本、あなたが見つけたの?」


 それは、か弱い声と光に反射する丸いメガネをつけて、そ赤く編み込んだ髪を肩に垂らした少女だった。


「そう。私が見つけたのよ。でも思っていたものと違っていたわ。面白いとか、つまらないとか以前に、文字がないんだもの」

「えっと、それは読むんじゃなくて、えっと」

「あなたの名前は?」

「あ、えっ、私? わ、私の名前はビタ。ああえっと、あなたは?」

「私はリラ。セトと仲が良かったから知っていると思ったけれど、そんなことなかったのね。この本の意味、ビタは知ってる?」

「よ、よろしく。う、うん。あっ、えっと、この本は読むんじゃなくて、」


 ビタは本のページをペラペラめくり出すと、とあるぺージで急に止めた。その部分にはとても綺麗とは言えない文字で、メモ書きのように何かが書かれていた。


「東の森は偽物、葉っぱや木々はデタラメ?

北の塔は変な音がする、なにこれ、変なメモばかりじゃない」

「う、うん。この本はそんなふうに、読んだ人がどんどん書き足していくの。あっでも、このことはあまり大声で言わない方がいいみたい......」

「どうして?」


 小さいビタの声が、さらに小さくなって、今度は耳元で喋った。


「た、たぶん、図書室の本に勝手に落書きしてると思われちゃうから、だと思う......」

「そうなのね、私も気をつけるわ。あ、そうだわ。ビタはこのあと予定はあるかしら?」

「えっ、えっと、特には......あっ、でもこの本を返さなきゃ」

「あら、それは早急にしなきゃね。もし良ければ、なんの本か聞いてもいい?」


 ビタは少しためらったようだけれど、自分の事に興味を持ってくれたのが嬉しかったのか、後ろからすっと本を出した。


「う、宇宙の本......かな」

「わあ、とても分厚い。ビタってとても頭がいいのね。私には絶対読み切れないわ」

「そ、そんなことないよ。わ、私も難しい所は理解できてないし、たぶんこの本の4分の一も分かってない」

「それでもすごいわ! ねえ、良かったらその本の内容、少しでいいから簡単に教えて欲しいの。私も空の事がずっと気になってたけれど、前から本が読めないから、わからなくて」


 ビタは目を丸くしていた。私が「お願い! やってほしいことがなんでもあれば手伝うから!」と言うと、もちろん、そんなことであればいつでも構わないと約束してくれた。


「その本はまだ返さずにいた方がいいわね」

「う、うん。あっ、それと、その本も、気になるなら一緒に手伝うよ」


 ビタは優しくて、まっさらの本についても色々教えてくれると言った。

 そういう経緯で、私とビタは毎日、図書室の角の隅に座って、静かに会話をすることとなった。


 過去に、セトは私に本を読むことを進めてくれた。だから、私もそれに応えたかった。セトみたいにいっぱい物事を知っていれば、いつか同じ場所に行けるかもしれない。また、会えるかもしれない。そうどこかで願っていた。

 これがきっとその一歩だと信じて。



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宙の光が浴びたくて ROMU @Romu713

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