【感想】 『花と龍』(1965年/主演:中村錦之助) 立身出世大河ロマン


監督 山下耕作

脚本 田坂啓

出演 中村錦之助、佐久間良子、淡路恵子、田村高廣、月形龍之介、佐藤慶



 四国の田舎から北九州へとやってきた青年、金五郎が同じ境遇の女性、マンと恋に落ち、二人三脚で、のし上がっていく物語……の前編。

 最初にはっきり言ってしまうと本作の主人公、金五郎はヤクザではない。そのことは本人が劇中で何度も言及している。物語は港湾労働の世界を舞台にしており、そうした作品はこれまでもあったが、本作のウェイトは、ほぼ労働者側に寄っている。


 金五郎自身は融通の利かない熱血漢で、カーッとなりやすい性質たちだが、基本的に暴力は好まず、話し合いでの解決を望む。ドスを持って凄んで見せても、それが虚勢であることを隠さない。

 恋愛に対しても奥手で、ヒロインとのラブコメは女児向けアニメかってくらいの初々しさ。つまり、他の任侠映画に比べると親しみの持てる等身大のキャラクターと言える。


 しかし、そのせいか、作品自体は盛り上がりに欠け、おとなしい印象を受けてしまう。乱闘シーンはあっても命を取り合うような血生臭い見せ場はなく、クライマックスも中村錦之助VS小松方正の素手喧嘩ゴロによるタイマン。なんだかヤンキー映画のようだ。

 さらに物語が門司、彦島、田畑と舞台ごとのオムニバス的構成となっており、それぞれのつながりも薄いため、ブツ切り感は否めない。

 舞台が飛ぶ度に時間も経過し、主人公がその土地でいきなりいい顔になっていたりするのも興を削ぐ。


 作品の作りは結構な大作で、スケール感はあるだけにもったいなく感じた。

 次作では四天王的な強敵が出てくるようなので期待したい。




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東映やくざ映画鑑賞記 しおまねき @aya2050

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