モラル低めな桃太郎
酒月うゐすきぃ
モラル低めな桃太郎
むかしむかし。
あるところに、きわめてオラついたおじいさんと、かなりDQNなおばあさんがおりました。
ある日、おじいさんは他人の私有地である山へ無断で山菜を取りに、おばあさんはホタルの減った川へ泥だらけになった衣類の洗濯へと行きました。
おばあさんが界面活性剤と蛍光剤を垂れ流しながら洗濯をしていると、川上から
どんぶらこ、どんぶらこ
と、面白半分に品種改良されたかの如く大きな桃が流れてきました。
おばあさんはその桃を持って帰ると、果汁で自宅を汚さないために村共同の井戸端でふたつに割りました。
すると中から、元気な男の子が飛び出してきたではありませんか。
驚いたおばあさんは、汚した井戸周りを片付けもせずそのまま家に飛んで帰り、時を同じくして帰宅したおじいさんに事の次第を話しました。
話を聞いたおじいさんは「桃から生まれたから桃太郎」という、やや安直かつキラついた名を与えました。
――――――
桃太郎はすくすくと育ち、襟足の長かった髪型がツーブロックになったころ、
「鬼ヶ島という場所に鬼が巣食い、宝物をため込んでいるらしい」
という噂を耳にしました。
桃太郎はすぐさまクラウドファンディングで装備費用と渡航費を稼ぐと、紺色のスーツに明るい茶色の革靴で身なりを整え、近隣の田畑から勝手に持ち出したもち米ときびで作ったきび団子を携え、鬼退治へと出発しました。
途中、人語を操る犬・猿・雉に出会った桃太郎は、お供にすれば映えると判断し
「若いうちは報酬よりも経験が大事」
と言いくるめ、それぞれの種族が食しても問題ない食材であるかを確認もせず、きび団子ひとつで雇うことに成功しました。
やがて海に着くと、予防接種を一切受けていない野生の動物3匹と共にルーズ船へ乗り込み、道中のきらびやかな様子をSNSにアップしながら地中海経由で鬼ヶ島へと向かいます。
いよいよ鬼ヶ島にたどり着いた桃太郎は、噂の真相を確かめもせず鬼を悪者と決めつけてかかり、SNSを用いた曖昧な情報の拡散と大衆心理を利用して謝罪と賠償を要求しました。
訳も分からず鬼達が渋々応じると、勝ち誇った顔で勝利宣言をし、島中の財宝を懐に入れるや否や
「現地解散という事で」
と、犬・猿・雉を島に置き去りにして自分だけ故郷へと凱旋しました。
無事に家へと帰り着いた桃太郎は、
「海の向こうには、まだ見つかっていない鬼ヶ島と宝が山ほどある」
とSNSで吹聴し始めます。
それに興味を持った人をセミナー会場に集め、鬼退治のノウハウやスキームを情報商材として販売し、売上金で末永くモラル低めにすごしましたとさ。
めでたしめでたし。
モラル低めな桃太郎 酒月うゐすきぃ @sakazukiwhisky
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