第41話 高位貴族の駆け引き(1)


 エリザベス様とキャリー様は悠然とアレク殿下とリアム様とノア様の元へ歩いて行く。

 正直、俺はさっきから生きた心地がしない。

 

(私は、杖。エリザベス様とキャリー様を支える杖)


 そう心の中で繰り返さなければ、足が動かなくなるほど緊張していた。

 心を殺して、歩いていた時だった。

 令嬢たちの間から、俺を睨みつけている人物を見つけた。


(あ!! さっきの!!)


 目が合うと、絶対零度の視線を向けられる。

 怖すぎる。

 逃げたい!!


 心の中で逃げたいと思った時だった。

 エリザベス様は、ただでさえ目立つのに大きな声で口を開いた。


「ああ、あなたたちこちらにいらしたのね。レオナルド様のお洋服はアレクサンダー殿下に貸して頂き、事なきを得ましたわ。何かおっしゃることがありませんこと?」


 俺に飲み物をかけた3人の令嬢たちは青い顔をしてた。

 そして、他の令嬢はそそくさと波のようにその場から一歩引いた。


 俺に飲み物をかけた令嬢と一緒にいた取り巻きの令嬢が震えながら言った。


「アレクサンダー殿下のお召し物をお借りした……」


 その時だった。

 ノア様の声が響いた。


「レオナルド、僕がプレゼントした服……どうしたのですか??」


 ノア様の言葉を聞いたもう一人の取り巻きの令嬢が青い顔で言った。


「クラン様からのプレゼント……」


 そして、俺に飲み物をかけた令嬢から取り巻き令嬢の二人が、一歩距離を取った。

 俺に飲み物をかけた令嬢が唇を噛みながら言った。


「その方が御自分で飲み物をこぼされたのですわ!!」


 令嬢の言葉の後に、リアム様が口を開いた。


「おかしいですね。レオは我々と一緒に乾杯するという約束をしていました。飲み物は全員揃うまで持っているはずがない」


 リアム様にまで睨まれて、令嬢が口を閉じた。

 そんな令嬢を見てエリザベス様が口を開いた。


「この国のお嬢様は、謝罪もできませんのね」


 そう言った時だった。他の令嬢が扇で口元を隠し、一斉に俺に飲み物をかけた令嬢に冷たい視線をなげかけた。

 当然だ、自分たちの品位まで疑問視されたのだ。

 何よりも誇りを重視する貴族社会で、これほど屈辱的なことはない。


「なんて暴言!! 酷いわ!!」


 令嬢が大きな声を上げた時、令嬢の前に颯爽と一人の男性が歩いて行った。


(あれは……ラキーテ公爵!? 蜜の花関係だと思ったがまさか、さっきの令嬢はラキーテ公爵令嬢……!?)


 俺はラキーテ公爵の登場に足が震えるほど恐怖を感じた。

 公爵家を怒らせてしまえば、ただでは済まない!!


(俺……どうなるんだ!?)


 震えながらラキーテ公爵を見ていると、公爵はアレク殿下に向かって頭を下げた。


「殿下、折角の祝の席で娘が大変失礼を、謝罪が後日改めてお伺いいたします。本日は失礼いたします」


 そして、令嬢を見ると「行くぞ」と高圧的に言った。


「はい」


 そして俺を見ながら言った。


「君にも後日改めて……」


 そして令嬢と公爵は会場から出て行ったのだった。

 俺は唖然として二人の背中を見ていたのだった。


 

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