第39話 あなたの望む杖は? 金、銀、それとも……?
「よし、レオ!! 会場に戻ろう!!」
キャリー様の瞳から目を逸らせずにいると、ノア様が大きな声を上げた。
俺は突然のことにびくっと肩を上げた後に、ノア様たちの方を見て姿勢を正して返事をした。
「はい!!」
エリザベス様に話があると言われて会場の端まで来たが、今はアレク殿下の誕生パーティーの最中だ。いつまでもここにいるわけにもいかない。
話が終われば、会場に戻る必要がある。
(緊張するが、再びパーティー会場に戻ろう……何も起こりませんように!!)
祈るような気持ちでノア様たちを見ていると、ノア様が声を上げた。
「レオ~~じゃあ、会場でね~~ふっふふん~~♪」
「え? ノア様……?」
ノア様は、俺を見ながら目を三日月のようにして笑うと、上機嫌に俺たちから離れて行った。
てっきり一緒に会場に戻るのだろうと思っていたので、唖然としてしまった。すると今度はリアム様が口を開いた。
「ふっ、ではレオ。会場でな!!」
「リアム様も……?」
リアム様も楽しそうに目を細めると、会場に戻って行った。
エリザベス様とキャリー様と共に残された俺は、どうすればいいのかわからずにリアム様の背中を見送っていた。
俺が戸惑っているとエリザベス様が俺に向かって手を差し出した。
「さぁ。レオ、私たちもゆっくりと会場に戻ります。ふふふ、ゆっくりとね。手をお貸しなさい」
「は、はい!!」
反射的にエリザベス様の手を取ると、キャリー様が声を上げた。
「ちょっと待って下さい!! なぜ、レオ様がエリザベス様のエスコートを!?」
不満そうに声を上げるキャリー様に向かって、エリザベス様は鼻で笑いながら言った。
「ふっ、私たちの年齢ではエスコートはないでしょう? だから、誰の手を取っても問題ないわ。殿方の手を借りた方が歩きやすいからレオに手を借りているだけよ。いわば杖のようなものよ!! 他意はないわ!!」
(なるほど!! 俺は杖に選ばれたのか……通りで……だが、それならばわかるな)
キャリー様は俺の手をじっと見た。
俺はしばらく考えて言った。
「もしかして、キャリー様も歩きにくいのですか?」
キャリー様は目を泳がせた後に小さく頷いた。
俺は反対側の手をキャリー様の前に差し出した。
「どうぞ」
キャリー様は顔を赤くした後に「ありがとうございます」と言って俺の手を取った。するとエリザベス様が何かを呟いた。
「(嘘つき……いつもドレスで走り回ってるくせに……素直じゃないわね……)」
そしてノア様とリアム様が先に会場に戻ってしまったので、エリザベス様とキャリー様のお二人の杖となり会場に戻ることになった。
正直に言ってかなり恐れ多い……
俺がエリザベス様とキャリー様に手を添えていると、エリザベス様が俺を見ながら言った。
「レオ、いい? これからアレクの誕生パーティーが終わるまで……何があっても私の側を離れることを禁じます。いい? 何があってもよ!?」
別に離れるつもりはなかったが、そこまで言われると緊張してしまう。
俺が「はい」と答える前にキャリー様が口を開いた。
「なぜです!? 会場に行けば、エリザベス様の手を取りたいという殿方は多いはずです!! その方々とお話すればよろしいではありませんか?」
エリザベス様は眉を寄せながら言った。
「(はぁ~~~ノアが、キャリーに伝えるなっていうから……)今日はレオと居たいの!!」
「そんなの私もです!!」
やはりアレク殿下のパーティーともなればかなり歩きにくいドレスを着ているのかもしれない。折角見つけた杖を手放しくたくないのだろう。
(ドレスというのは大変そうだな……きっと一生着ることはないだろうが……)
俺は杖を守るために、睨み合う二人に向かってなだめるように言った。
「もしよろしければ、このまま楽しみませんか? 俺のことは杖だと思って下さって構わないので」
二人を見ながら微笑むと、なぜかエリザベス様が額に手を当て何かを呟いた。
「(言葉選びを間違えてしまったわ……)」
キャリー様は俺を見ながら、「レオ様がそうおっしゃるのなら」と言ってくれた。エリザベス様のお顔を覗き込むと、エリザベス様が不機嫌そうに言った。
「それでいいわ」
こうして俺たちは三人(俺は杖扱いだが)で再び会場を目指したのだった。
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