第38話 超消極な本音と動機


 この国から出たことのない俺は、正直に言うと外に出るのが怖い。

 怖くてたまらない。

 

 だが……


 特別留学生になれば、確実にこれまでの未来と変わる……

 毒杯を煽る未来とは別の未来が――来るだろう。


 とんでもなく名誉な職に就けるというのは、この際、恐れ多いのでおいていくとして、文官になるにも騎士になるにも陛下からの推薦状を貰えるのだ。


 弟のアルフィーに領主を任せる絶好の機会ではないか!!


 でも一方で、これほど大事なことを自分だけで決めてもいいのかを悩む。


(父に相談したいな……)


 以前はあれほど憎んでいた父だが、蜜の花の時や、お茶会の時も頼りにしてしまった。そして今も相談しなければと言いながらも父のアドバイスを求める自分に気付いた。


 俺はエリザベス様を見ながら言った。


「ありがとうございます。特別留学生のお話……父と相談してお返事をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 きっとこんないい話を貰ったら、みんなその場で即決するのかもしれない。

 決断力がないと思われるのを覚悟で言った。

 ところがエリザベス様は、嬉しそうに笑いながら言った。


「そう、わかったわ。でもその顔……レオは絶対に断らないわ」


 今度は俺が驚きながら、エリザベス様を見た。


「なぜ……」


 エリザベス様が少し考えた後に「勘よ」と言った。

 勘と言われてしまうとどうしようもない。

 でも、確かに俺の気持ちはかなり特別留学生の話を受けるという方に傾いていた。


「レオが、特別留学生か……これはますます……激戦だな」


 リアム様が困ったように言った。


「だね……」


 ノア様もそう言って息を吐いた。

 キャリー様はただひたすら俺を見ていた。


 そしてエリザベス様がリアム様と、ノア様とキャリー様を見ながら言った。


「さて、あなたたちがいるのなら……手伝ってもらおうかしら?」


(手伝う?? 何を手伝うのだろうか?)


 俺が首を傾けていると、リアム様が悪い顔で言った。


「そうですね~~。牽制のためにも今のうちに動いておきましょうか……」


(牽制? 動く?? 本当に何の話だ!?)


 俺は、エリザベス様とリアム様が何のことを言っているのかさっぱりとわからない。ところがノア様も話の意図を理解してようで、悪い顔で笑った。


「そうだね。それに……我が国の王子殿下の誕生パーティーの品位を落とした責任は取ってもらわなきゃね。じゃあ、まずは……」


 話が見えないが、エリザベス様やリアム様やノア様が何か相談を始めた。

 どうしようかと思っていると、キャリー様に腕を引かれた。


「レオ様」


「はい」


 俺はキャリー様の顔をまっすぐに見ながら返事をした。

 キャリー様は真剣そのものと言った顔で必死な様子で口を開いた。


「レオ様は、その……留学されるのですか?」


 俺はキャリー様を見ながら言った。


「まだわかりませんが……私は……行ってみたいと思います」


 これはただ思っていることで、決定事項ではない。

 だから……まだわからないとか、父と相談してみると答えるべきだったかもしれない。

 でも、キャリー様の真剣な顔を見て、曖昧な返事をすることができなかったのだ。

 キャリー様は笑うと「わかりました」と言って俺をじっと見つめたのだった。


 その瞳があまりにも美しくて……思わず見とれてしまったのだった。

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