第30話 封印されていた『おめでとう』
「おはよう、レオ。すまなかったな……」
学園に行って、自分の席で本を読んでいると、アレク殿下にあいさつをされながら白い封筒を手渡された。
俺は顔を上げ「おはようございます、アレク殿下」と言いながら白い封筒を受け取った。
封筒の裏の蠟封は見たことのない図柄だったが、高貴な雰囲気は伝わってくる。
ちなみ学園の高等部で各主要な家の蝋封を覚えるという授業があるので、俺も蝋封は一通り知っているはずだったが……
(……これは、見たことのない蠟封だな……)
俺がじっと蠟封を見ていると、アレク殿下は楽しそうに言った。
「いいだろう、その蝋封。兄上は獅子だが、私は空を飛べる生き物がいいと思ってな、この国を代表する猛禽類のオオワシタカにした」
(なるほど、アレク殿下の蝋封か……通りで知らないはずだ)
俺は単純にこのデザインがカッコイイと思って素直に感想を口にした。
「はい。今にも飛び立ちそうで、力強く、躍動感に溢れたデザインですね」
「あ……ありがとう」
するとアレク殿下が珍しく口ごもったので封筒から顔を上げてアレク殿下を見ると、顔だけではなく、首まで真っ赤になっていた。
(アレク殿下がこれほど照れているのは珍しいな……)
なんとなく、いつもと違うアレク殿下に目を細めていると、リアム様とノア様がやってきた。
「おはようございます、アレク。レオ」
リアム様が俺の隣に座った。
「おっはよ~~、あ、レオ、無事にアレクから招待状貰ったんだ~~」
「え?」
俺は思わず、封筒を二度見した。
(もしかしてこれは、アレク殿下の誕生パーティーの招待状か!?)
俺が驚いていると、リアム様が鞄の中から本を出しながら言った。
「ああ、もしかしてレオはアレクの封蝋を初めて見たのか? 社交界デビューしないと公けには使用しないからな……」
(え? 社交界デビューをしないと使わない?? どうしてそんな貴重な封蝋が使ってあるんだ!?)
ノア様が呆れたように言った。
「アレク……レオに見せたかったんでしょう? 自分で渡すからいいやって、意外と子供だよね~~」
するとアレク殿下がいつも通りのクールな雰囲気に戻って言った。
「蝋封の反応は、自分ではわからないだろう? だからこうして親しい者に手渡して、反応を見て必要なら社交界デビューまでに手直ししようと思ったのだ!! これは調査の一環だ」
なるほど、確かに蠟封の反応は受け取る人の側にいないとわからない。
そんなアレクにノアが鋭い瞳を向けながら小声で言った。
「アレクの蝋封にケチをつける人間なんていないよ。そんなことよりも、しっかりと必要な人に招待状が送れるように今後は招待客を確認しないと、内乱になるかもしれないでしょう? 今回の蜜の花の保護は学園で懇意にしている学友から相談を受けたことになっているんだから……その子が来なかったら、余計な詮索されるだろう?」
(内乱!? 招待客の確認で内乱にまで発展するのか!? でもそうか……茶葉の供給のバランスを整えようとしているのから、アレク殿下やリアム様、ノア様は私よりも色々考えていたのだろうな……大変だな……)
俺が震えていると、リアム様も眉を寄せながら言った。
「そうですね……今回は幸い、ノアが事前に気付き、さらに招待状を送っていないことを気づいた相手が温厚で学生のレオだったからよかったですが……国内外の要人だったらと思うと、背筋が凍りますね……」
リアム様の言葉を聞いて俺はアレク殿下の背負っているものの重さを知った気がした。
招待客を間違えれば、内乱や国外との問題が発生する世界。
そういう世界でアレク殿下や、リアム様、ノア様は……生きているのだ。
二人の言葉にアレク殿下は項垂れながら答えた。
「ああ、私も……反省している。だから――優秀な側近を探しているのだ。勤勉で、周りをよく見て、私を助け、できれば私の想いを汲み取ってくれるような人材が欲しい」
沈黙が俺たちの間を支配した。
誰も何も言えなかった。
確かにアレク殿下には優秀な側近が必要だろうな、と思った。
だが……
アレク殿下のお人柄ならきっと優秀な人材が見つかるので問題ないだろう。
間違っても人を騙して虚偽の報告をするような以前、俺を騙した叔父のような男性ではないはずだ。
(そう言えば、以前のアレク殿下の側近は誰だったのだろうか?)
考えてみたが、思い出せない。
以前の俺は父が亡くなって怒涛のように慣れない政務に追われていた。
でもそれは言い訳だ。
(俺は自国の王族の側近の方も知らないほど、社交を怠っていたのだな……)
俺は再び、アレク殿下に貰った招待状を見た。
きっとここに行けば、現在この国を支え、この国を動かしている主要な貴族の方々と会えるのだろう。
今の自分は子供だから実際にその方々と話をする機会はないかもしれない、だが……どのような方々がいるのか、どのような雰囲気なのか、知るにはきっと絶好の機会だ。
それになにより、私たちを統べる王族の誕生を祝う場に立ち会えるのだ。
「きっと見つかりますよ。それに……ありがとうございます、アレク殿下。一緒に殿下の誕生をお祝でできることを誇りに思います。楽しみにしていますね」
俺がアレク殿下にお礼を言うと、三人が俺の顔を見て目を丸くした。
「……私の誕生を祝う?」
アレク殿が呟いた。
「……アレクの誕生日……」
ノア様も驚いたように言った。
「そうですね。本来は……お祝の日ですね……」
リアム様も唖然としながら言った。
アレク殿下が思いつめた顔で言った。
「昔はこの日までの準備も当日もとにかく忙しくて、例年早く終わってほしいと思っていたから……自分が生まれた日だと意識したことはなかった」
(えええ~~!? 『誕生パーティー』なのに!? どうして!?)
この日俺は、高位貴族の闇を知った気がした。
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