義理の妹と誰にも言えない死ぬほどの恋をしています

棺あいこ

1 妹ができた

「朱音ももう高二かぁ……」

「そうだけど、いきなりどうした……? 久しぶりに家に帰ってきたから少し休んだ方がいいよ」


 俺の名前はやなぎ朱音あかね。今年高校二年生になる俺は単身赴任が終わったお父さんと久しぶりにソファで話をしていた。三年ぶりかな。お母さんと離婚した後……、お父さんはそれを忘れるためにずっと仕事ばっかりだったからさ。


 そしてその期待に応えるため、俺も俺にできることを頑張っていた。

 バイトも勉強も、いろいろな。


「それもそうだけど、実は今日……朱音にどうしても話したいことがあるから! これは重要な話だから聞いてくれ!」

「そうか? 何……? 重要な話って」

「お父さん! 再婚することにした」

「えっ? そうか、よかったな。相手はどんな人?」

「あれ? 驚かないんだ」

「まあ、お父さんもお父さんの人生があるから……」

「…………」


 動揺しなかった。

 俺にとって「お母さん」という存在は「俺を捨てた人」、それ以上でもそれ以下でもない。もう五年前の話だけど、いまだにそれを忘れていないからさ。お母さんという言葉はトラウマだ。少なくとも俺にはそうだった。


 とはいえ、あの時のことでお父さんのことを責めるなんて俺にはできない。

 きっと理由があると思って、その事実を受け入れた。

 そしてお父さんも……、一人でずっと寂しかったはずだからさ。どこでどんな人と出会ってもそれはお父さんの選択だから、俺はその選択を尊重しないといけない。俺のためにずっと頑張ってきたお父さんだから———。


「会社からそんなに遠くないところにあるお弁当屋さんで出会ったけど、写真! そうだ! 写真持ってるから!」


 すごく喜んでいる。まあ、誰かを好きになるのはそういうことだよな。

 そしてお父さんはアルバムの中から一緒に撮った写真を見せてくれた。


「どうだ! 朱音! 綺麗だよね! 翔子しょうこさん!」

「あっ、うん……。すごい美人だね、釣り合う。いい人と出会って、本当によかった」


 その時、お父さんの顔が少し悲しそうに見えた。やばい。

 もし、お母さんのことを気にしているのかな。


「ごめん……、朱音。俺ばかり考えて」

「何が? 全然平気、俺はお父さんが幸せになればそれでいい。もう昔のことだろ? それは……」

「朱音……」

「大人が落ち込んでどうするんだよ。おめでとう、お父さん。俺も……頑張るから」

「朱音……!!! ありがとう!!!」

「じゃあ、俺は勉強しに行くから……」

「あっ、そうだ。言うの忘れたけど、翔子さんの方にも子供がいるから。朱音はお兄ちゃんになるんだ」

「えっ?」


 お、お兄ちゃんか? 俺が……?

 二人が再婚するのは正直どうでもいいことだから気にしていなかったけど、子供がいたんだ。まあ、一応……妹って言われたから小学生くらいかな? 翔子さんもすごく若そうに見えたからさ。


 ずっと一人で生きてきた俺に、いきなり妹ができるなんて。

 まあ、なんとかなるだろ。深く考えないようにした。


「そろそろ出かけよう。朱音」

「えっ? どこ?」

「今日翔子さんたちと会うことにしたから」

「えっ?」


 マジか。


 ……


「は、初めまして……あ、朝比奈あさひな……瑠美るみです」

「初めまして、朝比奈翔子です〜。へえ、健一けんいちさんが話した通りイケメンだね。朱音くん」

「い、いいえ……。あっ、やなぎ朱音あかねです。よろしくお願いします」

「あははっ、なんか恥ずかしいですね。翔子さん」

「ふふふっ」


 近所のファミレスで挨拶をする四人、そして俺はショックを受けた。

 お父さんには妹って言われたけど……、実際会ってみたら成長している。小学生くらいだと思っていたのに、どう見ても高校生だったからさ。そして彼女の第一印象は引っ込み思案で人見知りが激しい人。こういうタイプの人にどうやって話をかければいいのかよく分からない俺だった。


「ああ、そうだ! 瑠美ちゃんは今年高校二年生になって、〇〇高校に転校するからね。朱音くん」


 やっぱり、同い年だったのか。


「よ……、よろしくお願いします。朝比奈さん」

「よろしく……」


 ちらっと朝比奈を見た。

 魅力的な茶色の長い髪の毛と透けるような白肌。長いまつげと大き瞳、そして男の保護本能をくすぐるようなか弱い声。そんな彼女と目が合うと男たちはすぐ恋に落ちてしまうんだろう。


 それほど可愛い女の子だった。


 そう、彼女は完璧だった。それ以外の言葉は思いつかない。

 そしてその性格は一緒に過ごせばきっと変わるんだろう。初めてはみんなそうだから。

 そのまま四人で食事をした。


「…………」


 こういうのは本当に久しぶりだったから、俺も慣れていない。


「…………」


 食事の後、先にファミレスから出てきた。

 なんとかなると思っていたけど……、やっぱりその雰囲気は苦手だった……。そしてこれから一つ屋根の下に住むようになるからさ。そこも少し引っかかるけど、なんとかなるだろ。


 そう、なんとかなるだろ……。


「…………」


 そしてみんなのところに戻ろうとした時、なぜか俺の後ろに朝比奈が立っていた。

 いつからそこにいたんだ? 全然気づいていなかった……。


「えっと……、どうしましたか? 朝比奈さん」

「…………」

「じゃあ、俺は……先に入りますから……」

「…………」


 なぜか、何も言ってくれなかった。

 もし気に入らないところがあるならすぐその場で話してもいいのに……、じっと俺を見つめるだけだったからさ。朝比奈に何を言えばいいのか分からなかった。俺の前で指をいじっていた朝比奈はなぜファミレスから出てきたんだろう。なぜ俺の後ろにいたんだろう。分からないまま俺たちはファミレスの前で別れた。


 でも、そういうことには気にしないことにした。意味ないからさ。

 そして彼女は俺にどんな期待もしていないような顔をしていた。

 まあ、可愛い女の子ってことは否定できないから、そんな女の子に俺が興味を持つかもしれないと思われるのも当然だよな。そして一つ屋根の下に住むようになったから、いろいろ……緊張していたかもしれない。


「そうだ。朱音」

「うん」

「悪いけど、空いている二階の部屋の掃除……頼んでもいいかな? お父さん、仕事のせいで忙しいから……」

「分かった。お父さんの部屋は普段から掃除していたから、そのまま使ってもいい。そして朝比奈さんの部屋は俺がなんとかするから仕事に集中して」

「ありがと!」

「うん」


 そうやって俺に新しい家族ができた。

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