第2話

 丁寧にワックスをかけていると、隣で同じくワックスをかけている同期がたわいもない話を続けてくる。

 大会は個人戦がメインとなるため、お互いが仲間であり、ライバル。大会前日はどうしたってどこかピリピリした雰囲気が漂うものだ。

 ロッカールームも例外の場所ではないにも関わらず由紀菜にのんびりとした声でかけてきたのは、部の中でも常に決戦に出場し、上位を狙うことができる同期。どんな天候でも、荒れたコースでも常にマイペース。この子が調子を崩すとしたら、観客が少ないだの、コースが狭いだのと言った妙なところである。

 

 大会で上位の成績を残すことができれば、来年の部費が増額される。逆に成績が悪ければ減額されるだけあり、部の目標は常に優勝。今シーズンの部としての成績は悪くない。明日からの大会でも優秀な成績を残すことができれば、増額は間違いない。そうすれば、来年は後輩たちが予算で苦しむことも減るかもしれない。


「由紀菜もそう思うよね、やっぱりセンスだって」

「そうかな」


 同期の理解できない論理に多少のいら立ちを覚えた。いつもよりも早めにアイロンを終えて、電源を切る。メーカー名が印刷された滑走面はメンテされたおかげか、ピカピカだ。それを丁寧に壁に立てかける。あとは明日の朝にワックスを剥がすだけで良い。


「どんだけ陸トレをしたって、結局は滑りが全て。筋トレは必要かもしれないけれど、正直ランニングとかいらなくない?」

「待機中の体力とか、練習を重ねるための体力は必要でしょ」

「あったまかたーい。結局はモチベだけでしょ、試合で必要なのは」


 どうして神様というのは意地悪なのだろうか。


 どれだけ陸トレをしても、どれだけまじめに滑っても、結果は努力に比例して良くはならない。

 アイロンやワックスをマイバッグの中に片付けながら、ふと同期を見やる。話こそ緩くて適当なくせに、板のメンテには由紀菜以上に丁寧で、時間も由紀菜よりも時間かけているところを見ると、道具に対しては愛着があるのかもしれない。


 試合の結果に頓着がなくて、練習も適当で、それでも入賞は常にしている。そんな同期を見ていると、自分の努力が無駄に思えてくる。

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