第9話 無敵の鎧

 美琴は、アルマジロに生まれ変わった。


「さてと、今度は何かな〜。ほぉ、アルマジロね! やった〜、哺乳類!」

 美琴はだんだんと生まれ変わりにも慣れてきて、受け入れも早い。


「しかも、丸くなれるミツオビアルマジロじゃん、ラッキー!」

 美琴は、試しに丸くなってみた。


「ええっと、まずジャンプしてっと」

 美琴は真上にジャンプした。そうして、降りると同時に丸くなった。


「わーい、丸くなった、丸くなった。んふふ、とっても可愛い、あ・た・し」

 美琴は、しばらく丸まって遊んだ。


 硬い背中で身を守るアルマジロ。爬虫類にも見えるが、れっきとした哺乳類の仲間。


「あたしの名前はスペイン語で『よろいを着た小さなもの』という意味よ。スペイン人の探検家によって名付けられたの」


「この鎧の硬さは『銃弾を跳ね返した』という逸話エピソードがあるくらいよ。ほんとかどうかは知らないわ、やめてよ、撃たないでね」


「あたし、自分の顔は余り好きじゃないの。鼻が長いし、目が小さいから」

 やだ、見ないでよ、と美琴は顔を隠した。


「爪は、ほらこんなに鋭いわ。これで地面を掘って長い舌で虫を捕まえるのよ。視力が弱いから、ほとんど嗅覚に頼るんだけど」

 美琴は小さな目をさらに細めた。


「お腹のほうには、まばらに毛が生えてるでしょ?」


「この毛は犬や猫のヒゲと同じような役割があって、この毛の感覚に頼って暗い道を進むこともできるわ」

 美琴はお腹を見せた。


「そうそう、あたしのお腹は柔らかくて、女性のおっぱいみたいって言われるわ」

「なに触ろうとしてんのよ!もぉ、エッチね!」

 美琴は、腹を隠してうずくまった。


「天敵に出会うと、体を丸めて硬い甲羅で身を守るんだけど、すべてのアルマジロがボールのように丸くなれるわけではないのよ」


「ボールのような形になることができるのは、あたし達ミツオビアルマジロとマタコミツオビアルマジロの二種類だけよ」

 美琴は、偉そうに胸を張った。


「マタコは地名で、ミツオビは背中の中央にある蛇腹のような帯の数が三本という意味よ」


「大半のアルマジロは完全に丸くなることはできないから、走って穴の中へ逃げたり、地面に体を押しつけたり、トゲがある茂みに逃げ込んだりして身を守るの」


「このよろいは無敵とか言われるけど、大っきい動物に捕まったらアウトよ」


「あたし達のなかまは、二十一種類もいて、一番大きいのは『オオアルマジロ』で一メートルくらい、焦げ茶色よ」


「一番小さいのは『ヒメアルマジロ』で十センチくらいよ、ピンク色で可愛いわ。あたし、こっちでもよかったなぁ」


「他にも、『ピチアルマジロ』は、唯一冬眠するし、『ココノオビアルマジロ』は基本的に一卵性の四つ子を出産するとか、独特なのもいるわ」


「ココノオビは帯が九本ていうことね。何でキュウオビって言わないんだろうね。ココノオビって言いにくいのに」

 美琴は、腕を組んで首を傾げた。いや、短すぎて腕は組めなかった。


「あたし達、実は泳ぐことが上手よ。甲羅が重く水に沈んでしまうので、空気を飲み込んで体を膨らませて浮かぶの」


「五~六分間息を止めたまま潜水することもできるから、川や湖の底を歩くこともあるのよ。すごいでしょ!」


「あたし達は夜行性で日中はほとんど寝て過ごし、一日十六時間眠ることもあるわ。他にする事ないもの」


「じゃ、もう寝るから、Good night ! て、まだ昼間やし。昼間におやすみっていう英語って何?」


 美琴はその後、イケメンアルマジロと夫婦になって、子どもを育てた。

 美琴は、面食いであった。



 ある日、天敵の狼に捕まって、美琴は事切れた。ボール状になって、身を守ろうとしたが、群れの狼には敵わなかった。

 

 次に目覚めたとき、美琴は、タツノオトシゴに生まれ変わっていた。

 


 ※参考資料:anicom you 、 上野動物園HP

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