第5話 鵺の鳴く夜は恐ろしい

 美琴はカモノハシに生まれ変わった。

 ここはオーストラリアの東海岸、ユーカリの生い茂る川のそば。


「何なにナニ? あたしは一体何者?」


 美琴は自分の体を見回した。水かきのついた足とくちばしはアヒル、しっぽはビーバー、胴体と毛皮はカワウソに見える。


「頭は猿、胴体は狸、手足は虎、尻尾は蛇って妖怪がいるらしいけど、あたしは何?」


「それはぬえだろ、おめぇはカモノハシだ」

 近くにいる同じ格好の奴が突っ込んだ。


「カモノハシかぁ。少し進歩したな。哺乳類だもんね、人間に近くなった!」


 カモノハシは、特徴的なくちばしからは鳥類、広く平たな尾からは哺乳類であるビーバーを連想させる。


 しかし、卵を産んだり、水中と陸地で生活したりという、爬虫類や両生類のような特徴もあるため、発見された当初はかなり驚かれた。


 カモノハシは母乳で子供を育てるからという理由で哺乳類に分類された。


「ああ、泳げるって素敵、夢みたい!」

 美琴は前足で水をかき、うしろ足とビーバーのようなしっぽで舵を取りながら優雅に泳いだ。


 カモノハシは水中で狩りをする。皮膚のひだが目や耳に水が入り込むのを防ぎ、鼻孔も防水性のある膜でふさがれる。


 このようにして水中を一~二分間泳ぎ、敏感なくちばしを使ってエサを見つける。


 エサは、昆虫や甲殻類、ミミズなど。カモノハシは肉食だ。


 カモノハシのくちばしには『電気受容器』が密集していて、電気信号を感知できる。


 この能力は『電気受容能力』と呼ばれ、これを利用して、小さな動物の動きや存在を正確に把握し、水中で目を閉じている状態でも獲物を見つけられる。


「凄いじゃん、あたしのくちばし!」

 美琴は、嘴を突き出して、胸を張った。


「わぁ、走ることも出来るわ!」


 陸上での動きは水中よりややぎこちないが、水かきが格納されてツメが出るので走ることもできる。また、ツメと足を使って水辺に泥の巣穴を作る。


「気に入った。あたしはカモノハシとして生きるわ!」

 美琴は決意表明した。


「おめぇ、偉そうに決意表明してっけど、俺たちははなっからカモノハシだ。他の選択肢はねぇんだよ!」


 さっきのカモノハシがそんな身も蓋もない事を云った。


「何よ、ほっといてよ!」

 美琴が、彼をどつこうとすると、彼は素早く身を翻して云った。


「おっと、あぶねー。俺たちオスにはうしろ足のかかとんとこに鋭い毒針があって、敵に猛毒のキックを見舞うことができるんだぜ、気をつけな」


 彼はキックでくうを切った。


「毒針⁉︎ 怖っ」


「それより姉ちゃん、別嬪べっぴんだなぁ。どうだ、俺の嫁さんになんねーか? ほら、そこに巣もあるぜ」


 美琴は逡巡した。家つきか、優良物件だなぁ。

「いいわよ、結婚したげる」

 美琴は、ナンパ男と夫婦になった。


「哺乳類なのに卵を産むのね」

 美琴は、卵を産み、体と尻尾の間に挟んで温めて孵化させた。


「なんてちっちゃくて可愛いの、マイベイビー!」

 美琴は生まれたての二センチほどの子どもを大切に育てた。


「でも、初めておっぱい飲ませるというのに、乳首がないんだ、ガッカリだわ」


 カモノハシの乳腺には乳頭がなく、皮膚から分泌される母乳を子供が舐め取るのが特徴だ。


 ベイビーはすくすくと育った。



 カモノハシの天敵は、鷲やキツネだ。


「キツネと鷲には気をつけなきゃ」

 美琴は十分注意していた。


 しかし、ある日、人間の捨てたゴミが流れてきて、エサに混じって美琴の口に入り、喉に詰まらせて美琴は息絶えた。



 美琴の死骸は川から海に流された。



 美琴はチンアナゴに生まれ変わった。


 

第5話 終わり

※参考資料:National Geographic

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