君にはまだ清算すべき借りがある

檻から出る。血と汗で肌がべったりし、粘つく混合物がまとわりつく。顔の痛みが現れ始め、観客の鼓動がまだ胸に響く。疲労と荒い呼吸にもかかわらず、陶酔感に似た力が支配する。群衆を見渡し、バスティアンを必死に探す。無事でいるか確認したい。ダンテがまだ約束を守っているか確かめたい。しかし、この不安は次の対戦への不安と入り混じる。


工場を埋め尽くす人々の海の中で、必死にバスティアンを探す。遠くに、無数の顔の中で、あるものが目に留まる。見覚えのある金色の輝き。間違いなくバスティアンの髪だ。彼だ。ステージ近くの最前列に座っている。しかし、心の平穏を乱すものがある。ゼレクが彼の隣にいる。ゼレクの腕がバスティアンの首に回されている。偶然の観客には友好的に見えるかもしれないが、ゼレクのような人間を知っている僕には、そのメッセージは支配だとわかる。


ライトが彼らの顔を照らし、その一瞬、目が合う。バスティアンの目には、安心と無言の警告が混ざっている。しかし、近づく前に、何かが強く腕を引っ張り、集中が途切れる。


「どこに行くつもりだ?」と荒々しい声が吐き捨てる。ダンテの手下の一人だ。答える間もなく、強引に更衣室へと引きずられる。止められるわけにはいかない。何とか抜け出せないかと考える。指が肩に触れると、空気が緊張で張り詰める。引きずろうとする彼に苛立ち、「何のつもりだ!」と問い詰める。ダンテの手下は一歩近づき、廊下の明かりに黒い姿が浮かぶ。「ダンテに言われて更衣室に連れて行くんだ。次の試合の準備をしろ」


じっくりと見ると、突然気づく。首に蛇のタトゥーがある黒人のギャング…あの夜の同じ男だ。背筋に冷たいものが走る。


何も言わずに後をついて行く。正直に言えば、彼の存在は威圧的だ。「初めて見たときは侮っていたよ」と邪悪な目つきで呟く。「自分の手で潰してやりたかった」不気味な笑みを浮かべて続ける。「正直に言うと、まだそうしたい。でも、君がやったことは悪くなかった。運が良かっただけじゃないか、見てみよう」顔はより真剣で冷静になる。


彼の口調は不気味だ。脅迫めいたものと、わずかな敬意が混ざっている。目をじっと見つめ、答えない。彼は歪んだ笑みを浮かべる。「ところで、俺はクレイデンだ。ダンテが中で待ってるぜ」不気味な別れの言葉を残し、去っていく。奇妙なやり取りだったと思いながら、更衣室へと進む。


2017年11月28日、15時55分 -


深呼吸して更衣室に入る。ダンテがいる。即席の玉座に腰掛けた王のように、自信に満ちた様子だ。「やあ、坊や。見事だったよ。期待を裏切らないとわかっていた」と穏やかで慎重に調整された声で称賛する。まるで活躍を称えるのが形式的なことのようだ。口調は誠実だが、その緑の瞳が見つめる様子に警戒心が高まる。まるで心のどこかに亀裂を探しているかのようだ。


鋭い視線を感じながら、心臓が激しく鼓動する。「さあ、座って」と一瞬混乱するほど柔らかな声でつぶやく。しかし、ジェスチャーは明確で、前のベンチを指している。慎重に腰を下ろす。


座ると、鋭く計算された目がじっくりと観察しているのに気づく。試合の結果に驚いている様子はない。実際、この状況を事前に頭の中で何度もシミュレーションしていたかのようだ。まるで僕のことを知り尽くしているようで不気味だ。体勢を整え、弱みを見せないよう努めるが、彼が求めているのは表面的なものではないとわかる。


彼が興味を持つ理由は謎だ。言葉や仕草から答えを探そうとする。なぜこんなに興味を持つのか?


ついに沈黙を破る。称賛と狡猾さが混ざった言葉が流れ出す。「試合を見ていたよ。君に潜在能力があることはわかっていた。でも、気になることがある」と前に身を乗り出し、目は鋭いダガーのようだ。「なぜ相手を仕留めなかった?彼は足元で屈服していたのに」初めて雨を見る子供のような好奇心を湛えた表情で尋ねる。


その直接的な質問に戸惑う。一瞬、言葉が喉に詰まる。試合の記憶が蘇り、アドレナリン、興奮、そして慈悲を示したあの瞬間が。


「なぜ?」と呟く。「ええと…これ以上の暴力は必要なかった。試合はもう勝っていた」としっかりと答える。彼の目を見つめながら、本当に何を求めているのかを見極めようとする。これはただの遊びなのか、それとももっと深いものがあるのか?


ダンテの笑みは困惑させる。真剣さと混ざった笑みだ。「聞けよ、坊や。このクソみたいな世界はそんな風にはできていない。先に出し抜いて叩き潰さなければ、彼らは迷わず君を潰すだろう」と一瞬で真剣な目つきに変わる視線に、これまで感じたことのない寒気が走る。


静かな声で、自分の過去に踏み込む。「かつては僕も君のようだった、レアンドルス」と視線は遠くを見つめ、遠い記憶の深淵に沈んでいるかのようだ。「しかし、時と状況は人を変える。君も遅かれ早かれそれに気づくだろう」答えは曖昧だが興味をそそる。何を指しているのか?彼を変えたのは何だったのか?


次の試合の話題に触れると、二人の間の空気が一層重くなる。わずかに頭を前に傾け、全注意を引きつける。「よく聞け、坊や」と一つ一つの音節を愛撫するように始める。「次の対戦相手は僕のお気に入りの一人、クリアンだ。あの檻の中では本物の捕食者だ」声は低く脅威的だが、唇には微かな笑みが浮かび、期待を楽しんでいるかのようだ。


ゆっくりと、薄く謎めいた笑みを浮かべ、その間を取ることで言葉の重要性を刻み込む。「彼は残忍で無慈悲だ。外見や最初の戦術に惑わされるな。相手の心を弄ぶ術を知っている。常に一歩先を行き、何よりも僕が教えたことを忘れるな。彼を叩き潰す覚悟がなければ、彼は君を迷わず叩き潰すだろう」


言葉は確信と自信に満ちており、心に響く。まるで魔法にかけられたかのように、一言一句に引き込まれる。知らず知らずのうちに、ゆっくりとうなずき、助言に没頭する。


何があっても、あの檻から出る決意だ。しかし、越えられない一線がある。ダンテがどれだけほのめかそうとも、怪物になるつもりはない。彼の歪んだゲームの駒になることは拒否する。操作は微妙で、ほとんど気づかれないが、確かにそこにある。一方で、ダンテはこの暗い世界で歩みを導いてくれる、ずっと必要としていたメンターのように見える。しかし一方で、その慈悲深い仮面と助言の裏に、まだ解き明かせない目的が隠されていると直感する。


ダンテは演劇的な動きで立ち上がる。その一つ一つに意図が込められている。出口に向かうと、衝動的に立ち上がり、引き止める。「ダンテ、待って」と切迫した声で言う。彼は立ち止まり、すぐには振り向かないが、期待を感じる。「どうした、坊や?」と中立的だが好奇心を帯びた声で尋ねる。「自分のためだけに戦ったんじゃない」と決然と宣言する。「バスティアンのために戦った。彼はもう自由だ。あなたはそう約束した」


ダンテはしばらく間を置き、ゆっくりと振り向く。緑の瞳が射抜くが、何を考えているのか読み取れない。「その通りだ」とゆっくりと認める。「バスティアンは自由だ。しかし、君は…まだ清算すべき借りがある」バスティアンの名が記憶を呼び起こさせたのか、表情はより穏やかで、策略的でないものになる。「あの少年も君と同様、よく戦った。しかし君には…僕の興味を引く何かがある、レアンドルス」


新たな条件や駆け引きを警戒し、緊張する。しかし、ダンテはため息をつく。「なぜここにいるのか、何を犠牲にする覚悟があるのかを忘れるな。この世界では、時に自由は望まない代償を伴うことがある。それを忘れるな」そして最後の言葉を残し、再び出口へと向かう。


ちょうど敷居を跨ごうとしたとき、立ち止まり、振り向かずに言う。「次の試合にしっかり備えるんだ、坊や」そして無言の別れのように手を挙げ、姿を消す。ドアが後ろで閉まり、疑問が残るが、バスティアンがついに鎖から解放されたという確信がある。更衣室は再び静寂に包まれる。その静けさはほとんど触れることができるほど濃密で、張り詰めた糸のようだ。


心の中で、審判の言葉がエコーとなって響く。「ノックアウト勝利!」観客の歓声がまだ耳にこだまする。感情の渦に巻き込まれている。それが保存したい記憶なのか、忘れたいものなのかはわからないが、持っている方がいいと確信している。ここまで来たことに多少の慰めを感じる一方、これからの重みも感じている。


ロッカーに寄りかかり、短い内省の時間を許す。重く永遠のような数分が過ぎ、心身の準備をする。近くの会話のざわめきと、廊下を急ぐ足音が時折聞こえる。脈拍はまだ激しく打っている。包帯を調整し、頭の中で戦術と対策を繰り返す。しかし、リングで何が起こるのかはまだ不確かだ。不安が追い続ける。


胃の奥底で不穏な感覚がうごめく。落ち着かない蛇のように。更衣室の冷たさと湿気は助けにならないが、これは環境以上のものだとわかる。急いでトイレへと向かい、一歩ごとにエコーが響く。呼吸が乱れ、冷や汗が額を濡らす。


ようやく鏡の前にたどり着く。映るのは感じている苦悩そのものだ。冷たい洗面台の縁を指で掴み、内なる混乱の中で安定を求める。突然、喉に塊ができ、息が詰まる感覚に襲われる。抑えきれない。


膝が崩れ、前かがみになり、片手を冷たい鏡に押し付ける。苦く塩辛い味が口に広がり、深いところから込み上げる吐き気が、洗面台と床を汚す。吐き出す音が心臓の鼓動のエコーと混ざり合う。嫌悪感にもかかわらず、終わると奇妙な安堵感を覚える。消耗させていた緊張と恐怖を解放したような感じだ。


永遠のように感じる数秒後、ゆっくりと身を起こす。深く息を吸い、呼吸一つ一つを感じる。吐き出したことで体に安堵感が広がるが、口の中の苦い味は残り、朝食が洗面台と床を飾っていることを思い出す。蛇口をひねると冷たい水が流れる。手に取り、顔にかける。血と汚れを洗い流すように。冷たさが顔を伝い、口をすすぎ、頭をすっきりさせる。


視線を鏡に戻すと、しばし立ち止まる。映るのは戦いの痕跡。あざや切り傷。しかし、最も驚いたのは、自分の目に映る表情だった。自分でも認識できない目つき。深い息をついた後、続ける準備ができた。出る前に、破れたシャツを丸め、汚れた床に投げ捨てる。バスティアンからの贈り物だったが、もう使い物にならない。寒さが身を包むが、今はそれが最大の心配事ではない。再び外に出る時だ。


トイレのドアを跨ごうとしたその時、足を止める。繊細な人影が道を遮る。身長は1メートル57を超えないだろう。13か14歳くらいに見える。

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