第12話 キノコの収穫、ポテの秋植えとタマネギ
ここ最近は、来年の準備等で食材調査はなおざりになっている。そんなこともあり、久しぶりに森へ行くことにした。食堂で、パンや飲み物をバスケットに詰めていると、三人娘が仲良く戻ってきた。
「魔王さま、森に行くっすか?」
「食糧採取と調査を兼ねてね」
「あらっ、なにか取れるものがありますの?」
「それなら、みんなで行くか?」
義行はさらに三人分の食糧を詰め、皆で森に入った。考えるてみると、クリステインが一緒に来るのは初めてだ。
そしていつもの空き地に着いたところで、ヴェゼたちを呼んだ。なぜかクリステインが一人大興奮しているが、よからぬことはしないだろうと思い放っておいた義行だった。
「なあヴェゼ、この先にキノコが生えてる場所があるだろ。収穫してもいいか?」
「うん 問題ない」
「ヴェゼもくるか?」
「これから 森の北側で 仕事」
「そうか。じゃあ、ちょっと歩かせてもらうな」
妖精たちは妖精たちで仕事があるようだ。そのため、義行たちだけでキノコの群生地に向かうことになった。
「クリステイン、おいクリステイン。行くぞ」
クリステインの腕を引っ張るも、お菓子を買ってもらえない子供がしゃがんで踏ん張るように、意地でも動こうとしない。
「諦めろ。皆仕事があるんだよ」
「私だって仕事なんです!」
「ヴェゼたちを追っかけるのが仕事か!」
カメラがあったら残しておきたいくらいの場面だった。
義行は力づくでクリステインの足裏に生えた根っこを引っぺがし、キノコの群生地に向かった。
「魔王さま、ここ、すごいっすね」
「薄暗くて気味悪いですわ」
「前にたまたま見つけてな。キノコがいっぱいだったんで収穫に来ようと思ってたんだ」
ここは他の空き地に比べて薄暗く、朽ちた倒木なんかもそのままになっている。ぱっと見、ヴェゼが手入れを忘れたのかと考えてしまうくらいだ。だが、このキノコの群生をみると、ヴェゼも分かってそのままにしているというのがわかる。
「どれを収穫すればいいっすか?」
「あれっ……、キノコはあまり食べないの?」
「そうっすね、山に入った猟師が獲物と一緒に持ち帰るか、山菜取りに入った者が取ってきた物が売られるくらいで、あまり出回らないっす」
「じゃあ、まずはこれだな。シイタケだ」
義行でも間違えることのない、見慣れたキノコだ。出汁を取ったり、具材にも使えるのでこれを収穫することにした。
「大きい物がいいんですの?」
「いや、一概にそうとも言えないんだよ。だから、このくらいのサイズのものを収穫して。くれぐれも取り過ぎないようにね」
シイタケの収穫は三人娘任せて、義行は他のキノコを探し始めた。キノコに関しては義行もあまり詳しくはないが、ウスヒラタケを見つけた。
他にはと見ていると、マリーが嬉しそうにキノコを持って戻ってきた。
「魔王さま、見るっす。奇麗な赤いキノコっすよ」
「……。マリー、ポイしなさい。今すぐポイしなさい」
なぜかこの言葉しか出てこない義行だ。
「なんのキノコかはわからんが、この手の色と模様はヤバい気がする。下手したら死ぬぞ」
そう言った途端、マリーは手に持っていた赤いキノコを放り投げ、服でゴシゴシと手を拭っている。
「いや、触るだけでも危険なものもあるが、さっきのは大丈夫だと思う。ただ、安易に食べるなよ」
「あ、あの魔王さま。今とってるシイタケは大丈夫ですわよね?」
「これは大丈夫だ」
「あ、赤いのがダメなんでしょうか?」
正直、こう聞かれるとどう答えるべきか悩んでしまう。説明がまずいと、ポテの『食すな』の二の舞になっていしまうからだ。
「それがな、赤いから毒ありじゃないんだよ。実は、赤いキノコも食べられるものの方が多かったりもするんだ。ここが難しいところなんだよ」
キノコは専門家のアドバイスがないと怖いので強めに言ったんだが、脅かしすぎたようで、それ以降、三人娘の収穫の手が完全に止まってしまった。やはり、ヴェゼが来られる日に来るべきだったと義行は後悔した。
結局、皆が怖がり過ぎて収穫にならず、シイタケだけ持ち帰ることになった。
「ヴェゼがいれば、見分けられたんだろうけどな。また今度採りに来るか」
「私は遠慮しますわ。ヴェゼちゃんに聞いても見分けられる自信がありません」
屋敷に戻った義行は、マリーと台所に向かった。
「マリー、しばらく使っててもいい
義行は軸の部分を切り落とし、シイタケを笊に並べ、日当たりのよい窓辺に置いた。
「なにかのおまじないっすか?」
「そうそう、こうするとシイタケの神様がなっ、てちゃうわ。これで干しシイタケになる。いい出汁が取れるぞ。残りは料理しよう」
義行は残りのシイタケをスライスして、油でさっと炒めて塩で味を整えていく。
「はいよ、シイタケの塩炒め一丁上がり」
最近は、義行が見つけてくるものに拒否感無く手を付けていた三人娘だが、今回ばかりは食指は一切動かない。
「キノコですわよね?」
「なんか、ポテ以来の嫌悪感っす」
「このシイタケは絶対安全だって。ぽっくり逝くことはないから」
説得虚しく、シイタケの塩炒めはスタッフならぬ義行一人がおいしくいただくことになった。
そんなことがあった翌日、朝、食堂に入るなりマリーが籠一杯のポテを差し出してきた。
「なんだ、一度にこんなには食えんぞ?」
「魔王さま、これ、もうダメっすか?」
籠に入ったポテは芽が出始めていた。
「芽の部分は少し
そのとき義行は思い出した。なんのためのポテだったのかを。そう、栽培するためだ。最近、食べる方ばかりに使ってたような気がして、冷や汗が出てきた。
「なあマリー、ポテどのくらい残ってる?」
「あと二籠くらいっすね」
「今日からポテなしって言ったらきついか?」
すると、いつ来たのかわからないが、『ポテなし ダメ』とヴェゼとアニーの抗議の声が響いた。
「そうは言っても、ポテを量産するために取ってきたわけで、種芋がないと……」
一人焦っていると、「魔王さま、なにを仰ってますの?」とノノから呆れたという口調で言われた。
「いや、ポテの芽を見て播種の時期を思い出したんだけど、あと二籠しかないって」
それを聞いたノノに、さらに大きく溜息をつかれた。
「お忘れのようですが 前に収穫した分の大半は、『これは種芋にするから手を付けないように』と、魔王さまご自身で保存庫の奥に仕舞われましたわよ」
「えっ……、そんなこと言ったっけ? でも、今日まで結構ポテ食べたよね?」
「それは、あのあとヴェゼちゃんにお願いして、追加で掘らせてもらってましたの」
義行は記憶をほじくり返した。そんなことを言った気がするが、ここ最近の忙しさですっかり忘れていた。
「よし、それなら今日は、ポテとタマネギの播種をするか? いや、でも畑の準備ができてないか」
「ヤベツとシロナを植える予定でしたので、畑の準備はできてますわ」
「でも、ヤベツとシロナはどうするんだ」
「それは明日以降でも構いません。他の畑にも腐葉土を入れて、後は畝づくりだけですわ」
「さすがノノ。できる女は違うな」
「お褒めにあずかり光栄ですわ」
そんなこんなで、既に準備の整った畑はポテとタマネギ栽培に使うことになった。
朝食が終わったら作業を開始することにして、テーブルに着いた。ヴェゼとアニーもお澄まし顔で座っている。もう屋敷の一員って感じがする。
朝食後、義行は食糧保存庫に向かい、種芋を取り出してきた。
「ヴェゼ、畑の状態を見てもらっていいか?」
「わかった」
アニーはニワトリ小屋へ向かっていた。
「森より弱い。でも問題ない」
「じゃあ、植え付けていきたいが、どうするかな……」
インターネットからの薄い知識しか持ってない義行は迷っていた。
「なにか問題ですの?」
「あぁ、種芋を切るかどうかで悩んでる」
「どういうことですの?」
「秋植えの場合は、種芋が腐りやすいとかで、切らずに植えると読んだことがある」
「あら、そんな本がありますの?」
「ああ、いや、その、なんか誰かが言ってたような、言ってなかったような」
(やばっ、気い抜いてたわ)
「ヴェゼ、どう思う?」
義行は、ヴェゼに話を振って切り抜けることにした。
「自生してるのは 切らない。でも育つ」
(そうですよねー……)
「よし、今回は切らずに行こう。ノノ、記録は取っておいてね」
そう言って、義行たちは三十センチ間隔で種芋を植え付けていった。
「十メートル四方の畑だから、二百キロ位収穫できればいいかな。そうだノノ、ポテを植えた畑には、連続してポテを植えないようにね。一、二年は間をあけて植えるということをメモしておいて」
ちょうどお昼になったので昼食と休憩をとり、午後はタマネギの播種だ。
「タマネギはどのくらい植えるかな?」
「あればあるだけ楽になりますわ」
「でも、収穫は来年の五月頃だぞ。つまり、その間、畑はタマネギに占領されちゃう」
「そうでした。でも、新しい食材を広めるために、データが必要ですわ。思い切って畑一面使いましょう」
「そうだな、本来の目的を忘れるところだった。それなら、約三百キロは収穫は可能だな」
「そんなに取れますの?」
「ああ、それにタマネギも、管理がしっかりしてれば結構保存がきくしな」
ということで、こちらも二人で蒔いて行った。
「よし、まずは最初の大がかりな栽培実験だな。ノノ、負担になるかもだけど、どんな細かいことでも、疑問に思ったことや問題点を記録しておいてな」
「わかりましたわ」
これが上手くいけば、春からポテだけでも一般公開できるかもと夢見る義行であった。
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