第13話『Lv30へ!』
ガルガルは、木の中に潜むモンスターだった。この辺に居そう、という木を蹴ると、数匹単位で落ちてくる。100%毛虫。蜘蛛みたいな足のある、長い、毛虫。無理な人には絶対に無理な敵だ。が。レヴィに実演して貰ったら、納得。
レヴィ、木を回し蹴り一蹴。揺れた枝から落ちるガルガルにアタック、反転して爪で二匹、木にタッチして爪狩り三匹、更にジャンプで四匹、落ちるついでに二匹を同時に狩り取って、半回転して着地。この間、秒に満たず。
──完全に、ネコ。
とびかかる前から、位置を狙って蹴りに入るまでの屈伸姿勢がもうネコ。
爪にひっかけた、まだ討伐判定の出てないガルガルを目の前にぽとぽとと落とされる。
「どうぞ」
「どうぞじゃない!」
と言いつつもダガーで仕留めさせて貰った。レヴィ、ご満悦。
ガルガルね、ガルガルはあれだ。狩る側が、ガルガルしてる、やつ。
「これ、あの、亜人種の子ども用とかだったり、する?」
「あ。分かります?」
分かるわ。これは。
地面に落ちてワサワサカサカサ這いまわるのがもう、これ、猫系には堪らんのだろうなーという動きをしている。
人間にとっても、別の意味で、堪らんのだよなーこれはなー、背筋にざわざわ来る、無理。という動きをしているのだが。
「亜人種としては、猫系は少ないんですけどね」
「え、そうなのか? レヴィとか、今度行く外縁部とかで──」
「やっぱり、狼と鳥種が多いんですよ。鳥種はきっと、もっと試した人間は多かったんでしょうけど、制御できたのはそれなりの数でしか、なかったんじゃないですかね。僕もそりゃ、自由に空を飛んでみたいとか、思いますから」
まあ──と自分も想像を巡らせる。
選んで、亜人種になれるとしたら、俺も。鳥はいいな、って思うだろうか。
「狼は? なんで?」
レヴィの尻尾が、したん、と揺れる。
「それは、まあ。分かりやすく、カッコイイから、ですかね。力も強いし、社会性もあって、安定している。犬種なのに狼って言ってる人もいて──」
「それは見た目じゃ判断つかなさそうだな」
ええ、まあ。とレヴィは曖昧に笑った。
「メモリさん。協力して、ソータさんのエリアの難敵、やりませんか。経験値はそこそこ僕に吸われちゃいますけど」
レヴィの申し出に一も二も無く乗らせて貰う。現在、Lv22。俺も苦手ながらそれなりにガルガルを狩った成果。
ソータエリアの敵の特徴は、実際に、アオイロに居る害獣をほぼそのまま模したものが多いらしい。
危険度が高く、現実のものより凶悪さを足しているのだとか。
レヴィの鳥獣に二人乗りをさせて貰い、ソータエリアの中程へ進む。
がっしりして背の低い生き物だが、馬代わり──なのだそう。
二足歩行ながら、鞍上は思ったより安定している。
走り出せば前傾姿勢で、でかい頭部が進行方向からぶれないのも、その特性か。
目玉だけがぎょろぎょろと走っている最中も動いている。羽毛の感触が、気持ちいい。
「俺でも太刀打ち出来るかな、今の状態で」
「経験値効率のいい敵を選びましょうか、僕が思うに、オルタロスなどは?」
端末を起動して情報を読む。四つ足の、狼に似た獣だ。手足は太く、熊のようでもある。
爪が発達していて、手足と背にトゲ、尾も硬質。
「強そう」
「ええ。動きが速いです。ダメージも強い」
「弱点は立ち上がった時の腹部……これ立ち上がらないと?」
「音や仕掛けで。或いは囮で。問題は、こんな単体行動型みたいな姿をして、集団で行動するんですよね。群れの端から、一匹引っかけて『釣り』ましょう」
「吊る?」
鳥獣を操るレヴィが少しだけこちらを振り返る。意味ありげな笑い。
「……メモリさんは。本当に、ゲーム初心者なんですねえ。楽しみです」
レヴィ、意外と狩りとか、好きなんだろうな。
そう思わせるきらきらした目をしていた。まあ、そうじゃなきゃGMにまでならないか。
*
スキル──『データ観測』展開。
オルタロスの群れの数値を、離れたところから観測する。最初に狙うのは一番弱く、敏捷性が低い個体。大きな音で群れを動揺させて分断し、足が遅れそうな奴。与えたダメージ分で経験値配分される為レヴィは囮役。
「まあ僕の本気を見せられないのは残念ですが──囮は、どの程度ひっぱればいいかの経験も要りますしね」
腕を組んで魔術師の杖をトントンと指で叩くレヴィ。紫髪の尻尾と、本物の尻尾が風に揺れる。
さっきガルガルに飛びかかっていた姿とはまるで似ても似つかないお上品な佇まいだ。
「レヴィ、本業はマジシャンだっけ」
笑顔のままで目が真顔になる。ぱりっ、と周囲で放電した。
「手品師(マジシャン)ではなく、魔術師(ウィザード)です」
ほんとかなあ。あのガルガル狩りみたらそうは思えないんだけどなあ。
「ま、いいや。いこう。あいつ。既に群れから遅れがちだけど。あれ、狙う」
レヴィは余計なことを言わず、頷く。
「では、行きましょうか」
ちょっとどきどきする。実は足止めしても必殺技が強いとか、そういう抜けはないよな、と心配になった。
装備を短剣から銃に持ち替える。コグニスフィアでは遠距離ダメージ減衰がある為、基本は炸裂閃光弾、粘着弾、毒、麻痺狙いなどのデバフ用だ。マサキに影響された訳では断じてない、が、ここでは銃といえばデバフ、という印象が一般的らしい。
残弾数を計算しつつ、最大の効果を生むように戦略を立てる必要が、ある。
──まあ普通は足止め程度で捨てて、他の武器で分かりやすくダメージを与えるのが普通らしいんだけどね。
作戦会議終了後、それぞれの開始位置に付く。
群れの左後方、1ショットで炸裂閃光弾を撃つ。ぱあん、という音と共に閃光が走り、オルタロスが一気に警戒態勢に入る。
集団統制は崩れない。データ観測では『恐慌』までいかない『怒り』の数値が上がる。
続けて2連、2方向。弾を入れ替え、誘導弾。
群れの先で放物線を描いて、落下する。ヘイト・ドールだ。激怒したオルタロスがそちらへ向かう。
レヴィが更に先へ、誘導する。
「よっし、今だ!」
粘着弾を最後の個体に撃つ!
びちゃり、と黄緑色の固定剤が炸裂する。
狙い通り、オルトロスが、怒り狂って立ち上がった。
マジック・ダガーから買い換えた、エレクトリック・ダガーを構え、懐へと飛び込む。
振り下ろされる腕を躱す。攻撃を、読む。数値に慣れてきたのか、把握が速い。読める。
──ソータさんの水流と比べれば、怖さなんて無に等しい。
「ぐおおおぉぉ……!!」
ぶん、と頭を掠めるでかい腕を避け、殺意にまみれたオルタロスと目が合った。
──いや嘘付きました普通に怖いわ!
十字に切り裂き、一旦下がる。ダメージが、一番強い箇所。
至近距離で、炸裂弾を撃ち込む。
オルトロスが、仰け反った。好機。
「──ッ」
エレクトリック・ダガーの電圧を最大で、傷の、ど真ん中をぶち抜いた。
「もういっちょ!」
スパイク・ブーツで蹴り上げ、ダガーを突き入れる。
──倒れねえ!!
スタンが利いてるからいいけど!
「頑張れ~、メモリさん」
「レヴィくん手伝って!!」
戻って来たレヴィの気楽な声が後ろからかかり、思わず叫んだ。群れの誘導が上手く行ったのだろう。
ダメですよ、僕が殴ったら横取りです。横殴りはマナー違反なので、と至極当たり前のように言う。
「仕方ないですねえ、にゃんにゃんの恰好でもして応援してあげましょうか?」
ふっ、と鼻で笑うような言い方に、ちょっとだけカチンと来た。
「よーし衆人環視の前でやれよ絶対やれよ!!」
「うわ、まさかそう来るとは。すみませんでした」
意外と沸点が子どもですね、とか言ったの聞こえてるんだけどね?!
いい性格してるよな流石テーブルGM。
計、12撃。ようやくのことで倒れたオルトロスの経験値は相当に『美味しい』もので──同様に、群れを誘導しては足止めして狩り、を繰り返し。ようやく──Lv30に到達した。
「群れのヘイトが問題ですからねえ、オルトロス。それさえ上手く捌けば、意外といけたでしょう? おめでとうございます」
「めちゃくちゃ疲れたけどな!!」
*
「ま、体裁は整ったか」
ソータがからかい半分、確認半分にメモリを見て言った。
「じゃあ、行くとするかね。アオイロの──もう一面の世界を見に、な」
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