第12話『癖ありすぎだろ』
Lv上げついで。体感的な経験として得るものを、メモリはデータとして整備し始めた。
──よし。
ある程度集まったところで、集計する。1つ2つなら偏ったデータになるが、時間帯・個数・種別、と細かく分類分けをして、特徴もタグ化する。繰り返せばそれなりの量になる。
データは戦略エリアのマサキに売ろう。
多分好きそうだし、と持ちかけたら食いついてきた。想定通り!
最初は胡乱で怪訝な眼差しだったものが、二回目には『データ吸い出しと重複する部分は無駄だが、タグと分類分けの精度が中々よい』とそこそこの評価。むしろ分類より個別メモが気に入ったらしく、そっちに注力すればより食いつきが良くなった。
(ほんっとにデータ好きなんだなこいつ)
レベルも気付けば17。
シノンエリアの敵は何か全部メルヘンで、可愛いし怖さも感じないのがいいのだか悪いのだか、ではあるけれど。
と、マサキに纏めたデータを見せながら話をしていると「なら、レヴィのエリアでガルガルを狙うのはどうです?」と返される。
「また可愛いやつ? 犬みたいな名前だけど、どういうの?」
マサキが映像を見せてくれる。
──うそーん。
どう見ても、でかくて長い虫──足がいっぱいある毛虫だった。
ガルガルする要素なくないか?!
え、てかレヴィ、あいつ、自分のエリアでこんなん飼ってるの?!
「エリアモンスターは、基本、そのGMが設定するので。かなり趣味が出ますね。俺はこれです」
と、見せたのがLv.30向けの……立方体だった。
「手抜き過ぎるわ!!!」
思わず強めに叫んでしまう。
「は? 全方位からどの攻撃を仕掛けてくるか分からない、卓越した戦略ユニットですが?」
叩かれたところをぱっぱっと指で払いながら言うのも小憎らしい。
「いやふざけんなよ、勘勝負になるだろこんなの」
「実装回では予測が付くようにルートと位置を固定してます。記憶力と、計算で攻撃は避けられる」
さっ、と新しく画面を開き丁寧にマサキが説明してくれる。全部一緒だなあ。画面。
「ユニットは『色違い』で特製があって……」
色だけかよ!!
「形に凝れよ!! シミュレーションなら見た目から判断することも大事だろ!! 火を噴きそうとか、爆発しそうとか! 凍らせてきそうとか!」
「……」
マサキがメモリを不審そうに見上げる。
「なんだよ」
「理論的に言って、火を噴いたり凍らせてくる立方体は存在しないのでは」
「四角から!!! 離れろ!!!!」
確かに。
均整に整然と並ぶ立方体の完成度は高く、計算され尽くしたフォルムではある。
うん、立方体の完成度って言い方もどうかと思うけれど。
ロジスティックな美しさは、分からなくはない。
緻密にして至高の領域、完全な計算の証。だ、け、れ、ど、も、だ。
「──あのなマサキ。例えば相手が、剣を持ってるか杖を持ってるかで、判断は変わるだろ? 俺がダガーを使うか、銃を構えるかでも、対処は変わってくるよな?」
ついメモリも額をたしたしと叩きながら、口を出す。
「当然ですね」
「分かってんじゃねえか!! ──だったら敵の見た目も大事なの、分かるよな?」
マサキが腕組みして目を瞑る。
おい。
「……分かりますよ。それは。ただ。……に……ので」
「なんて?」
一部だけ横を向いて小さな声で喋られ、聞こえなかった。
む、とした顔で睨まれる。
一度視線を下げ、開き直ったように言う。
「俺には。絵心がないので」
どうやら、エネミー立体化発注書というものがあるらしい。
いや、単純にこういうもの、って伝わればいいやつでは? それすら難読文字みたいになる感じか?
「ははーん、分かった。あれだろ、文章欄にみっちり書き過ぎの、図も埋めすぎの、読んだ担当者が何を主眼にして作ればいいのか分からなくなるやつ。ちょっと貸して見ろ、前の」
「? まあ、これなら没になったから構いませんかね」
素直に書類を電子で渡してくる。
自分の端末を開き、必要そうなところだけに切り分け、マサキに画面を見せる。
「……スカスカになってますよ」
「でも伝えたいこと、これだろ? キャタピラ状の移動手段、超硬度装甲、爆発タンク持ち、可動部の接続部分を狙わなければダメージが入らない」
「ええ、まあ。そこは譲れないですね」
「外装に『攻撃を躊躇わせるような非人道的レリーフ』はやめような。こんなふわっとした指示相手も困るし何処までのラインか自分の倫理性を問われる気分になるから。あとなんだ、オンオフが見える反射機能と下部攻撃にはカウンター、どっちかにするか、優先順位付けろ。欲張りすぎ。急発進、速度変化……加速装置、いや理論的には出来るにしてもな、これキャタピラに実装すんのはちょっとしんどいぞ、切り分けよう。攻撃軌道読ませたくないなら、飛びものを発射させるとかで良いんじゃない?」
「──まあ。はい。確かに。絵が下手とか、笑わないんですね」
俺はちょっとマサキの頭の中がどうなってんのか、怖くなって来てるけどな。
「んー、なんか。夢がいっぱい詰まってるってのは伝わってくるし」
マサキが黙り込んだ。しばらく、返した発注書をしげしげと見直して「あの、これ。……すいません、これで出させて貰っても、構いませんか」と聞いてくる。
「いいけど。俺の書いたのでいいの?」
「……というか、俺は貴方にただ働きをさせた上に、成果を横取りするようなものなんですが」
「え、そう?」
「なぜ」
マサキが少しだけ怒ったように、低い声で呟く。
「なぜ貴方は読み解けた……」
「なんでって……見たらわかる……」
ふと。前の職場でパンクしていた仕事のことを思い出す。指示は伝わるように、効率的に、短く大事なところだけ。必要じゃないところは、切り捨てて──。あれは、自分の気持ちを削ぎ減らして行くような心地があった。
どれも大事な理由があってのことなのに、効率化という必然で、切って切って短く削いで、端的に。けど、それは自分視点だ。相手に何を伝えるかを、忘れた視点。必要なものだけに減らすという誠意も、ある。
マサキの詰めっぷりを、他人事として見て初めて、気付けたのかもしれない。
「誰も彼も忙しいと、相手のことを見えなくなるからさ。見える時は──やれることやった方がいいかなって」
口に出しながら違うな、と自分でも感じる。
なんか、こう。口に出すのは、恥ずかしいんだが。
昔の俺の、いっぱいいっぱいだった頃を、助けてくれる先輩が居たら──こんな風に、手伝ってほしかったんじゃないかって。
急に、自分のやってることが羞恥心の塊のように思えて、立ち上がる。
もう好きに使えよ、と言い残して、マサキのエリアから逃げ出した。
ちなみに、何故かマサキはアサハエリアの敵データをやたらと高く買ってくれた。パターン化して、ソートして、独自タグまでついているのが無茶苦茶「分析用に」「理論構築のダミーデータとして高品質」だそうだ。ほんとかよ。 手心じゃない? 大丈夫? ちょっと図に乗るぞ??
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます