3話
朝になった。
普段の僕なら夜だと思う時間だが仕事中なら話は別だ。いつもは二度寝する時間に起きるがベッドから降りると装備に着替える。
頭には青いバンダナ、服装は上は鎖帷子の上に赤いレインポンチョ、下はレザーパンツ、靴は小さな風車が装飾されている緑のブーツ、アクセサリーとしてすぐに取り出せるポーションなどを入れたベルトポーチと魔力回復を早めるマナリングを右手の、耐性付与のリングを左手の指すべてに付けている。耐性付与は親指から毒、呪い、睡眠、魅了、洗脳なものになっている。客観的に、探索者じゃないとただの不審者の完成である。
朝食のバイキングを楽しみつつ、ホテルの人に無理を言ってバイキングで残った料理をタッパーに詰めてもらってアイテムボックスに収納する。飲み物は魔法で作れるが、ダンジョン内で食べ物の確保は難しいからしかたがない。うん、しかたがないことだ。けっしてダンジョン挑戦中にバイキングを食べれないなぁって思っていない。
少し電話をした後、開園時間になる前にダンジョンになったミラーハウスに入る。中は鏡の迷路になっているアトラクションで、人気なアトラクションの1つとなっている。
まあ、いまでは
ダンッ
「ギビュ」
卵から触手と黒い液体が出ているクトゥルフに出てきそうな化け物の巣窟となっているわけだが。
アイテムボックスから取り出した銃を持ったまま警戒して進む。格下のダンジョンでも、油断したらあっという間に死ぬ。だから決して舐めてかからないことにしている。たとえゴブリンしか出ない初心者向けのダンジョンであってもだ。
あと、ここのモンスターはどうやらドロップアイテムは基本的にはないようだ。ドロップすることもあるが、その内容はネクタイ、ペンダント、ぬいぐるみ、写真、指輪となっている。
写真はクシャクシャにシワがついており、血に塗れている。開いてみるとドロップ品と酷似したぬいぐるみを抱きしめた小さな子供を抱きしめる女性、そしてその女性を抱きしめる男性の姿があった。
写真を元の状態に戻してみると血に塗れた手の跡がある。指の感覚的に・・・女性のものだ。のころどころ溶けているのを見るに、消化されるその瞬間まで握りしめていたのだろう。
つまり、このダンジョンのドロップアイテムはこのモンスター共が食った人間の大切なものみたいだ。夢を届ける場所で人の大切なものを返すとは、なかなか皮肉がきいている。
モンスターを倒しつつ迷路を進み、1番奥の部屋に黒く濁った鏡がある。モンスターが出入りしているのを見ると、おそらくあそこがダンジョンの入り口だ。モンスターが自由に出ているため、おそらく活性化している。
幸い、ここが鏡の迷路だからか目の錯覚で出口がないと思っているからかここから出ていないようだ。
もしものことを考え、1度ミラーハウスから出て近くのスタッフに言って今日はどうしようもないからこの付近には近寄らせず、明日からはミラーハウスがある区画を封鎖するように指示を出し、ミラーハウスに戻る。
本当なら閉園させたいがすぐにできないと思うからそこは諦めた。これは、被害が出る前に踏破するしかなくないな。いまは誤認しているようだが、いつバレるのかわからない。
徘徊しているモンスターを殺し、ドロップ品を回収しながら奥に向かう。
今度は隙を見て黒い鏡の中に突撃する。
その先には、2度と忘れられない、悪夢のような光景があった。
目が3つあるところどころが骨になっている人間サイズの鶏が卵のモンスターを喰らい、かと思うとところどころで腹から触手が突き出し、内部から破裂して小さな触手の生えた卵のモンスターが少なくとも100体が破裂した腹から次々と出てくる、そんな光景があった。
空間自体は洞窟になっており、たまに蛇のモンスターも見かけるが、卵のモンスターが口から入り込むと全身から触手が生えると動き出す。
よく見ると短剣を持った触手が生えた男や下半身が触手になっている女などもいる。男の方は知らないが、女の方はこのダンジョンに侵入して行方不明になった配信者だったはずだ。
コンタクトレンズ型の鑑定の魔導具で見てみると『状態:死操』となっている。
どうやら、あの卵のモンスターは体内に入り込むことで乗っ取ることができるようだ。
おそらくこの遊園地の人間は知らずに配信禁止にしていたのだろうが、本当によかった。
おちゃらけた探索者が来たところでああなるのがオチだ。
俺は、アイテムボックスからサプレッサーを取り出すと銃に取り付け、人間だったものに発砲する。
触手が特に多いところを狙って撃つとパタリと倒れて動かなくなった。
それにもう1度鑑定を使うと『状態:死亡(中のモンスターは再生中)』となっている。
どうやら乗っ取った個体は身体を修復することができるらしい。つまり、死体を持ち帰ることは不可能というわけだ。
・・・僕だけなければの話だが。
修復している間に死体に近寄る。そして、口を開く。
「『キミたちは修復の仕方を忘れたんだよ。だから、そのまま死ぬんだ』」
その瞬間、先程まで動いていた魔力の流れが止まる。しばらく待ってから鑑定を行うと『状態:死亡(中のモンスターは消滅)』となっている。
その証拠に、全身から生えていた触手が腐り、塵となって消えていく。死体は物の扱いになるためアイテムボックスに収納する。
探索者には異能がある。
探索者になる前にすでに持っている人もいれば、ダンジョンに入ったことで入手する人もいる。
他にもドロップ品の力で異能を入手することができる。そのドロップ品は林檎で、『もしも、異能を持ったら』ということを現実にする能力からと『イフの果実』と呼ばれている。僕は探索社になる前から異能を持っていた。というより、素養が異能に進化した。というべきか。
僕は生まれてから言った嘘がなぜか他人に信じられた。それが気持ち悪くなり、自覚したその日から嘘を言わなくなった。取り繕わなくなった。
探索者になったのはなんとなくだった。いまの世の中だと資格として持っているだけでも就職に有利になるからだ。その時に異能になっていたことを知った。
僕の異能は『言霊遊戯』。僕が言った嘘に世界が合わせるというものだ。
たとえば桜の木があったとする。
春に花弁を咲かせ、夏には葉桜となる。
僕がこれを言うと春の間は花びらを散らさず、夏になると花びらを一斉に散らせて葉を茂らせるようになる。
僕の言葉に世界が合わせるため、対象が僕の言葉を聞き取れなかったり、理解できなくても発動できる。
使用した代償は疲れるというそれだけ。だが、ダンジョンにおいて疲労は1番の敵ともいえるものだ。だから僕はあまり使用しないようにしている。聞き取れなかったり理解できなくても使えるけど、聞こえる範囲でないと発動できないからダンジョンに「ダンジョンコアを破壊しろ」と言って踏破した扱いにする、みたいなズルはできない。
持っている銃は僕の魔力を弾にしているもので、僕の魔力が尽きない限り弾切れになることはなく、込める魔力になって威力を増すこともできる。
これをメイン武器にして次々と卵のモンスターを撃ち殺していく。マナリングで魔力は回復しており、いまは回復量が消費量を上回っているため気にせずに撃ち続ける。
周囲のモンスターを全滅させるとドロップ品があったためそれらを回収する。
その中に依頼と思われる機密情報の入ったUSBがあった。中を確認することはできないが鑑定は行うことができた。それを見てアイテムボックスにしまう。
これで、依頼自体はクリアした。が、被害が出る前に攻略して消滅させる必要があるため攻略は続ける。
探索してみたが、ここは見た目通り洞窟で、ダンジョンにあるような階段は存在せず、坂道で降りたり登ったりするが1層しかないダンジョンになっているようだ。
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